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マスターズ・リーグ ~傭兵王シリルの剣~  作者: 振木岳人
◆ 第一部終章 「さようなら」編
78/85

78 上位天使



 【能天使エクスシア】

 天使のヒエラルキー全九段階において上位から六位に位置する天使で、大いなる父が定めた秩序を実行に移す能力を備えた天使。大いなる父を侮辱する者をつぐなわせ、悪に堕ちた者を罰する天使をエクスシアと呼ぶ。


 アルベルティーナを瞬時に気絶までに追いやりながら、アーロンやコレットなどのフェレイオ学園を護っていた合同部隊の前に現れた天使は、サンクトプリエンツェの街を襲っている世間一般的に呼ばれている天使とは違い、見た目と雰囲気からしてまさしくグレードの高い上位天使であった。


 左右に三枚ずつ合計六枚……白鳥の様に見事な純白の翼を背中にはためかせたその姿はまさに高位者。「額まで」ぱっくりと残忍な口を開ける有象無象の天使たちとは種が違うのではと思うほどに顔立ちは人間に近く、「綺麗な男性」とも「精悍な女性」とも表現出来る中性的な端正な顔付きで、その透き通る真っ青な瞳は今……エーデルトルトを先頭に布陣した防衛部隊を冷たく見詰めている。


「……ビーティー、アルベルティーナの救出を頼む。エーデルトルト、時間を稼いでくれるね」

「もちろんですわ! 」


 目の前の天使に対し、一族が持つ最高峰の打撃武器「戦神の槌」を両手で高々と振り上げ、エーデルトルトは敵の戦意を自分に向けようとする。


「大地の精霊、優しきグノームの恩恵を持って荒野に慈悲の光を照らせ、エバーラスティング・ヒール! 」


 やはりアーロンも自身が持つ最高峰の精霊魔術、自分の視界に入る者全てに無限回復を与え続けるエバーラスティング・ヒールを発動させて基本の初動手順は抑えた。

 後はビーティーが一刻も早く気絶したアルベルティーナの救出に成功するのと、エーデルトルトの背後で遊撃役を任せているマスターズ・リーグのコレット・ブーケがどれだけ変則的な技法で戦闘を有利に運んでくれるのかがポイントだったのだが、この地上人たちを静かに見据えていた天使がいよいよ口を開いた事で、場の空気は冷たさを痛覚として肌が感じる程までに張り詰めて行く。


『ふむ、巨人と大いなる父の愛を裏切った人間、そして竜族と亜人。背後に控えるのは闇の眷属とまがい物の魔神か……。よくもまあ、色とりどりに揃ったものだ』


 耳に入った音波が鼓膜を振動させて信号に変換され、それが脳に送られて判断される様な声ではなく、何処かしら何かしら耳をその手で塞いでも直接その言葉が届いてしまいそうな、音波だけでなく神霊の力も感じられる様な声はまるで、和音なのか単音なのかも分からないハモンドオルガンの様な冷たさと深い味わいを含み、地上人たちをそれだけで怯えさせる。

 意識を失ったアルベルティーナを守るために一歩二歩と前に出て、天使の視線を自分に向けようとするのだが、あの高貴な雰囲気をむんむんと周囲に撒き散らす強気なお嬢様が、歯をカタカタと鳴らしながら大きな身体を丸めている。


 ーーそれほどまでに、この高位天使が放つ殺気が恐大且つ、純粋で清らかであるのだ。


『所詮掃き溜めに咲く雑草程度だと無視していたが、弟たちの数を減らされるのはあまり面白くない。私が直々に相手するから、貴様らの墓碑銘にそう記述するが良かろう』


 エクスシアはそう高らかに処刑宣言を行うと、無造作に右手を前に伸ばす。するとそこに神霊力が集中したのか空間がキラキラと輝き出し、別の空間から金色の錫が現れる。

 それを無造作に掴んだエクスシアは、先ずは巨人族の娘、、、お前が大いなる父の罰を受けようと言うのだなと問い掛けながらエーデルトルトの前に進み出す。警戒感の欠片すら抱いていない軽快な足取りでだ。


 ーー来る……来る! 高位天使が襲って来る! あの残忍な天使たちを更に上回る能力を持った存在が。地上人の屈強な戦士たちをたった一撃でいとも簡単に粉砕する、あの天使たちよりも上回る存在が!


 心なしか一回り小さく見えるエーデルトルト。目の前の圧倒的な威圧感と即死の予感に身構えながら冷たい汗で額を濡らし、心なしか両膝が小刻みに揺れている。

 自身の人生で初めて相対した天使が、幼い頃から聞かされていた「あの」天使ではなく、それらを遥かに上回る上位の者であれば、尻込みしない訳が無いのだ。


「動け、動きなさいなエーデルトルト! あなたはこんな所で無能者の烙印を押される女ではなくてよ! 」


 今日、この日のために研鑽を重ねて来たのだーーここで怖じ気付いてどうするのだと、エーデルトルトは自分自身を叱咤しつつ戦神の槌を大きく振りかぶりながら、エクスシアに向かって駆け出した。


「敵の視覚を奪う! 二撃三撃目は私が放つから……ぶちかましたら左に避けろ! 」


 既に自分の身の回りに無数の小さな光の球を浮かべたコレットは、彼女の初撃が防がれてもそのまま畳み掛けられる様にと、エーデルトルトの背後にぴったりとついて前進を始めた。


「掛け値無し全身全霊のこの一撃、受けてごらんあそばせ……ヘカトンブレイク! 」


 思い切り振りかぶった戦神の槌を渾身の力で横から薙ぐ。

 対するエクスシアは不気味なほどに静まり返り、身体どころか指一本ピクリとも動かしておらず、エーデルトルトの奮った一撃はバカンッ! と顔の真正面に炸裂した。


 見事に命中した槌の一撃、エーデルトルトはそこで動きを止めずに、そのまま左に身体を流し、後続のコレットに二撃三撃を任せ、トドメの一撃の準備のために戦神の槌をもう一度振りかぶろうとした時だった。


 ーーエーデルトルトの目の前で突如“バチン!”と空気が大きく()ぜたのだ。


 顔面を走り回る激痛。のたうちまわる様な痛さではないのだが、瞬間的に反射で目を閉じてしまったエーデルトルトが目を開くと、一体自分の身に何が起きたのか……全く無傷のエクスシアと視界の右側に収まるコレットの姿で理解出来た。

 コレットもエーデルトルト同様その場で棒の様に立ち尽くし、耳と目……そして鼻から血を滴らせながら呆然とした表情でエーデルトルトを見ていたのだ。


「こりゃマズイ! 」


 学園の職員棟の屋上で、事の一部始終を見ていたローデリッヒが突然叫ぶ。


「マクス……おい、あんちゃん! 外の敵は良いからコレットたちのサポートに回ってくれ! あれは天使の神聖魔法で空振ってやつなんだが、威力がハンパない! あれはヤバい、ヤバ過ぎる! 」





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