28話
キースとマールが新屋敷の中に入ると、カーネルが玄関を少し進んだところに立っていた。
「カーネル、父さん達は?」
「オータム様の部屋にいらっしゃいます。モーリス様もご一緒です」
「そうか。分かった」
キースが先に歩き、少し後ろをマールが歩く。
カーネルとすれ違う時にマールが軽く手を振ると、カーネルも笑顔で手を振り返す。
「あ、そうだ…」
少し歩くとキースが思い出したかのように立ち止り、カーネルに指示を出す。
「カーネル、悪いけどパールスに伝言を頼めるか」
「かしこまりました。内容はどのようなものでしょうか?」
「子供達の部屋決めが終わったら、父さん達の部屋に来るように伝えてくれ。それと、アークも一緒に来るように」
「アーク…ですか?」
「子供達のリーダだ。今ならパールスと一緒にいるはずだから、すぐに分かる」
「そうですか。かしこまりました」
カーネルはキースに一礼すると、またマールに軽く手を振ってからパールス達がいる旧屋敷へと歩き出した。
キース達は、カーネルを見送った後連れだってオータム達が待っている部屋へと向かう。
部屋の中に入ると、オータムとメイ、それにモーリスが和やかに談話を繰り広げていた。
キース達に気付いたオータムが二人に声をかける。
「もう部屋は決まったのか?」
「いや、アーク…子供達のリーダに任せてきた。パールスにも手伝ってもらうようにしてるから大丈夫と思う」
イスに座りながら、キースが答えマールはキースの隣に腰を降ろす。
二人が腰を降ろしたのを確認してオータムが話しだす。
「さて、とりあえずキース達も来た事だしこれからのことを決めて行こう」
「これからのこと…ですか?」
オータムの言葉にマールは意図を掴めないのだろう、オータムに聞き直す。
オータムはマールの顔を見るとニッコリと笑う。
「そう。君とキースの結婚について色々と決めて行かないとな」
「あ…はい」
オータムから出た『結婚』という言葉にマールは少し恥ずかしそうに俯く。
それを見てオータムは少し意地悪そうに聞いてみた。
「おや?マール、君はキースと結婚したくないのかい?」
「い、いえ!そんなことはないです!…あ」
オータムの意地悪な問いにマールが立ち上がり大声で反論する。
だが、その反論を聞いて質問者のオータムだけでなくメイやキース、モーリスまでもが笑っている。
それを見て、マールはまた恥ずかしそうにイスに座る。隣に座るキースの顔を見れないのか、俯いたままだ。
メイは笑いながらも夫である、オータムを嗜める。
「あなた、マールが可哀想ですよ」
「そういうメイこそ笑っているじゃないか。さて、真面目に話すが…結婚とは言うが恐らくそれまでには一年はかかるだろう」
「一年というのは具体的に言いますと?」
オータムの言葉にモーリスが反応する。
結婚するまで一年はかかるという意味が掴めていないのだろう。
それが分かった、オータムはモーリスに顔を向ける。
「もちろん結婚までの準備もありますが、キースは領主として他の近隣領国に訪問して挨拶も必要になります。挨拶するために、マールには多少の礼儀を学んでもらう必要もある」
最初はモーリスに説明するように、そして後ろの方はマールへ指示を出すかのようにオータムが言うと、マールは少し不安げになる。
だが、オータムは笑って安心させるかのようにまた口を開く。
「そんなに心配することはない。使用人として働いていたこともあって、マールは礼儀は出来ている。使用人とは別に、領主の妻としての礼儀があるからそこだけお前に学んでもらう。まぁ、二週間ぐらいで身に着くさ」
「は、はい…」
そう言ってはみるが、マールはまだ不安そうだ。
どう安心させるかオータムが考えようとするとそれより先にキースが安心させるようにマールの頭に手を乗せる。
「大丈夫だって。お前だけで行くわけじゃなくて俺も行くんだから。俺が上手くフォローするさ」
「…うん」
キースの言葉を聞いて、少し安堵したのかマールの顔にも笑顔が浮かんだ。
それからその他の予定などを話していると部屋のドアがノックされた。
「どうぞ」
「失礼いたします」
オータムが促すと、部屋にはパールスとアークの二人が入ってきた。
