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マスターズ・リーグ ~傭兵王シリルの剣~  作者: 振木岳人
◆ 第一部終章 「さようなら」編
66/85

66 異世界に飛ばされた自衛官はゴリゴリの冒険者となって世界を股に掛ける



 音も無く空気も無い、窓の外に蒼い奇跡の星が輝いていなければ上下左右すらわからない場所、宇宙空間。

 その神秘なる世界において、成層圏と完全なる宇宙空間の狭間に存在する「亜宇宙」を漂う、銀色の人工物体があった。


 白鳥が翼を広げた様なその白銀の飛翔物体が大気圏突入のリスクを犯しながらも上昇せずに、衛星軌道上に逃げないのには理由がある。

 その白銀の飛翔物体の翼にはアルファベットで「JASDF」とペイントされており、未確認飛行物体ではなく人間が作ったものだと証明出来るのだが、それでも隠密飛翔を繰り返しているのには、この物体の存在自体こそが秘匿性をもつ物として建造されたからなのだ。


 ーー北海道及び九州に上陸しようとする中露連合艦隊を追尾監視し、上陸行為を確認した後に命じられるであろう内閣総理大臣からの防衛出動をもって、亜宇宙空間から中露連合艦隊に対して最大火力の打撃戦闘を行い上陸を防ぐーー


 ・航宙自衛隊 第一亜宇宙戦術空母打撃群 旗艦【イザナミ】

 Japan Air & Space Self-Defense Force

 Sub-universe Tactical aircraft carrier Strike Group

 1st CVSG Flagship【IZANAMI】



 西暦二千年の後半、宇宙空間から列島を防衛する目的で設立された航空自衛隊 亜宇宙戦術打撃群。

一部隊に過ぎなかったそのグループは、その高度な作戦遂行能力と即応性を認められた後にあっという間に組織は拡大の一途を辿り、ついには航空自衛隊自体が名称を変更して、二千百年代初頭に「航宙自衛隊」が正式に稼働を始めたのだ。

 そして亜宇宙戦術空母打撃群は今現在、第一と第二打撃群のグループが実戦部隊として稼働しており、常に列島の遥か上空から日本本土を守っていたのである。


 そのイザナミから一機のシャトルがゆっくりと分離されて宇宙空間を漂い始めた。

 連絡艇「りゅうせい2」が、地球と月のラグランジュ点で慣熟航行を繰り返す新設の第三空母打撃群に、物品の搬送と伝令を目的に赴こうとしていたのである。


「こちらりゅうせい2、イザナミCDC送れ」

『こちらイザナミCDC、りゅうせい2送れ』

「位置確認と軌道計算完了、これよりラ点(ラグランジュ点の意略)に向かう、送れ」

『イザナミCDC了解、航海の無事を祈る、終わり』


 CDCとはコンバット・ディレクション・センターの略であり、戦艦や駆逐艦などのCIC……コンバット・インテリジェンス・センターと同じ目的を持つ部所である。つまりは船の航行部署とは隔絶した純軍事目的にのみ存在する、戦闘指揮所の事をそう呼んでいた。


 りゅうせい2の至る所から短噴射でガスが放出されて姿勢制御が完了すると、いよいよメインエンジン点火の秒読みに移行する。

 コクピットの座席に身体を固定し、小さな視認窓にちょこんと顔を出しているのは二名の航宙自衛官。機長の末永三等宙佐と副機長で女性の光塚一等宙尉である。


 まだ二人とも二十代の若さなのだが、この時代陸自よりも海自よりもその重要性が増した航宙自衛隊には、学校や大学上がりだけでなくどんどんと各専門分野の若者たちが流入し、年功序列が通用しない環境となっていた。


「メインエンジン点火シークエンス」

「点火シークエンス開始、与圧チェック一から三」

「一から三チェック、オールグリーン。続いて隔壁項目四から八……」


 チェック項目が連なるファイルを手にしながら、発進に向けた準備を進める二人。

 視野窓を占領していたイザナミの姿がどんどん小さくなる中、りゅうせい2は新設された艦隊に対して、第一亜宇宙戦術空母打撃群の主力兵器である重機械化戦術歩兵機……つまるところの大気圏再突入型パワードスーツを四体貸し出す為に、もっともっと上の世界へと旅立とうとしていたのだ。


