18話
「まずは…お前が聞いた話からいこう。俺が縁談を断っている理由にお前が関係しているってことを聞いたんだよな?」
「うん…」
「まぁ、その理由自体は間違ってないけど」
「え?」
「だから、俺が縁談断っている理由にお前は関係しているってこと」
キースの言葉にマールはやはりといった風に肩を落とし、顔を俯かせる。
自分がいたせいで…断っていたんだ。もっと、もっと早く出て行ったほうがよかったのかもしれない。
落ち込んでいるマールにキースは少し呆れながら声をかける。
「あのな…、お前絶対悪い方に考えているだろ?」
「だって、私が…気にかかる私がいたから断ってたんでしょ?」
「気にかかる…ねぇ。それってどういう風に受け取ってるんだ?」
マールは恐る恐る、そしてそれ以外に理由はないでしょといった感じで口を開く。
「…私が心配だからでしょ?」
「違うって。もっといい風に考えてみろよ」
そう言いながらキースは腰を上げると何故かマールの横に移動し腰を降ろす。
マールは戸惑いながら横にずれる。
「…何で横に?」
「いいからいいから。で?いい風に考えれるか?」
「…いい風って言われても」
キースの問いにマールはやはり詰まってしまう。
そんなマールを見ながらキースはつい苦笑してしまった。
「…そんな考えれないよ」
「まぁ、そりゃそうか。…あのな、ついお前を見てしまうのはだな…、その…なんつうか…」
これ以上マールに考えさせてもきっと答えは出ないだろう。
そう思ったキースは理由を言おうと思った。…が、いざ言おうとするとやはり恥ずかしい。
態度には出していたつもりだったけど口に出すのはやっぱり照れる。
そんなキースの態度にマールは不思議そうに首を傾げる。
「…そんな言いにくいの?」
「いや、言いにくいわけじゃないんだよ。ただ…その…恥ずかしくて」
段々声の大きさが小さくなり、最後の方は本当に呟くほどの大きさになった。
そして、何故か頬を赤くしている。
それをまた不思議そうに見ていたマールにキースは意を決したかのように顔を向ける。
「俺が…お前を見てるのは…お前が好きだからだよ」
「う、嘘…、嘘言わないで」
「嘘ってお前酷くないか…。じゃないと、ここまで来ないって。それと…これ」
まだ呆然としているマールにキースは服からあるものを取りだして机の上に置く。
置いた音に反応したマールは机に視線を向けると小さな箱が置かれている。
マールはゆっくりと箱を手に持つとキースに視線を向ける。キースは笑顔でマールを見詰めていた。
「それ20の誕生日プレゼント。開けてみろよ」
「でも…」
「それはお前のために買ったものだ。お前以外に上げる予定も、上げる相手もいない」
キースの言葉にマールは困ったように自分の手の中にある箱を見詰める。
その箱は自分の掌に乗るほど小さく、何が入っているのか分からない。
マールは戸惑いながらもゆっくりとその箱の包装を外していく。
全ての包装を外し、箱を開けるとそこには部屋の照明に照らされて少し輝いている指輪が入っていた。
「これ…どうして」
「本当ならこれを渡して、俺の気持ちを伝えるつもりだった。だけど、お前がいなくなってたからどうしようもなかった」
キースは指輪を外すと、マールの手を取る。
手を触られてマールはピクッと反応するが、キースは構わずその手を持ち上げると右手の薬指にそっと嵌める。
そして満足そうにうなずく。
「…似合ってる」
「本当に…これ私に…?」
「当り前だろ?…マール、俺は小さい頃からお前のことが好きだった。俺のこの気持ちはお前にとっては迷惑か?」
キースはマールを見詰めながらゆっくりと言葉を紡ぐ。
マールはその視線から逃げる様に逸らしながら呟く。
「迷惑とか…そういうのじゃなくて…、だって私はただの使用人であなたは次期領主で…」
「そんなのを俺は聞いているんじゃない。俺は、俺が今までずっと見ていたお前を好きになったんだ。お前は、次期領主とかそんなの関係ないただ一人の俺を見てどう思うんだ」
キースの言葉にマールは口籠る。
言っていいのだろうか…、自分の気持ちを…。
マールが戸惑いながらキースの顔を見ると、笑顔で見つめていた。その目から…もう逃げることはできない。
「…き」
「え?」
「…私も…好き」
その言葉を言ってすぐに温かい感触に包まれた。
キースがマールを抱きしめたのだ。マールはその行動に驚いたが、自分もキースの背中に手を回した。