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Beloved Person  作者: タカ
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2話

使用人室に戻ったマールは洗濯籠を元の棚に戻すと椅子に座り『はぁ~』と一つ溜息をついた。

それを使用人の中で一番偉い、女中頭のパールスが聞いていて声をかけてきた。


「おやおや…。まだ若いくせに溜息なんてついてどうしたんだい?」

「…パールス様」

「どうせまたキース様にちょっかいでもかけられたんじゃないのかい?」

「うっ…。その通りです」


マールの回答にパールスは『どうだ』と言わんばかりに胸を張る。

パールスはキースが小さいころからこのマーリッヒ家に仕えており、キースもパールスにはあまり頭が上がらないようだ。

もちろんマールがキースの遊び相手でマーリッヒ家にいたときのことも知っている。

二人には20の年の差があるがパールスにとってマールは妹のような存在になっている。

が、公私混同はしない。それがマールにとって有り難いことであり、パールスが女中頭になった要因でもある。


「ほら、いつでもそんな顔してないの。他にも仕事あるんだよ」

「…はい。それじゃあ行ってきます」


マールは使用人室を出ると廊下を歩く。

廊下を歩いていると前から現マーリッヒ家の当主、オータムが歩いてくるのが見えた。

マールが頭を下げて挨拶をするとオータムは笑顔で近づいてきた。


「やぁ、マール。なかなか話す機会はなかったが、元気かい?」

「はい。お気にかけていただきありがとうございます」

「いや…君がこの家に来てもう15年になるのか…」

「ええ…、本当にオータム様には感謝しております」

「君が道端で倒れていたときは本当に焦ったよ。…今年も行くのだろう?」

「…はい。やはり私にとっては今でも大事な人ですので」

「その気持ちは大切だ。パールスも分かっているはずだから気軽に声をかけてくれ。それでは私は公務に戻るよ」


オータムが去っていく後姿をマールは頭を下げて見送る。

頭を上げて窓から見える景色を見ながらマールは15年前、マーリッヒ家に来た時のことを思い出す。


 ・・・


マールは小さい頃は母親と二人暮らしだった。

父親はマールがものごころつく前からいなかった。

その理由をマールは知ることはできなかった。

マールが4歳になってすぐのことだ。

朝マールが起きたら母親がまだ眠っていた。いつもならもう起きているはずだ。

マールが母親を揺するが一向に反応がない。それから何度揺すっても起きることはなかった。

この事実がなんというかマールは分からなかった。ただ、『おかあさん』と何度も声をかけることしかできなかった。

その翌日。

雨が降る中マールは一人で歩いていた。誰か知り合いに助けを求めるためだ。

雨の中何時間も歩くが知り合いに誰一人出会うことなかった。

まだ幼かったマールにとって冷たい雨を浴び続けることに限界があった。

いつ気を失ったのかは分からない。だが、次に目を覚ました時は温かいベッドの中だった。

そして、心配そうにマールを除いている知らない人だった。


「気がついたかい?」

「…ここ、どこ」

「ここはマーリッヒ家というんだ。私の名前はオータム」

「…おー、たむさん」

「うん。君の名前は?」

「…まーる」

「そう、マールというんだね?」


オータムの言葉にマールはゆっくりと頷く。

オータムはマールが眠っているベッドにゆっくりと腰を降ろす。


「私が君を見かけたとき、君は倒れていたんだ。一体どうしてあんなところを歩いていたんだい?」

「…おかあさんが」

「おかあさん?君のお母さんがどうかしたのかい?」

「ずっとおきないの…。だれかしってるひと、いないかとおもって」

「…そう。なら、明日お母さんの所に行ってみよう。お医者さんも一緒にね」

「…ほんと?」

「あぁ、本当だ。だから、今はゆっくりお眠り」

「…うん」


その翌日。

マールはオータムと医者と一緒に自分の家に戻った。

まだマールは熱があったが医者も一緒だということもあり戻ることができた。

家の中にはまだ横になったままの母親…。

医者がゆっくりと母親に近づいて何かをしているがマールにはそれがなんだか分からなかった。

母親から離れた医者がオータムのほうに顔を向けるとゆっくりと首を横に振る。

オータムは顔をしかめると、マールと視線を合わせるようにしゃがむ。


「マール、よく聞くんだ」

「おーたむさん?」

「君のお母さんはもう…起きることはない」

「どうして?」

「…お母さんはお星様になったんだだよ

「おほしさま?おそらの?」

「うん。夜に光るお星様になるには人は寝たままにならないといけないんだ」

「おほしさまになったの?」

「そうだよ。お空からマールのことをずっと見てくれてるんだ」

「…ほんと?」

「あぁ、本当さ」


それから、オータムはマールの母親を手厚く葬ってくれた。

そこにはオータムの妻、メイの姿もあった。

オータムとメイが手を合わせて目を瞑っているのを見て、マールも二人の真似をする。

目を開けたオータムとメイは顔を見合わせるとお互い小声で何か話しを始めたがマールはよく分からない。

話しが終わったのか、オータムはゆっくりとマールに話し始めた。


「マール」

「…?」

「良かったら私達と一緒に暮さないか?」


オータムのその言葉にマールは頷いた。

それからマーリッヒ家に面倒を見てもらうことになった。

母親がいないのに加え、知らない人がたくさんいるマーリッヒ家に最初は馴染めなかった。

が、オータムの子供のキースと一緒に遊ぶことで少しずつマーリッヒ家に馴染んでいった。

マーリッヒ家の使用人達もとてもいい人たちで急に来たマールを可愛がってくれた。

一年に一回、オータムはマールを母親の墓参りにも連れて行ってくれた。

それが墓参りだと気付いたのはもっと大きくなった頃だった。

15になってからはマールは一人でお墓参りをするようになった。

一人の使用人として働き出したこともあるが、オータムが忙しい時間を割いてくれていたということが分かったからだ。

4歳でマーリッヒ家に引き取られたマールにとってオータムとマリーは両親と同じような存在だ。

二人にとってもそれは同じようでマールと一緒ではないにしろ、母親の墓参りをしてくれているようだ。

もう19になるマールを今でも温かく気にかけてくれているオータムに感謝の意を心に浮かべながらマールは仕事に戻った。

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