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「そうだ。あれからますます塔子がリアルになってきて…」
そこで村松が苦しそうに咳き込んだ。
「おい、大丈夫か?」
「お互いに触れ合えるまでになった…キスしたり…それ以上だって…塔子は完全に現実の人間になったんだ…」
「何だって?」
「塔子が居るから他の出逢いは要らなくなった…幸せになれると思った…」
「村松! 聞こえてるのか!?」
「だが…行き過ぎたんだ…妄想が強くなりすぎて…塔子がどんどん生き生きして…俺が…俺が…」
「おい!! 意味が分からないぞ!!」
僕は和美への配慮も忘れ、思わず大声を出した。
村松の声が今にも消え入りそうだったからだ。
「俺が消え始めた…もう半分以上、消えてしまった…」
「何を言ってる!? しっかりしろ!!」
「塔子の方が本当になってしまった。俺は空っぽになって…柏木…さようなら…俺を忘れないで…くれ…」
電話が切れた。
すぐにこちらから、かけ直す。
村松は出ない。
僕は立ち上がった。
「出かけてくる!」
不安そうな和美にそう言って、部屋を飛び出す。
駐車場へ走り、車に乗り込む。
エンジンをかけて、30分かかる村松のマンションに車を走らせた。
村松が家に居るという保証はない。
でも、じっとしていられなかった。
さっきの電話の内容からすると、村松は完全に錯乱している。
塔子が実在する女なのは間違いない。
僕は電話で塔子と話した。
それなのに村松は塔子が妄想の産物だと言っている。
その時点で村松の言動はおかしい。
極めつけは「自分が消える」と言っていたことだ。
村松は精神的に、かなり危険な状態に違いない。
僕の頭を嫌な想像がよぎった。
まさか。
ドラッグという可能性はないだろうか?
いやいや、村松はそんな男じゃない。
そう信じたい…。
僕は村松のマンションに着いた。
オートロックの入口をたまたま中に入るマンション住人の青年の後ろに付いて通り抜ける。
青年と離れ、エレベーターに飛び込んだ。
村松の部屋がある3階のボタンを連打する。
扉が閉まり、エレベーターが上昇するが、ひどく遅く感じてイライラした。
やっと着いた。
エレベーターを出て、村松の部屋の前に立つ。
表札が出ているし、以前にも訪れているから、絶対に間違いない。
僕はドアチャイムを押した。
頼む、無事で居てくれ!!
「はーい」
僕は、ギョッとなった。
女の声だ。
ドアが開く。
防犯用のバーが付いていて、完全には開かない。
小柄でショートヘアの、美人というよりはかわいらしい若い女が顔を出す。
「どちら様?」
女が怪訝な顔で訊いた。




