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迎えに参りました

「お前は誰だ・・」

痛むお腹を押さえながら俺は声を絞り出した。

さっきまで蓮奈と次の予定を立てながらダラダラと喋っていたのがずっと前の事のように思える。

「そんなに身構えなくても大丈夫です。私は貴方の敵ではないですから。」

敵?敵ってなんだ?何かと戦っているのか?色々な思考が頭の中を駆け巡った。それもその筈だ。

このお腹の痛みは尋常じゃない。俺に出産の経験はないが、陣痛とはこのことを言うんじゃないのかとさえ思った。そのうえ、扉一つ挟んだ先に誰かが立っていて女性の声で淡々と意味不明なことを語りかけてくるのだ。まさに泣きっ面に蜂 四面楚歌といった具合だ。

どうすりゃいいんかね 俺はよお・・

「私は只貴方に来てもらいたいだけです。私達の住む世界ファルテシモに。」 

父さん 母さん どうやら僕もうダメみたいです・・あまりの痛みに耐えられず幻聴が聞こえだしました・・ごめん蓮奈・・俺どうやら映画館にはいけないみたいだ・・

幻聴じゃありませんよ。

ああ・・また聞こえた・・もうだめだあ・・おしまいだあ・・俺の脳内に直接語り掛けてくる・・

そうです 今は貴方の脳内に直接語り掛けています。

・・ほんとに?

はい 私とは直接話さなくても意識するだけで会話ができるのですよ。

どうやらこいつは本当に現実の人間じゃないのかもしれない。俺の額には汗が滲んでいた。

じゃ、じゃあよお・・このお腹の痛みもお前が治してくれるよな・・その異世界なんちゃらの能力を使って・・

可能です 私は世界の門番兼管理人ですから。

今すぐ・・頼む・・

はい。

するとあれ程苦しめられていた腹痛がすっとおさまり、体調が元通りになった。

そして俺は恐る恐るトイレの扉を開け目の前に立っている女性を見た。

凄い美少女だった。本当にこの世界に存在しているのかわからない程の美しさだった。

艶のある長い黒髪で、目は少し吊り目。身長は蓮奈より少し低いがそれでもスタイルは抜群で・・

胸も大きかった・・なんだよ・・男なんだからそれくらい見るだろ・・

その美少女は凛とした眼差しで俺を凝視していた。痛いくらいの視線に耐えられなくなり、俺は視線を逸らした。

「どうして視線を逸らすのですか?」

「・・なんとなくだよ」

「もしかして恥ずかしいのですか?まあ当然といえば当然かもしれませんね。私は美しいですから。」

なんだこいつ・・意外とめんどくさい奴かもしれないぞ・・

「何か思いましたか?貴方の意識したことは私にも伝わるのですよ?」

本当にめんどくさい。出来れば関わりたくなかったけれど異世界なんちゃらの話は少し興味深かったので話を聞いてみることにした。俺はアニメ好きだし異世界系のはよく見てるんだ。

「さっきのさ・・異世界なんちゃらの話・・」

「はい。それがどうかしましたか?」

「何で俺なの?」

「抽選です。」

耳を疑った。

「もっと他にあるだろ・・凄い能力を秘めているとか・・」

「ないです ない」

二回繰り返しやがった。俺の心は繊細なんだ。そんな突っぱねるような言い方は傷つくぜ・・なあ?

「で、異世界で俺は何をすればいいの?」

単刀直入に聞いてみた。だってそうだろう?いきなり貴方は選ばれたって言われてはい、そうですか

じゃあ異世界行きましょうとはならんだろ。

「貴方は私達の住む世界を救うのです。」

出たよ。これじゃ怪しげなセールス販売と一緒だ。このままだとマジで何かヤバいのに契約される・・

そう思った俺の頭は瞬時に一つの結論にたどり着いた。

逃げよう。俺は一目散に逃げだした。

「今日の夜11時に貴方を迎えに参ります。」

何か聞こえた気がしたが多分気のせいだろう。

トイレの外では蓮奈が怒った顔をしながら仁王立ちで立っていた。

「おっそーい!今何分だと思ってるの?トイレ長すぎ!」

「いいから来い!逃げるぞ!」

俺は蓮奈の手を掴んだ。

「に、逃げるって、ちょ、シュウーー!」

学部棟を飛び出して、大学の校門の外に出た。ここまで来たらひとまず安心だろう。

「はあ・・はあ・・撒いたか・・」

「ちょっと・・ほんとに・・意味がわからないんだけど・・」

そりゃそうだ。長いトイレを待たされた挙句いきなり手を引っ張られ大学の外まで走らされるんだから・・

「・・説明すると混乱するかもしれないけど落ち着いて聞いてくれるか?」

「何よ・・私大概な事には驚かないわよ?」

そういって蓮奈は鞄からお茶を取り出して飲んだ。おーいお茶 言っている場合ではない。

「男子トイレにさ・・めちゃくちゃ美少女がいた。」

蓮奈は10秒ぼうっと俺の顔を見つめた挙句口を開いた。

「は?」

この反応は予想通りだった。

「蓮奈がそう言うのもわかる。俺も現実だと思えなかったしな。」

「それでーその美少女さんはシュウの前に何で現れたんですかあー」

如何にも話を信じていないような口ぶりだ。

「俺に異世界に来いって・・世界を救ってほしいって・・」

いきなり蓮奈は笑い出した。

「あはは!な、なんでシュウなのよ! 特別何か優れた特技があるわけじゃないのに(笑)」

「・・抽選らしい」

「ちゅ、抽選って!もっとまともな選び方はなかったの(笑)異世界の人も適当ね(笑)」

くう言ってくれるぜ・・まあ誰に行っても信じてくれるわけないわな・・あんなこと・・

「まあシュウは少しアニメを控えるべきね。アニメばっか見てるから現実とアニメが区別できなくなってるのよ。」

随分と辛辣な言葉だ。マイガラスハートがブレイクしそうだよ。

「気を取り直して映画見に行こ?たまにはリフレッシュも大事だよ!」

そういって蓮奈は駅の方へと歩いて行った。

あれは本当に幻覚だったのか?それとも・・

「お、おい蓮奈待てよ!」


10時45分か・・

映画館での映画鑑賞が終わりランチを食べ、午後の講義を受けた後帰路に着いた俺は未だにあの出来事が頭から離れずにいた。

「今日の夜11時に貴方を迎えに参ります。」

んなわけねえよな・・アニメじゃあるまいし・・

でもどこか期待している自分がいるのも確かだった。

俺は布団に横になると、携帯のメールを確認した。

未読 1件

蓮奈からだ。 「今日のシュウは何かおかしかったからきちんと睡眠をとること! アニメ見てないで早く寝なさいね! 明日も1限だから遅刻厳禁!」

ったく・・母親かよ(笑)まあでも心配してくれてるんだな

ありがとう おやすみっと・・送信。

ふぅ・・今日は疲れたな・・色々なことがあったけど何だかんだ楽しい1日だった。明日は・・

俺の脳が体を休めようとするモードに入るその時だった。

「11時になったので予告通り迎えに参りました。」

ああ これは現実なんだ。





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