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Beloved Person  作者: タカ
25/31

25話

キースが屋敷を出てから五日がたった。

オータムとメイは執務などをこなしながらも未だに帰ってこない息子を心配していた。

ユートからの報告では、現在マールが住んでいる孤児院までは二日はかからないはずだ。説得できて一緒に戻ることになればそろそろ戻ってきてもおかしくない。

だが、戻ってこないところを見ると上手く説得できなかったか、まだ会うことができていないのかどちらかだろう…。

できれば二人で戻ってきてほしい、それはオータムとメイ二人の願いだった。

執務を続けていると、オータムの部屋にパールスが駆け込んできた。


「オータム様、メイ様!」

「そんなに慌ててどうした?」


普段は女中頭として落ち着いた対応をするパールスがこんなに慌てたところは久しく見たことはない。

パールスがマーリッヒ家で働き出した時にはこういう場面をよく見かけた。そして、当時の女中頭によく怒られていた。


「あ、申し訳ございません。キース様がお戻りになられました」

「そうか…。では、行こう。キースは今どこに?」

「昼食を取っていないということですので、食堂で軽い食事を取られています」

「パールス…、マールは一緒でしたか?」


オータムが椅子を立ち上がり歩き出した後ろでメイがパールスに尋ねるが首は横に振られた。

キースの説得は失敗に終わったらしい。

メイは気落ちしているが、オータムは不思議に思った。

キースは父親のオータムから見ても頑固者だ。マールも頑固だが、それ以上にキースは頑固だと思っている。

そのキースがそう簡単に諦めて戻ってくるだろうか…。一度説得に失敗したとしても、何度も説得するはずだ。

何か事情があって一人で帰ってきたのかもしれない…、そう思いながらオータムは食堂のキースの元へと向かった。

オータム達が食堂に着くと丁度食事を取り終えたキースは食後のお茶を飲んでいた。

入口に立っているオータム達に気付くとキースはお茶の入ったカップを置き、一礼した。


「ただいま戻りました」

「うむ、無事でなによりだ。それで…マールは?」

「マールとは会うことはできました。ですが、一緒には戻ってこれませんでした」


キースの回答に、オータムの後ろに立っていたメイは『やっぱり』と言ったように悲しげに俯く。

だが、キースの顔をじっと見つめていたオータムはそんな風には思えなかった。

なぜならキースの顔からは残念と言った感情が汲み取れないからだ。

その理由が掴めなかったオータムだが、先にキースが口を開く。


「二人にお願いがあるんですが…」

「私達に?」


オータムの問いかけにキースは頷く。

そして、オータム達と共に入ってきたパールスにも声をかける。


「後、パールスにも聞いてほしい。それと、ここにはいないけどユートにも」

「ふむ…。なら、私の部屋で聞こう。パールスはユートと共に私の部屋に来てくれ」

「分かりました」


パールスは足早にユートを呼びに食堂を出て行った。

そして、残ったキース達は三人揃ってオータムの部屋へと向かう。

オータムの部屋へと着いた三人はイスに座ってパールスとユートが入ってくるのを待っていると、数分してから部屋がノックされた。


「入ってくれ」

「失礼します」


ドアを開けて、パールスとユートが入ってきた。

全員が座ってからキースは話しだす。


「食堂で父さん達には伝えたが、俺はマールと会うことはできた。そして、気持ちは伝えた」

「マールはなんと言ったんだ?」

「マールも俺の事を好きだと言ってくれた」

「ならどうして…マールは一緒じゃないの?」


メイの疑問は尤もだろう。

気持ちは通じあったということは今のキースの言葉からも分かった。

それなのにキースが諦めて一人で帰ってくることが不思議でしょうがない。


「実は…孤児院の子供達がマールにかなり懐いていて離すのが可哀想になって…」

「じゃあ、諦めるのですか?」


キースの言葉にユートが突っ込む。

だが、キースは笑いながら首を振る。


「まさか。そう簡単に諦めれるようなら最初から探しに行ったりしない」

「では、どうするのですか?」

「そこで皆に相談なんだ。俺に一つ考えがあって…」


そして、キースは今自分で考えた提案をオータム達に伝えた。

キースが伝えている間全員は静かにその考えを聞いた。


「…以上が俺の考えだ。皆の意見を聞きたい」

「だったら、近くの領下の街の子供達も遊べるようにしよう。それなら、子供達も友人を多く作れるだろう」

「そうですね。それでしたら、賑やかになるでしょうし」

「よし、とりあえず細かいところは進めながら決めるとしよう。ユート」

「はい。すぐに手配いたします」


キースはオータムから指示を受けるとすぐに部屋を出て行った。先ほどのキースの提案で必要となる手はずをするために街へと向かったのだ。

残ったオータム達は再度先ほどのキースの提案について確認を行う。


「それじゃあ、細かい事についてはゆっくりと決めて行こう」

「ええ。ですが、まず使用人達には説明した方がいいでしょう。説明は私の方からします」

「お願いいたします。メイ様のご都合がつく時間に集めましょう」

「なるべく早い方がいいでしょう。パールス、調整しに行きましょう」

「分かりました」


メイとパールスは、使用人室へと向かった。

全員が揃っている日で、なおかつメイが時間が取れる日を調整するには使用人室が一番便利だからだ。

そして、残ったオータムは頬をつきながらキースの顔をじっと見つめる。

それが嫌だったのか、キースは顔を顰めた。


「何…?」

「いや、お前が強引にマールを連れて帰ってこなかったのが意外でな」

「そりゃ…子供達からマールを離すのは可哀想過ぎたんだよ。泣かれてみたら無理だって…」

「それは厳しいな…」


キースの言葉にオータムも笑いながら同意すると、キースも笑ってしまった。

一通り笑った後で、キースは立ち上がった。


「悪いけど、俺少し寝るから」

「うむ。休める時にゆっくり休め。どうせまた無理して、マールに会いに行くんだろ?」

「まぁ…そのつもり」


キースは、それだけ言うとゆっくりと部屋を出た。

そして、今までの体の疲れを取るために自分の部屋へと向かう途中に旧屋敷が目に入った。

この旧屋敷では今まで多くの思い出を作ってきた。だが、これからもきっと思い出が作られていくことになるだろう。

これからのことを思うとキースの顔には笑みが拡がる。けど、そうなるかどうかはこれから次第だ。

一度気を引き締めキースは自分の部屋へと戻った。



それから一年ほど時間がたった…。

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