パールスは迷うことなく部屋の下座にあたる位置に立つが、アークはどうしたらいいのか分からないのか立ったままだ。
「アーク、空いている椅子に座ればいいから」
「分かった」
キースが指示を出すとアークは頷き、迷いながらも空いていた椅子へと座る。
座ったのを確認してから、オータムがアークに声をかける。
「君がアークだね?」
「は、はい…」
「私はオータム。君の事はキースからよく聞いているよ」
「そ、そうですか…」
アークは緊張しているのか、受け答えもいつもと少し違う。
オータムには現領主としてきちんとした態度で接しないといけないとアーク自身が考えているのかもしれない。
オータム自身は子供達に対してそんなことは望んではいないが、仕方ないのかもしれない。
これから一緒に暮らしていく中で少しずつ距離を縮めて行く必要があるだろう。
「俺の時と随分態度が違うじゃないか」
「うるさい…。それよりも俺を呼んだ理由は?」
キースが少しからかい気味にアークに話しかけると、今まで通りの反応が返ってきた。
オータムと同じような反応をされるかもしれないとキースは少し心配していたが、今まで通りで少し安心した。
そして、アークからの質問に答えた。
「あぁ、そうだ。アーク、庭に広い公園があるのは話したな?」
「新しく作ったってやつ?」
「そう、それだ。あの公園は、お前たちだけじゃなく街の子供達も安全に遊べるように作ったんだ」
「…で?俺を呼んだ理由は?」
キースの話から未だに自分が呼ばれた理由がアークには分からなかった。
公園を作ったのと自分が呼ばれたのにどういう関係があるのか…。
キースは少し頷いて、答える。
「お前には少しの間その公園の管理をしてもらいたいんだ」
「管理?」
キースが言った言葉の意味が分からないのだろう、アークが聞き直してきた。
キースはなるべく分かりやすく説明する。
「さっきも言った通り、街の子供達もここに遊びに来る。だから、子供達が仲良くなるようにお前が橋渡しをしてほしい。そして、喧嘩をしないように見張って欲しい」
「なんでそんなことを?」
「街の子供達と仲良くなれば、その子供の親や、親の知り合いと仲良くなったりと交流の場が拡がる。そうすれば、大きくなった時に仕事を紹介してもらえるかもしれないだろ?それに、遊び相手は多い方が良い」
「そりゃ…まぁ…、俺もそう思う」
キースのいうことにアークも納得はしたようだ。
「それをお前にお願いしたい」
「…分かった。そういうことなら俺も協力する」
アークが了承してくれたので、キースを始めマールやオータムにも笑顔が浮かんだ。
それから、公園について詳しい説明を聞くためアークはパールスと共にまた部屋を出て行き、残ったのはキース・マール・オータム・メイ・モーリスの5名だ。
キースは軽く一伸びしてから立ちあがる。
「さて、それじゃ俺は部屋に戻ります。モーリスさん、部屋へご案内しましょうか?」
キースがモーリスにそう言うが、モーリスは数秒考えた後に首を横に振った。
「いえ、まだオータム様とメイ様にお話がありますので」
「そうですか…。それは、私とマールも聞いたほうがよいお話ですか?」
「いえ、オータム様とメイ様に聞いていただきたいので…」
「分かりました。それでは、失礼します。マール、行こう」
「はい」
キースとマールは入口の近くで一礼すると、連れだって部屋の外に出て、自分達の部屋に向かって歩き出す。
歩きながらも二人はさっきのモーリスのことが気にかかるようだ。
「モーリスさんの話、なんだろうな」
「うん…。私達には聞かせたくない話みたいだけど」
二人にはモーリスの話の内容はまったくもって見当がつかない。
気になりつつ廊下を歩いているとキースの部屋についた。
キースが先に部屋に入り、マールが後ろから部屋に入る。そして、マールが部屋のドアを閉めるとキースが抱き寄せる。
「ちょっ…」
「やっと…、やっとお前をこうして抱ける」
マールが文句を言おうとするが、その前にキースの言葉に遮られる。
キースの言葉を聞いたマールも黙り込んでキースの体に手を回す。そして、口づけを交わした。