 だがその時、旗艦イザナミとだけ繋がれていた秘匿の無線チャンネルに全く別の電波が飛び込んで来る。


『……こちら第一打撃群センシング艦白根。りゅうせい2送れ……』


 末永三等宙佐と光塚一等宙尉は顔を見合わせて何事だと怪訝な表情。


「こちらりゅうせい2、送れ」

『白根より情報、事象の重大性を鑑み貴艦に直接送信を行なっている。旗艦イザナミは了承済みだ。送れ』

「りゅうせい2了解した、内容を通知されたし。送れ」

『白根より通達。今から五分前に未知の指向性磁気嵐を感知した、貴艦の進行方向と交差する恐れあり。至急進路を変更し、磁気嵐を回避するよう進言する、送れ』


「……はあっ!?」


 思わず顔を寄せる末永と光塚。

 無線で通達された内容があまりにも理解の範疇を超えており、ドッキリではないかとパートナーの表情を互いに伺ったのだ。


「指向性磁気嵐って何だ?」

「私だって初めて聞きましたよ」


 指向性と言うからには、三百六十五度上下左右前後ろに拡散するものではなく、仮にAと名称を決めた地点から狙ったポイントBに向かって事象を起こす事を言い、それが磁気嵐であると言う説明に全くもってピンと来ていないのだ。


「こちらりゅうせい2、それは何か人為的なものなのか? デフコンはグリーンのままだ、送れ」

『今はまだ磁気嵐かどうかも判別のつかない未知の事象としか言えない。当該宙域には自由主義条約軍以外の艦船もいない事から、意図的な攻撃とも思えない。したがってすみやかなる進路変更を行われたし、送れ』

「りゅうせい2了解した、終わり」


 つまりは、何かしらのジャミング電波がこのシャトルの行方を阻んでいる。それらしき敵影も無い事からデフコン(ディフェンス・コントロール 平時と戦時を四分割した準備情報)も危険度の上げようが無いーー。


 それでも最新鋭の情報収集艦が助言しているのだからと、進路変更のためのコース策定と計算を始めた二人なのだが、再び入って来たいきなりの緊急通信に、びくりと両肩を震わせつつ耳を傾ける。


『……こちらセンシング艦白根、りゅうせい2は今すぐ位置変更を行え! 磁気嵐の向きが変わった! 接触まで三十秒! 』


 そう脅されてしまえばしょうがない。末永と光塚は発進シークエンスのファイルを放り捨てる。


「スラスター連続短噴射で機体上昇を試みる。光塚操縦桿を握れ」

「了解です」

「バランス見ながら噴射指示を出す。軸ロール(回転)させるなよ」


 スラスターとは、シャトルの本体に無数に取り付けられた穴から噴射ガスを放って、その推力で機体を移動させる装置の事を言う。

 あくまでもメインエンジンによる進行推力ではなく、機体制御を目的としたバランス維持装置なので、ガスの残量を気にしながら操作しなければならないのだが、メインエンジンが点火されていない今は、スラスター装置を使って磁気嵐から逃げるしか方法が無いのだ。


「俺の合図で行けよ! スラスター短噴射五回! 五秒前、四、三、二……!」


 連絡艇シャトル「りゅうせい2」のフライトレコーダーに記録された声は、末永三等宙佐のこの言葉を最後に完全に沈黙した。

 だがそのフライトレコーダーを航宙自衛隊が回収して再生する事は叶わず、結果としてフライトレコーダーはその機能を発揮するチャンスは永遠に失われてしまったのだ。


 「航宙自衛隊連絡艇喪失事件」

 指向性磁気嵐も突如消えてしまったりゅうせい2の行方も、全てが謎のままに自衛隊の黒歴史にへと変質し、闇にへと葬られて行った。


 ・シグニスブラザーズ社製 重機械化戦術強襲歩兵機 「104式雷神」四機

 ・重機械化戦術歩兵機搭載 大気圏再突入型戦闘指揮車輌「096式指揮通信車」一台

 ・新型戦術衛星リンクシステム「ミルキィウェイ」

 ・乗務員二名 末永篤 光塚玲子


 連絡艇りゅうせい2に搭載されていた積荷と乗務員たちは、完全にこの世界から消えてしまった。





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