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僕は驚いた。
何度も応援に行って観た、村松のレスリング試合での不屈のメンタルを知っていたからだ。
あんなに強い肉体と精神を持つ村松の口から、まさか「諦める」という言葉が出ようとは思いもしなかった。
「おいおい」
僕は思わず、咎めるような口調になった。
「諦めるのは早いだろ」
村松は首を横にゆっくりと振った。
その表情は暗い。
強面が、さらに怖く見える。
「でもな」
そう言った村松の顔が突然、パッと晴れ渡った。
「代わりと言うと何だけど」
村松が微笑む。
「最近、寂しさを紛らわせる方法を思いついた」
「え!?」
村松の話の思わぬ展開に、僕は激しく戸惑った。
「頭の中で彼女を妄想するんだ」
「は?」
僕の口は開いたままになった。
「けっこうこれが楽しくてな」
村松が照れくさそうに笑う。
「だ、大丈夫か!?」
慌てる僕に、村松は右手を前に出して「まあまあ」という顔をした。
しかし、こっちは余裕なんてない。
付き合いが長い友達が突然、おかしなことを言い出したら、誰だって心配になるだろう。
僕は学生時代から自分とはまるでタイプの違う村松を尊敬していたし、羨ましく思うことも何度もあった。
立派な肉体と運動神経。
性格だって男気があって優しい村松は少々強面だろうと、いつかは相応しい女性と巡り逢う、そう思っていた。
なのにまさか、現実の彼女を諦めて…妄想…妄想だって!?
何を言い出すんだ!?
「そんな顔するなって」
村松が僕をなだめた。
「もちろん、自然な流れの出逢いまで諦めたわけじゃない。恋愛の『れ』の字も無かったお前だって、縁があって和美ちゃんと同棲までしてるんだからな」
「………」
「ただ、必死に『彼女、彼女』って言ってるのも疲れてきた。だから運命の出逢いが来るまでの遊びみたいなもんだよ」
「………」
「1人で居るときに彼女が居ると想像するんだ。コツはあんまりリアリティーが無さ過ぎる設定にしないこと」
「?」
「例えばハリウッドスターとか有名女優とかにすると、やっぱり無理がある。『そんなバカな』って我に返るんだ。だから現実味のある女性にする。高校の同級生だった娘。ルックスは美人じゃないが、そこそこ愛嬌がある。小柄で元気…って感じかな」
「それで寂しくなくなるのか?」
僕は正直、呆れていた。
そんなことで気が紛れるとは思えない。




