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消失  作者: もんじろう
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5

 僕は意表を突かれて思わず黙った。


 誰だ?


「私…」


 しばらくして、女が再び喋り始める。


「塔子といいます。(たけし)さんとお付き合いしている」


 毅は村松の名前だ。


 いや、それよりも…何だって!?


 今、この女は塔子と名乗った。


 村松が妄想した幻の彼女の名だ。


 急に口の中が乾いてきた。


 背筋が、ぞくりとする。


「こ、この携帯…村松の…」


 僕は何とか疑問を口にした。


「はい。彼、今日は熱が出てしまって。仕事はお休みしました。今、寝てます。あ、看病は私がちゃんとやりますので、ご心配なく」


 塔子と名乗る女はスラスラと流暢(りゅうちょう)に話した。


 何だ、これは…?


 まさか村松の妄想の女が…いやいや、そんなバカな!!


 じゃあ、この塔子を名乗る女は、いったい誰なんだ?


「実は」


 塔子が続けた。


「どうしても柏木さんに言いたいことがありまして」


「………」


「昨日、毅から聞きました。柏木さんが私と別れるように勧めたって」


 これは…。


 もしやイタズラなのか?


 村松が同僚の女性に頼んで…いや、村松はこの手のイタズラはしない。


 村松がこんなことを頼めるほど親しい女性が居るとも思えない…。


「いくら毅の友達でも、ひどすぎます。私は真剣に毅と付き合ってます! 彼を愛してます!!」


 電話口で声を荒げる彼女の声を聞いていると、僕の頭にもうひとつの可能性が浮かんだ。


 村松は昨日、塔子が妄想の産物のように言っていたが、本当は現実の彼女が居たのではないか?


 その彼女、塔子が昨日の僕の話を聞いて、頭にきて電話をかけてきた?


 いやいや…。


 それなら何故、現実の彼女を妄想だなんて言う必要がある?


 素直に僕に「彼女が出来た」と報告すれば良いだけでは?


「だから2度と」


 塔子の口調は強くなって、僕を責めるような色を帯びてきた。


「毅に変な事を言わないでもらえますか?」


「あー」


 僕は相手の圧力に押されて、たじたじになった。


 ただ、声を出すだけで「はい」とも「いいえ」とも言えない。


 するとそれを不服に感じたのか、塔子の声がさらに力強く大きくなる。


「約束してもらえますか?」


「は、はい」


 思わず、そう答えていた。


 有無を言わせない迫力が塔子の声にはあった。


 もちろん、そんなはずはないのだけれど、村松が言っていた妄想の存在とは全く思えない、はっきりとした意思を感じさせる声だった。


 僕が無言でいると、そこで電話が切れた。


 僕は呆然とスマホ画面を見つめた。


 いったい何だったのか?


 正直、よく分からない。

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