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85 エピローグ ~遠のく夜明け~



 大陸中が収穫の秋真っ盛りで人々が作物の神に感謝を捧げている中、凍て付く風がどこよりもいち早く頬を撫でて冬の女神が訪れた事を知らせる、そんな大陸の北東に位置する軍事国家「ケヴネカイセ公国」の首都イリヤチョフグラードの中心が今、激震に見舞われながら熱く熱くヒートアップしていた。

 イリヤチョフグラードの王宮に隣接する元老院会館がその震源地なのだが、公国の指導者エゴール・ケルゼコフも出席した円卓会議において、とてつもない爆弾が投下されたのである。


 円卓会議の議題そのものは九月から始まった新年度の政治経済を検証する第一四半期定例会としてつつがなく進行され、金相場や工業収益や見込み、異大陸の蛮族の動向などの報告や対応が話し合われたのだが、円卓会議の進行役であるエルフの貴族サーシャ・ヴァンデルフ公爵が円卓会議の終了を宣言しようとした際に、銀髪の若者が「その他として、報告と提案がございます」と、タイミングを見計らった様に挙手したのだ。


 挙手した銀髪の若者とはケヴネカイセ公国先代統治者の愛人の息子、ユーリ・ケルゼコフ。一族独裁を推し進めるケルゼコフ一族に身を置きながらも、先代の愛人の息子と言う出自を持つ彼は、銀髪の若獅子と呼ばれ内外に警戒される切れ者である。

 普段はこう言った報告と形だけの承認を繰り返すだけの儀礼的な会議では、ユーリは背筋をピンと伸ばしたまま腕を組んで目を瞑り、どうぞみなさんお好きな様にと議事を片っ端から流すのだが、今日の彼は違った。

 優雅に手を上げて進行役のヴァンデルフ公爵に発言の許しを得ると、他の諸侯やユーリを面白く思っていないケルゼコフに名前を連ねる者たちと目も合わさず、円卓の上座側に悠々と座るエゴールにだけ軽く目を流した後、もったいぶりながら立ち上がり、発言と言うよりも提案、提案と言うよりも檄文を含めた演説を垂れ始めのだ。


 ……悠久の時を経て今日に至るケヴネカイセは、暗黒王と呼ばれた暴君に立ち向かうために貴族と民衆が立ち上がり……


 おためごかしでも何でもなく、これは演説の際に多用される枕詞に属するもので、これ自体は際立って珍しいものでも何でもなかったのだが、ユーリが言葉を進めれば進めるほどに、余裕綽々のユーリとは反比例するように会議に参加した貴族諸侯は騒然とし始める。

 特にエルフやドワーフ、獣人など人間種ではない者たちは、動揺を通り越して烈火の如く怒り始めたのだ。


 ユーリ・ケルゼコフの演説を要約するとこうだ。

 三百年ほど前からエルフなどの亜人がケヴネカイセ公国に流入し、金属や貴金属加工などの手工業重工業の主導権を握り、時を同じくしてライカンスロープ……つまり獣人たちが良質な労働力として社会に流入して来た。

 「亜人が図面を引き獣人が形にする」現在のケヴネカイセの社会構造において、国家の礎であった人間種はヒエラルキーの最下層にまで落とされ、おおよそ亜人や獣人たちも嫌がる仕事で最低辺の生活を強いられ命を繋いでいるだけ。

 昨今、人間種に光をと言う運動が起きている事を諸侯らはご存知か? 人間種の手によって誕生したケヴネカイセは、人間種によって統治されるべきである。亜人や獣人を国から叩き出してケヴネカイセを取り戻せと言う運動。既に秘密結社や政治結社が密かに誕生していると聞く。


「私、ユーリ・ケルゼコフも人間種である。人間種ではない者たちが国家経済や工業商業の構造を破壊し、人間種を奴隷化し続けるのであれば、国家理念でもある人間の自由独立のために立ち上がらなければならない! 」


 円卓会議に参加した人間以外の貴族諸侯たちが大騒ぎして会議は中断、ユーリの唱える事は到底受け入れられないとして、大勢の貴族たちが議場を退出する騒ぎとなった。

 その時、指導者のエゴール・ケルゼコフがユーリを諌める訳でもなく、ましてや指導者の発言をもって騒然とする議場を収める訳でもなく、終始和かな笑みを浮かべて事の成り行きを見守っているだけだと言う事実に、会議に参加していた者の多くは酷い違和感と気味悪さを感じたのは事実であった。


 円卓会議の進行役であったエルフのヴァンデルフ公爵が議場を後にした時、同席していた公爵の甥にあたるヨーゼフ・ヴァンデルフ子爵が慌てて公に近寄り、今のあれは一体何だと公に問うたのだが、ヴァンデルフ公爵は憤怒の形相でユーリのやりように憤慨するどころか、血の気が一切引いた様な真っ青な顔で怯えていたと後に述懐している。


 『ヨーゼフよ、身支度を整えて一刻も早くこの地から去れ。出来るだけ多くの者に声をかけて去れ。あれは一種の人種隔離政策……下手をしたら民族浄化を始めるかも知れぬ。ここはもう駄目だ、血の雨が降る! ……真の天使蹂躙が行われようとしているのに、地上人は真っ二つに割れてジェノサイドに明け暮れると言うのか! 騎士王は、騎士王にとって代わる者はいないのか!?』


 甥にそう述懐したヴァンデルフ公爵であったが年が明けたある日、突如姿を消した公爵は死体で発見された。

 人間種の集う貧民街の奥……ゴミで出来た巨大な山で通称「希望の丘」と呼ばれる場所にて、死体袋に入れられた公爵を子供たちが発見したそうだ。



 〜〜騎士王を失った世界は、いまだに伝説の中核となるべき者を探していたのである〜〜


   マスターズ・リーグ ~傭兵王シリルの剣〜


   第一部完





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