22話
キースの突然の乱入に子供達は敵意の視線を向けるが、キースは気にしていない。
それどころか、笑顔になって子供達に話しかける。
「何してるんだ?」
「…別にあんたには関係ないだろ」
子供達はキースの質問には一切答える気はないようだ。
だが、キースは関係なかったように子供達の足元に置かれているものを拾い上げる。
「…コマか。懐かしいな」
自分の手の中にあるものをゆっくりと自分の目と同じ高さに持ち上げる。
「これ、マールが教えたのか?」
キースとの問いかけに、隣に立っていたマールは首を振る。
「ううん、私が来る前から皆してたわ。近くに住んでいる方から教えてもらってるんだって。私も何度か一緒にしてるけど…」
「へぇ~…。悪い、紐貸してくれ」
キースは紐を持ったまま立っている、子供に手を差し出す。
子供は戸惑いながらキースの手に紐を乗せると、キースは手慣れた様子でコマに紐を巻いて行く。
そして、巻き終わったコマを足元に置かれている板めがけて一気に降り降ろす。
キースの手によってコマは勢いよく周り出す。それを見た、子供達の数人からは感嘆の声が零れる。
「すっげぇ!」
今まで見た中で一番キースが上手くコマを回せたのだろう、子供達の中でも幼い部類に入る子供はコマを夢中で見ている。
キースも子供達の上からコマを見て、一つ息を吐いた。
「久しぶりだったけど…上手く回ったようだな」
キースは安心と照れが混ざったような笑顔をマールに見せると、マールもニコっと笑った。
「私もこの前久しぶりに回したけど…、キースほど回らなかった」
「まぁ、小さい頃も俺の方が上手だったしな?」
キースとマールは小さい頃に、マーリッヒ家に勤めていた庭師にコマ回しを教わっていた。
コマ回しだけではない、メンコなど昔ながらの遊びを教わっていた。
そして、二人でよく勝負をしていた。先ほども言った通り、コマはキースの方が上手だった。
約10年のブランクがあったが体が覚えているのか、上手く回せることができた。
「っと…、さすがにもう止まるか」
キースが回し始めたコマの回転がどんどん遅くなった。そして、止まった。
子供達は残念そうに『あ~あ…』と声を零した。
「違う遊びをしようか?」
「うん!」
「マールも行くぞ」
キースのコマ回しを見たせいか、既に小さい歳の子供はキースと一緒に遊ぶ気満々だ。
どの遊びをするか話しながら子供達の手を引いて、キースは庭を歩いて行く。
だが、その他の子供達はどうしたらいいのか分からずに戸惑っている。
その子供達にマールは手を差し伸べる。
「ほら、皆も行こう」
「でも…」
「人数多い方が楽しいよ、きっと。…ね?」
マールが笑顔で子供達に声をかけると、さらに戸惑いお互い顔を見合わせる。
そして、その中の一人が歩き出すと釣られて他の子供達も歩き出す。
だが、一人だけ頑なに動こうとしない子供がいる。子供達のリーダであるアークだ。
アークはキースを遠くから睨むと、一人で孤児院の中へと戻って行った。
マールが後を追おうとするが、遠くからキースがマールを呼ぶ。キースの周りに子供達が集まっている。
まだキースとコミュニケーションが上手くとれていない子供が多いので、アークの事が気になり、孤児院に一度だけ目を向けたがマールはキースの元へと駆け寄って行った。
それから数時間後。
日が暮れてからも、キースは孤児院の中で子供達とコミュニケーションを取っていた。
元々社交的なキースは人から好かれやすい性格で、子供たちとも遊びながらも少しずつコミュニケーションが取れている。
冗談を言って笑ったり、遊びに夢中になり過ぎて手加減を忘れたため子供から怒られたりなどしているうちにキースと子供達の距離が縮まったようだ。
もしかして手加減を忘れたのはキースの計算なのかもしれない…、モーリスと一緒に夕食の支度をしているマールはキースの姿を見てそう考えていた。
だが、未だにキースがコミュニケーションが取れていない子供がいる。子供達のリーダ格であるアークだ。
キースももちろん気付いているだろうが、今は周りにいる子供達とコミュニケーションを取ることに集中しているようだ。
だが、ふとキースが子供の話をしているが、違うところをチラチラ見ているのにマールは気付いた。
キースの視線の先をマールも目を向けると、アークが部屋の外からキースの方を見ていた。
アークはしばらくの間キースを見ていたが、同じくアークを見ていたマールの視線に気づくと気まずそうに部屋から出て行った。
すぐにマールが後を追おうとするが、先にキースが立ち上がりアークの後を追って部屋から出て行った。
マールも気になって、キース達の後を追おうとするが、モーリスが引きとめる。
「マール、待ちなさい。アークの事はキース様にお任せしなさい」
「ですが…アークはキースの事をよく思ってない様ですし…」
「もちろんそれは私も分かるし、キース様も気付いていると思いますよ。ですが、キース様はそれを乗り越えなければ…」
「モーリスさん?」
モーリスは少し考え込むような仕草をする。それを見た、マールが話しかけると笑顔になった。
「いや、なんでもありませんよ。アークとキース様の話が気になりますか?」
「はい…」
「では、二人の話の邪魔をしない様に隠れてなさい。いいですね?」
「は、はい!」
マールはモーリスの言葉で笑顔になると、足音をたてないように急ぎながら二人の後を追う。
その姿を見て、モーリスは笑みをこぼすと、料理の支度を中断すると子供達がマール達の後を追わない様に子供達の元へと歩く。
マールは部屋を飛び出すと孤児院を歩き回り、キースとアークの姿を探す。
そして、廊下の角を曲がろうとするとどこかから何か話声が聞こえる。
廊下の角から覗き見るが二人の姿は見えない。ゆっくりと廊下を進むとある部屋のドアが半分開いているのに気付いたマールは部屋を覗くとキースとアークがいた。
近くの壁に寄り掛かるようにして、二人の会話を盗み聞くマールの耳にキースの声が聞こえた。
「お前が俺を嫌いになる理由はなんとなくわかる。だが、俺の話も聞いてくれないか?」




