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マスターズ・リーグ ~傭兵王シリルの剣~  作者: 振木岳人
◆ ダンまち(ダンジョンで待ち伏せされた)編
37/85

37 同じ瞳



 悠久の時が流れる生き物の楽園シャフベラルク大陸、様々な場所に様々な種のコミュニティや国家があるように、人間種もやはり様々な場所でコミュニティや国家を形成して行った。ここ「シュラッテンフルー王国」もやはりその人間種により成立した国家の一つなのだが、シュラッテンフルーと言う名前を噛み締める者は、単なる人間が立ち上げた国家と言う認識よりも別の趣きを持って噛み締めている。

 もはや伝説や伝承の世界でのみ生きる大陸級の英雄、騎士王ボードワン・クルゼルが統治し、そして「天使蹂躙に対して団結せよ」と大陸中に号令を放った国であるからだ。


 そのシュラッテンフルーの王都リースタル。

 フェレイオ暦八百十五年の夏は数年ぶりの熱波に包まれており、街を行き交う人々の表情は日傘やフードで顔を隠して影になっているのにも関わらず、それでも暑さでバテている様な疲れきった顔が浮かんで見れた。


 仰け反る様な湿気を孕んだ南の海風がどんよりと王都を包み、人々が額や背中にウンザリとした汗を垂らして日々を送っている中、ここ、王都リースタルで一番の賑わいを誇る西門市場は再び妖しい念に包まれ始めている。

 人間には聞き取れない精神世界の波長を通じた言語が、西門市場の人ごみを電気の様に走り抜け、まるでそれは、人間の持つオーラを利用して繋げて結んだかの様な接触会話言語のようでもあった。


 ーー……ペーテル司祭、ふふふ、ペーテル司祭様よーー


 ーーうるさい! 貴様にそれを言われる筋合いなど無い! ーー


 仲間らしき者の嘲笑を金切り声で遮るのは、どこかで聞いた声。今年の初夏に、王立フェレイオ学園のある中核都市サンクトプリエンツェで起きた天使襲撃事件において、中心人物として暗躍した【ペーテル司祭】の声である。


 ーー名前まで作って人間どもに接し、画策した結果があれとは笑わせるーー


 ーーマスターズ・リーグもあの学校の子供たちも全くと言って良いほど元気なまま。あなたのやった事って、時間を浪費しただけよねーー


 ーー悪魔召喚士に至っては傷一つ付いていない。ペーテル司祭様よ、これは怠慢だと君を罵っても抗弁出来ぬ事案ではないかね? ーー


 脳内に鳴り響く様な声無き声が無数に轟く。もちろん、市場を往来する人々がその声に全く反応を示さずにいるのは、この会話自体が異次元で行われているのを証明するかのようだ。


 ーー訳がある、事情がある! この報告を聞けば貴様らも尻込みするほどのな! ーー


 ーー見苦しい事を言う。ーー


 ーーそう言うの白けるからいらないのよねえ。ーー


 ーーどう取り繕うと結果が全てだ、貴様は一人で大丈夫だと大言壮語を吐いたクセに……ーー


 ーーいいから聞けえっ!ーー


 失点した仲間をここぞとばかりに叩いていた者たちがペーテル司祭の叫びに圧されたのか、会話に参加していた者全てが沈黙する。


 ーー……私は彼の地で偶然見つけてしまった。奴はいたんだ! 生徒としてあの学園に紛れていたんだ!ーー


 誰もが思うであろう、だから一体誰なんだよと。

 だがペーテル司祭が話を盛ろうとしてもったいぶっているのではなく、口にするのも忌まわしい名前なのだと言う戦慄が伝播したのか、もはや誰も司祭の言葉に茶々を入れていない。逆に押し黙ったまま司祭の口から【その名前】を言わせようとしていた。


 ーーあの人の……いや、あいつの子供がいたんだ。「ここに知恵が必要である。賢い人は、獣の数字にどのような意味があるかを考えるがよい。数字は人間を指している。そして、数字は六百六十六である。 」ーー


 ペーテル司祭が黙示録の一節を口にすると、ざわめきすら影を潜め、その空間は完全に沈黙した。


 ーー大いなる父の元を逃げ出した後、堕天したあの人は……地上で産み落としたんだ、獣の数字持つ者をーー


 ーー……本当なのか? 獣の数字持つ者と断定出来るのか? ーー


 どうやら、ペーテル司祭の上位者……サンクトプリエンツェ襲撃事件を指示した女性の声が。ペーテルに事の真偽を確かめて対策を考えているかの様な口ぶりだ。


 ーー間違いない、見間違うはずはない! 確かにあの人と同じ瞳を持っていた、あいつは獣の数字持つ者だ! ーー


 ーーそうであるならば、今の内に殺さずしてどうする? 力に目覚めていない今の内にだーー


 ーー同感ね。将来の禍根は今断つべきなのに、ペーテル、あなたはのこのこ帰って来たーー


 ーーそっ、それは……ーー


 ーー名誉挽回の機会を与えると言っています。あなたの地位に見合った働きをして来なさい。それとも出来ませんか?ーー


 ぐううと、喉を絞って唸る様な声が聞こえた後、ペーテル司祭は高圧的なその指示を受け入れた。だがその時の彼の声には覇気の欠片も無く、ただただ絶望に打ちひしがれた弱々しい声であった。


 フェレイオ暦八百十五年に大陸を震撼させた【使徒事件】。具体的なターゲットも定まり、物語はいよいよ一つの佳境を迎える事となる。




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