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「そこからは、どんどん会話が増えた。塔子が家に来て半年弱かな? もうすっかり落ち着いてるよ。お互いいっしょに居るのが当たり前みたいな感じ。空気みたいな?」
何を言ってるんだ?
本当はそんな女は居ないじゃないか!
僕は幻の女性が居ると思い込んでその実、独りでぽつんと部屋に座っている村松を想像して、胸が痛くなってきた。
僕は村松にその妄想を辞めるように言った。
これ以上は危険だと思ったからだ。
村松がひどく遠くへ行ってしまうような恐怖を感じた。
「ええ!?」
僕の言葉に村松は顔を曇らせた。
「でもなー」
頭をポリポリと掻く。
「もう本当の人間みたいになってるからなー。せっかくここまでリアルになったし。現実の出逢いがあるまでだから…別に無理に消さなくても良くないか?」
僕はため息をついた。
結局、その日は妄想を辞めると約束させられずに村松とは別れた。
ワンルームマンションに帰った僕は、酔い醒ましの水を出してくれた和美に村松の「彼女」の話を聞かせた。
「うそー」
和美は最初笑ったが、僕の真剣な顔を見て、何ともいえない中途半端な表情になった。
そりゃそうだ。
村松に「塔子」の話をされた僕も、今の和美と同じような顔をしてたに違いない。
「ちょっと心配だね」
和美の言葉に僕は頷いた。
「別に妄想するのは悪くないが…さすがに行き過ぎだろ?」
「そうねぇ」
和美が眉間にしわを寄せる。
「村松さんの真面目さやメンタルの強さが、かえって幻の彼女に味方してしまってるのかも。そのうち、現実との境目が分からなくなっちゃうかも」
「おいおい、怖いこと言うなよ」
「ごめん、ごめん」
和美が僕の手に自分の手を重ねた。
「でも、いくら何でもその彼女と触れ合ったりは出来ないだろうから…最後には飽きるんじゃない?」
「そうだと良いけどな…」
何か妙な胸騒ぎがした。
次の日の昼休み。
休憩室で和美が作ってくれた弁当を食べ終わった僕のスマホが鳴った。
村松からだ。
僕は休憩室から非常階段に行き、電話に出た。
「もしもし、どうした?」
答えがない。
「おい、村松?」
「あの…」
女の声がした。