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今すぐ、こちらからかけ直そうかとも思ったが、村松は熱で寝込んでいるから、また塔子が電話に出るだろう。
それに。
何というか後日、村松と話が出来たとしても何らかの形で塔子に伝わってしまい、ややこしくなるではないか?
そう考えると、この件に積極的に関わるのに二の足を踏んでいる自分が居た。
そして実際、僕から村松に連絡はせず、気がつくと3ヶ月が過ぎていた。
日々の忙しさで僕は村松を忘れた。
否。
そう言うと嘘になる。
頭の隅に、いつも村松は居た。
あれから村松がどうしているのか?
電話をかけてきた塔子とは、いったい何者なのか?
本人が言う通り、本当に村松の恋人なのだろうか?
いくつもの疑問が常に頭の中を駆け巡っていた。
けれど、僕はそれを無理矢理、抑え込んだ。
電話がかかってきた以上、塔子は実在する。
それは間違いない。
ということは村松に接触するのは、再び塔子を刺激してしまう可能性がある。
電話口で声高に話す塔子の声を思い出すと、げんなりしてしまう。
また、あんな風に怒られるのは避けたい。
その思いが村松について考えるのを保留させていた。
他に考えるべきことがあるはずだと。
実際、仕事や和美との生活で僕の毎日は充実していたから、村松については上手く後回しに出来た。
だけど、あの日。
村松と最後に逢って3ヶ月が過ぎた、あの日。
僕のスマホが鳴った。
仕事が終わり、家で和美の手料理を食べ終わったばかりだった。
僕はスマホの画面を見た。
村松からだ。
僕は、ぎくっとした。
避けていた案件が、ついにやって来た。
まさか、また塔子じゃないだろうか?
台所で洗い物をしている和美の後ろ姿を見ながら、僕は電話に出た。
「もしもし、柏木!?」
僕はホッとした。
村松の声だ。
ひどく慌ててる。
「どうした?」
「俺はもうダメだ…」
「何だって?」
今度は僕が慌てた。
和美が洗い物の手を止めて、心配そうにこちらを振り返る。
「俺はもう居なくなる」
村松の声が弱々しくなった。
居なくなる?
何かあったのか?
僕は動揺が声に出ないよう、必死に抑えた。
和美を安心させるために、笑いかける。
「村松、どうした? ちゃんと説明してくれ」
「塔子だよ」
「塔子?」
嫌な予感がした。
急に身体が熱くなってくる。
全身から、じっとりと汗が出てきた。