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Beloved Person  作者: タカ
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4話

パールスはユートの相談内容を聞くと紅茶を一口飲むと机の上に置いて目を瞑る。

考えをまとめる時に目を瞑るのはパールスの癖だ。どうやらパールスにもどこか思うところがあるのだろう。

考えがまとまったのかパールスはゆっくりと目を開ける。


「そうだねぇ…。私としてはまた元の二人に戻ってほしいが」

「元の二人というのは?」

「また笑顔で笑いあえる二人ってことだよ。次期領主と使用人としてはおかしな関係かもしれない。だが、執務時間後までその関係にこだわる必要はないと私は思うよ」

「私も同感です。キース様はマールと元のように笑いあいたいと思っているようです。ですが、マールのほうがどうも使用人としての立場以外ではキース様と接しないようで…」

「マールは一度決めたことは頑なに止めようとはしない子だからねぇ…。何がマールをあれほど変えたのか不思議でしょうがないんだ、私は。急にあんな風になってしまって…」

「私がパールス様に力になってほしいことはそこなのです。私からではちょっと聞きづらくてパールス様にお願いしたいのです」


ユートの言葉にパールスはまた目を瞑る。

確かにキースとマールの今の関係はあまり良くないと思う。

キースがマールに事あるごとに話しかけたりしているのをよく見かける。だが、マールがそれに対して冷めた、といった表現はおかしいかもしれないがあまり反応を示さない。

幼馴染としての二人の関係は最早無くなってしまったといってもいいだろう。

オータムやメイも口には出さないがマールのことを気にしていることをパールスは感じている。

執務時間は別として、それ以外ではなんとか元の関係に戻ってほしい。

元のように二人で楽しそうにいる光景が見たい。その光景はきっとパールスやユートだけなく、オータム達も望んでいるはずだ。

パールスは目を開けると笑顔で頷く。


「分かった。どこまでできるか分からないが、マールに少し探りを入れてみようじゃないか」

「ありがとうございます」

「やっぱりあんたも二人の兄貴的存在だったから気になるのかい?」


パールスのからかうような言葉にユートから苦笑いが零れる。


「…まぁ、そうですね。あんた『も』ってことはパールス様もですよね?」

「もちろんそうさ。小さい頃の二人は本当に仲が良かったからねぇ…。できれば元に戻ってほしいとはずっと思っていたんだよ」

「良かった…。小さい頃の二人を知っていてなお且つマールに聞けそうな方がパールス様以外に思い浮かばなくて」

「それで私に来たのかい。まぁできるだけやってみるさ」


ユートはそれからパールスと少し二人について相談をしてから使用人室から出て行った。

残ったパールスがカップを片づけていると庭の水やりを終えたマールが戻ってきた。


「パールス様、庭の水やり終わりました」

「ご苦労さん。次の仕事はなんだい?」

「洗濯物の取り込みです」

「そうかい。なら、まだ取り込むには早いだろ?少し休憩していくといい」

「はい。他の皆さんはまだ何か仕事中ですか?」

「そうだよ。掃除やシーツの交換をしているからもう少し時間がかかるだろうね」

「そうですか」


マールはパールスの言葉通り椅子に座ってゆっくりと窓の外に目を向ける。

窓から入る風がとても気持ちがいい。マールの長い髪を風がゆっくりと揺らす。

気を抜いたら眠ってしまいそうな、そんな陽気だ。

カップを洗い終えたパールスはマールの隣の椅子に座る。


「そういえば…マール」

「なんですか?」

「今年はいつごろお墓参りをするんだい?」

「…まだ決めてはいないんですが、来週あたりにでも行こうかと思ってます」

「なら、その予定で仕事を割り振っておくよ」

「すいません…。毎年この時期に休みを頂いて」

「何言ってんだい。あんたはお墓参り以外休まないじゃないかい。もっと休んでいいんだよ?」


パールスの言葉通り、マールは使用人として正式に働き出す15歳からお墓参り以外で休んだことはない。

お墓の掃除などがあるためお墓参りは二泊三日の日程で毎年行われる。

それ以外は風邪などの病気を外すと毎日使用人としてマーリッヒ家で働いている。

何度もパールスが『休んでもいいんだよ?』と言うが『働いてるほうが楽しい』と言って休もうとしない。

他の使用人はパールスを含め、旅行や家庭の用事などで休んだりしている。

マールには何か休みたくない理由でもあるのだろうか。

もしかしたら、そこにも何か問題があるのかもしれない…。

パールスがそんなことを考えているとマールは笑顔で席を立つ。


「大丈夫です。私そろそろ行きますね」

「あ…」


パールスが声をかける前にマールは足早に使用人室を出ていく。

まだ洗濯物を取り込むには早いので、恐らくこの場にいたくなかったのだろう。

パールスは椅子に座ると一つ溜息をついた。

マールに休みのことや給金のことを聞くといつもこうやってその話題の追及を避けるかのように場から遠ざかる。

それまでは和やかに話しをしているのにも関わらず、急に態度が変わる。

あまり触れられてほしくない理由があるのかもしれない。

先ほどのユートとの会話を思い出す。

休みや給金の話しでこれだ。

恐らくこれ以上にキースとの関係について聞かれるのは嫌に違いない…。

パールスは再度溜息をついて、どう切り出すかを考えだした。

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