34 祭りだ!
学園祭にもいろいろある。
孫の研究を見てやろうと老人が大挙して押し寄せつつも、チンプンカンプンな研究発表に対してしきりに首を傾ける学術発表系や、お前らこの一年間何も学んでなかったろと突っ込みたくなる、焼きそば屋台にお化け屋敷にメイド喫茶が乱立するお花畑アミューズメント系や、外部からの来訪者を一切遮断させて、何の祭りなのかすら忘却させてしまう自閉型発表会などなど。その学校の校風と培って来た歴史がそれぞれの祭りを為しているのだが、ここ王立フェレイオ学園の学園祭はズバ抜けて変わっていたのである。
それは【ダンジョン祭り】
大陸中の武闘系エリートを集めた英雄養成機関なればこそ、祭りですら戦わなくてどうすると言う主旨の元、夏休みの一大イベントとして長年引き継がれて来たのがこれである。
サンクトプリエンツェ郊外の農地化出来なかった痩せた丘陵地帯に巨大な地下迷路を建設。普段は完全に封鎖された迷宮にこの時期に限り召喚獣を解き放ち、学園生たちに様々な分野で競わせるのである。
例えば【最深淵到達者】、例えば【最多魔獣撃破者】さらには【レアアイテム最多取得者】【最長時間滞在者】などエトセトラエトセトラ。祭りとは言ってもこのダンジョン攻略の成績はダイレクトにマスターズ・リーグに所属出来るか出来ないか反映されてしまうので、入学ほやほやピカピカの一年生でも、エンジンフル回転で結果を出さなければならないのである。
・パーティー編成は最大五名まで
・大会本部と常時連絡が取れるよう、念話役ピクシー(妖精)帯同必須
・チーミング行為(他チームとの共同作戦)厳禁
ダンジョンに挑戦するにあたってはこの三つ、たった三つの最低限ルールを守るだけなのだが、学園生には指針となるべき標語が与えられる。
ーー戦闘不能者は無能者。最後の一華よりも生きて帰れーー
己の力を、パーティーの総合力を過信して戦闘で敗北したり救助要請を発すると、それまでの成績が全てゼロになる。つまり英雄を目指すなら勝ち目の無い闘いに身を投じるのではなく、仲間ともども生きて帰って来れる環境を常に整えろと言う教えなのだ。
幸いにもと言うか、さすがはトップ・オブ・マスターズを目指す生徒たちと言うべきか、学園が創設されてから十六年、今まで一度も運営側に対して洞窟からの救助要請を行なった生徒はいない。「英雄を目指す者ならば、玉砕は愚の骨頂である事を知れ」先人たちからの教えが浸透している現れでもあった。
「だからシリル君、絶対に無理しちゃダメよ。迷宮に潜ったら半分だけ成功、元気で帰って来る事が大成功なんだからね」
海風に左右されない、大陸中央部特有のカラッとした夏。ところどころにふわふわと浮遊する絹綿の様に真っ白な雲の遥か上空から、黄金色に輝く太陽の熱が肌をジリジリと焼く。
王立フェレイオ学園夏休みの初日、ここアンヌフローリア宅の入り口では、諸々の荷物をぎゅうぎゅうに詰め込んだリュックサックを背負い、ワクワク顔で出掛けようとするシリルに対し、現保護者役のアンヌフローリアがくれぐれもと忠告を繰り返しながら送り出そうとしているところ。
「一年生なら地下三階層まで降りれれば充分、欲をかいちゃダメ。気持ちが大きくなった時こそ引き返して来なさい」
「分かりました!」
「むうう、本当に大丈夫かなあ……? 」
「先生は心配し過ぎですよ、行くのは僕だけじゃないですし」
「だから余計心配なんじゃないの。仲間の和を乱して勝手に行動しちゃダメよ」
分かりました分かりましたと、半分呆れながら家の扉を開ける。すると道には見慣れた仲間たちの姿が。「待ち切れないからお前ん家迎えに行くわ」よろしく、シリルを呼びに集まって来ていたのだ。
「遅えよシリル、どんだけ待たせんだよ」
「……シリル君……おはよ…… 」
「おはよう、ジェイサン早めに来た」
「シリル・デラヒエ、随分余裕だな」
集まっていたのは四人、ロックドラゴンのエステバン・カミネーロ、サタニック・サモナーのカティア・オーランシェ。そして騎士叙勲を目指し代々受け継がれた聖天近衛騎士団の団長就任を目指すロミルダ・デーレンダールと、北方の狩猟民族で呪われた仮面に支配された戦士ジェイサン・ネス。
クラスの中でもひときわシリルに縁のある四人が集まったのだが、じつはこの四人、後世に語り継がれる英雄物語【傭兵王と涙の剣】に登場する主要人物たちである。
傭兵王とは一体誰なのかはまた後日語るとして、彼らこそが暁の傭兵団の初期メンバーであり、そしてこの日、一同が同じ目標に対して初めて歩調を合わせた記念すべき日となったのであった。
「それじゃ行って来ます」
挨拶を交わし、ニコニコで皆と肩を並べるシリル。そして彼の後ろ姿を見送るアンヌフローリアであったが、突然顔を真っ赤にして自宅に逃げ込んだ。
(……ひいいいっ!バレてない、バレてないわよね!?…… )
シリルの仲間たちが迎えに来ている事を知らず、知った後もパジャマ姿のまま彼らを見送っていたアンヌフローリアは、胸パットを入れていない事に全く気付いていなかったのであった。




