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Beloved Person  作者: タカ
27/31

27話

孤児院を出て約一日半。

途中の街で一泊したキース達は既に、マーリッヒ家に続く丘を登っていた。

マーリッヒ家と街を繋ぐ坂道は歩いて10分程度。馬車なのでもっと早く着くだろう。

マールは先ほどからずっと窓の向こうに広がる、懐かしい風景に目が釘付けになっていた。

マーリッヒ家を離れてから1年以上たっている。懐かしく思うのも無理はない。

それを分かっているからか、同じ馬車に乗っているキースとモーリス、さらにアークはマールへ声をかけることはなかった。

そして、傾いていた馬車内もゆっくりと平行になり、停止した。屋敷に到着したようだ。

馬車の従者がドアを開ける。まず最初にキースが降りる。その後に、モーリス達も続く。

1年ほど前まで暮らしていた建物の前にマールが立つ。だが、懐かしさよりも驚きの方が大きかった。


「ね、ねぇ…」

「ん?」

「あの公園どうしたの…?」


マールは屋敷から少し離れた場所を指差す。

そこは、マールが暮らしてた時には林だった。だが今は、広い公園になっていたのだ。

その質問にキースは大したことないように答える。


「あぁ…作った」

「作った…」

「だって、子供達を遊ばせる場所が必要だろ?それに街の子供達にも遊ばせる場所がいるだろうって前から議題にあがってたし」


そう簡単に公園を作れるものなのだろうか…、キースの回答にマールだけでなく近くにいたアークも呆気に取られる。

モーリスだけはそれほど驚いてないため、キースはモーリスに声をかける。


「モーリスさん、今父を呼んできますので少々お待ちください」

「執務でお忙しいのでは?」

「今日は休みのはずなので暇しているはずです」


キースはそれだけ言うと屋敷の中へと入った。

その姿を見送ったモーリスの耳に他の子供達の声が聞こえる。

キース達が乗っていた馬車から遅れていた他の馬車が到着したようだ。


「マール。子供達をとりあえず一列に並べておきましょう」

「あ、そうですね。アーク、手伝ってね」

「…了解」


大きな建物、そして広い公園を見て子供達の中でも年少組は興奮しているようだ。

マールやアーク、それに年長者組で年少組を玄関の前に一列に並べていると玄関のドアが開く音がする。

ドアの方にマールが目を向けるとキース、オータム、メイ、ユート、パールスの5人がゆっくりと出てきた。

オータムやメイの顔が見れなかったマールは咄嗟に俯むいた。

すると、すぐ傍で二人の声が聞こえた。


「マール、顔を見せてくれないか」

「マール、お願い…」


その声を聞いてゆっくりと顔を上げる。

オータムは笑顔で、メイは目に涙をにじませていた。


「「おかえりなさい、マール」」

「オータム様…、メイ様…」


メイがゆっくりとマールを包むように抱きしめる。

すると、マールの目からも涙が零れメイに寄りそう。

その隣で二人を見守っていたモーリスにオータムが近づく。


「モーリス様ですね。キースの父のオータムです」

「このたびは私や子供達もお呼びいただき光栄でございます」

「いえ。私が言うのもおかしな話ですが、マールがお世話になっております。さて、長旅でお疲れでしょう、今日はゆっくりお休みください。…パールス」

「女中頭のパールスです。皆様をお部屋をご案内いたします。荷物が重い人いるかな?」


最後のほうは子供達に問いかけるようにパールスが言うと、年少組の子供達からは元気に「大丈夫」という答えが返ってくる。

その元気さにパールスの顔には笑顔が浮かぶ。


「皆、元気がいいわねぇ~。キース様やマールの小さい頃のようだわ」

「お姉ちゃん?」


パールスの呟きに子供の一人が反応する。

その質問にパールスは子供達の顔を見渡しながら、そして思い出すように話しだす。


「そうよ~。マールが皆のような小さい頃は元気過ぎてお転婆だったわよぉ」

「パ、パールス様。何をおっしゃるんですか!」


パールスの言葉に涙が止まったマールが詰め寄る。

だが、そんなマールにパールスは慌てることはない。


「おや、私は嘘をついた覚えはないよ」

「それはそうですが…何もそんな小さい頃の話を持ち出さなくても…」


マールは少し恥ずかしそうに俯く。

パールスにとっては軽いジョークのつもりだったが、マールにとってはそうではないようだ。


「少し冗談が過ぎたわね。さて、皆案内するから行こうか?」

「あ…パールス様。そういえば…皆はどちらに住まわれるのですか?」


マールはずっと疑問に思っていたことをパールスに尋ねてみた。

だが、パールスは「何を言っているのだ」という顔でマールを見返してきた。


「…マール、キース様から何も聞いてないのかい?」

「はい…。ずっと秘密だって言って教えてくれなくて」

「おやおや…」


パールスは呆れたようにキースに目を向けると、キースは悪戯が見つかったような子供のような表情をしていた。


「…内緒にした方が嬉しさも大きいかなと思っただけだよ」

「キース様がそうおっしゃるならそういうことにしときましょうか。じゃあ、ついておいで」


パールスは子供達に声をかけて歩きだすと子供達は各自の荷物を持ってパールスの後を追う。

そして、オータム、メイ、モーリスの三人は新屋敷の方へと入って行く。

キースとマールが子供達の後ろをついて歩きだすと、マールは向かっている方向に何があるのかを思い出す。


「…もしかして」


マールが呟きはキースの耳にも入っているが、敢えて何も言わなかった。

そして、パールスが向かった先にはマールにとっては思い出深い建物だった…。

だが、その外見はマールの思い出とは違い、新しくなっている。


「これって…」

「旧屋敷をリフォームしたんだ」


マールの呟きにキースは隣に立ち今度こそ答えた。

子供達がパールスに連れられて旧屋敷に入って行く中、マールとキースは外に立ったまま話を続ける。


「リフォーム…?」

「あぁ。新しく建物を建てると時間がかかる。それに、旧屋敷は俺と父さんが書斎として数部屋使ってただけだからすぐに作業に取り掛かれるだろ?後は、俺もここには思い出がいっぱいあるから、子供達にも同じようにここでいろんな思い出を作ってほしいと思ってな」


キースの言葉にマールも同じことを思う。

マールにとって、ここはキースと初めてあった場所でもあり、たくさん遊んだ場所だ。

もちろん怒られたりもしたがそれでもたくさんの思い出ができている。ここでこれからも子供達と新しい思い出は作れるなら作りたい。


「じゃあ…ここでアーク達は暮らすの?」

「あぁ。ここだとすぐに会えるだろ?」


それだけ言うとキースは子供達の後を追って旧屋敷の中に入っていく。

マールも後を追っていくと子供達はパールスからの注意を聞いていた。


「あ、キース様。部屋はどうしますか?」


キース達が入ってきたのに気付いたパールスが話しかけてきた。


「え?あぁ…、アーク。お前が決めろ」

「え!?俺が?」


キースは少し考えた後に、アークに指示を出す。

だが、アークは聞かされていなかったため驚きの声を上げた。


「当り前だろ。お前がこの中の代表なんだから」

「いや、でも…モーリスさんだって」

「駄目だ、お前が決めろ。いいな?」


キースの指示に渋々、そして迷いながらもアークは頷く。

それを見て、キースはパールスに声をかける。


「というわけで、部屋はアークが決める。パールスは部屋の大きさとかそういうのを教えてやってくれ」

「かしこまりました」

「マール、俺達は父さん達の所に戻るぞ」


キースはこちらのことをパールスとアークに任すと、マールを促してオータム達が待っているであろう新屋敷へと足を進めた。

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