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Beloved Person  作者: タカ
26/31

26話

キースは、書類を読みながら馬車に揺られていた。また、キースの乗っている馬車を先頭に後方にも数台の馬車が連なっている。

ふと書類から目を外し窓の外へと顔を向ける。何度かこの道を通ったため、見覚えのある道だ。

だが、これからはこの道を通うことはなくなるだろう。

キースが少しの間、物思いにふけっていると目的地が見えてきた。

目的地に着くと、キースは馬車を門の外に待たせて一人建物へと向かう。


「こんにちは」


キースが玄関を開けて、挨拶をすると奥から出て来たのはモーリスだった。


「キース様、よくぞいらっしゃいました。ですが、まだ少し準備に時間がかかってしまいますのでどうぞ中でお待ちください」

「そうですか…。それではそうさせていただきます」


キースが訪れたのはモーリスの孤児院だった。

一年近く時間がかかってしまったが、キースは今日マールを迎えに来たのだ。

だが、迎えに来たのはマールだけではない…。

モーリスも、ここに住んでいる孤児達も全員マーリッヒ家に迎えるために今日まで準備をしてきたのだ。

孤児院の中を歩きだしたキースがリビングを覗くと、子供達が集まっていた。その中の一人がキースに気付いた。


「あ、きーすさまだー」


その子供の声をきっかけに低年層の子供達がまずキースに走り寄ってきた。

そして、その後を少しずつ大人になりつつある子供達がゆっくりと近づいてきた。


「キース様、いらっしゃい」

「皆元気そうだな」

「まぁね」


この一年の間に子供達はキースを「様」付けで呼ぶようになった。

モーリスがキースの事を「様」付けで呼んでいるのに気付いた子供達がそれを真似するようになったのだ。

初めはキースは止めさせようとも思ったが、態度自体は「様」付けする前と後で特に変化が無かったためそのまま呼ばせるようにしていた。


「…あれ、アークはどうした?」


子供達の中にアークの姿が無いのに気付いたキースが尋ねると子供達は庭にいると教えてくれた。

キースは子供達と別れて、一人で庭へと出た。が、すぐには見つからなかったのでグルリと庭を周ってみた。

すると、庭に置かれているベンチに横になっているアークを見つけた。

そこに近づいていると、足音に気付いたアークが視線を向けてきて、キースの姿を確認すると体を起こした。


「うわ…」

「失敬な」


アークは少し座る位置をずらし、空いた場所にキースが腰を降ろす。

この一年でアークもまた、キースに対する接し方が変わってきた。

アークは既に年齢も15を越えており、体つきも少しずつ大人になってきた。それと共に、考え方も大人びてきておりキースに対する反抗心も当初に比べればかなり少なくなった。

キースへの話し方は素っ気ないものだが、それでも内心はキースの事を嫌ってない事はキース自身も分かってる。


「にしても、今日はいい天気だなぁ…」

「また分けわからないことを…」


キースは空を見上げる。

穏やかな風が吹いており、空の雲がゆるやかに流れて行く。

アークも文句を言いながらもキースと同じように空を眺める。そして、ゆっくりと口を開く。


「…なぁ」

「ん~?」

「本当に俺達もついて行っていいのか?」

「…今さら何を言うかと思えば」


自分の隣に座っているアークを見ると、空を眺めながらも少し顔は迷っているように見えた。


「前にも説明しただろう。俺の家は既に歓迎ムードだって」


孤児達にも既にマーリッヒ家に迎え入れることは説明をしている。

その時もアークは戸惑っていたが、なんとか納得してくれた。

それなのになぜ今さら話を蒸し返すのだろうか…。


「いや、だって…領主の家に俺らみたいな孤児がいたら迷惑じゃない…っつ!」


アークが言い終わる前に話が止まる。

というか、キースがアークの頭に軽くチョップを入れたため続けることができなかった。


「バカ言ってんじゃない。俺も父もそんなこと思ってないから、家に迎えようとしてるんだ」

「でも…」

「でも、じゃない。俺らがいいって言ってんだからお前らは気にする必要なんかないんだ。分かったな」


最後にアークを一睨みだけすると、、キースはベンチから立ち上がりアークを残したまま孤児院の中へと向かう。

取り残されたアークは、先ほどのキースの顔を思い出した。

初めて見るキースの顔。その顔には怒りと飽きれば入り混じってたように思う。

今までどんなにキースに反抗的な態度をしても、あんな顔を見た覚えはない。それほど、今の自分の言葉が気に入らなかったのだろう。

だが…自分達が領主の屋敷敷地内に住むことになれば、きっと周りからも色々言われるだろう。だから…住まない方がいいのではないか。

このことを、住むことが決まってからずっとアークは考えていた。だが、キースはそんなことを気にするなと言ってくれた。

きっとキースの事だ、アーク達が文句を言われれば守ってくれるだろう。キース自身の事を後回しにして…。

だからといって、今の自分に何ができるのかと聞かれれば…きっと何もできないだろう。

迷惑になるのではないかと思いながらも、それに甘えることしかできない自分。その無力感をアークは味わっている…。

だが、今の自分では下の子供達を守ってやれないが…いつかキースに変わって自分が子供達を守れるようになろう。

そして、どんな形でもいい。キース、そしてマールの助けに少しでもなろう。

そのことを心に誓い、アークはキースの後を追った。

一人で孤児院に戻ってきたキースは、マールの姿を探しながら廊下を歩いていた。

元々の出発予定時刻よりも既に遅れている。そろそろ出発しなければ今後の予定が崩れてしまう。

廊下を歩くキースの先に、ドアからカバンを持ってマールが出てきた。


「マール」

「あれ、キース。もう着いてたの?」


キースはマールに近づくと持っていたカバンに手をかけた。


「もうって…お前もう予定時刻よりも遅れてるぞ?」

「え!?嘘」


時間を気にしてなかったのか、マールは驚いている。

そんなマールの姿に軽く呆れながらも苦笑する。


「ほんと。荷物はこれでラストか?」

「これで終わり…かな」

「なら、子供達が待ってるから行くか」


キースが片手に荷物を持ち、空いた手をマールが軽く握る。

久しぶりに会った恋人だ。こんな少しの時間でも、触れ合いは大切にしたい。

その想いは二人とも一緒だ。だから、自然に手を繋いだ。

二人が子供達が待つリビングに行くと、アークも戻っており全員揃っていた。


「よぉし、全員いるな。モーリスさん、それでは行きましょうか」

「ええ」


キースがモーリスに声をかけ、モーリスは子供達に声をかける。

小さい子から順番に靴を履き、全員靴を履き外に出ると自然に一列に並ぶ。

今まで暮らしてきた孤児院ともお別れだ。10年近く住んでる子もいれば、2年という子もいる。

だが、ここで暮らしていた思い出はきっと皆一緒だろう。


「…皆、行こう。ここの思い出は大切だけど、きっとまた新しい思い出を作れる…いや、作ろう。また、皆で」

「「「うん!」」」


アークの言葉に子供達が答える。

そしてキースが用意してきた馬車へと乗り込むと新しく住むマーリッヒ家の屋敷を目的に、慣れ親しんだ孤児院を後にした。

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