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華麗なるヴァンパイア 編

「お先に失礼しまーす・・・」

まばらに社員が残ったオフィスに別れを告げ、小柄な色白の女性が疲れた表情で退社する。家を出る前に整えてきたボブカットは、長時間の労働に晒されたせいか艶やかさを失っていた。ふと確認したスマートフォンの画面には、23時38分との表示。

「はぁ~・・・」

エレベーターに乗り込み、1階へのボタンを押す。今日も帰りが遅いなぁ。まあ、終電ってほどではないけど・・・。

「『これから帰ります』っと・・・」

歩きながらスマホにいつもの文章を打ち込み、送信。送り先はいつもと同じ。

ここまでなら何処にでもいる普通の社蓄OLであるが、この女性はそうではない。社蓄であり、そして・・・恐ろしいヴァンパイアなのだ・・・!

 これは、そういう感じのお話。


* * *


 仕事帰りの電車内。携帯で眺めていた妖怪のまとめサイトに、ヴァンパイアに関する記事が載っていたので、気になってついつい目を通してしまった。

 へぇ、どれどれ・・・。ヴァンパイアはもともと貴族?お屋敷に住んでる?身分が高くて、華麗な立ち振る舞いが出来る?日光に弱い?・・・そんなの幻想よ、幻想。そりゃ身分の高いヴァンパイアもいるでしょうけど、私はそうじゃないし。日光に弱い?そんなの、普通の人間だって変わらないでしょう?日焼けとか日射病とか、似たようなものよ。日焼け止めと日傘と適度な水分補給で何とかなるわ。ニンニクだって十字架だって問題ないし、銀の銃弾は・・・そもそも銃弾の時点でおおよそすべての生き物には有効でしょ・・・。そんなのも分からないの?って感じ。まあでも実際、自分でも良く分からないことも多いから、なんともいえないけどね。

 


 職場のJRの最寄駅から電車に揺られること、およそ20分。自宅の最寄駅に到着、改札の出口には、いつも穏やかな表情の、初老の男性が誰かを待っている。到着した電車から降りる人波が改札へ到着し、南北の出口から分かれて岐路に着く。その波の中から一人、小柄な女性が初老の男性のもとへ歩み寄っていった。

「ふ~っ、疲れた疲れた・・・。足立、いつもいつもお迎えありがとね」

小柄な女性は、男性を足立と呼んだ。

「お帰りなさいませ、お嬢・・・?いえ、荒川千歳様」

足立と呼ばれた男は、微笑みながらそう返した。

「あら、フルネームで呼ぶなんてめずらし・・・あっ」

千歳も、首から下がっている社員証の存在にやっと気づいたようだ。

「はっず・・・。完全に忘れてたわ」

「それだけお疲れということでしょう。・・・お嬢様、こうも毎日お帰りが遅いと、お体に障りますよ」

足立は心配そうに、そう声を掛けた。

「まあね~。でも、働いて稼がないと、足立にお給料払えないからね」

「いえいえ、給料なぞいただかなくても、私には十分な備えがございますよ」

「あら、じゃあ来月分から払わなくていい?」

「はっはっは。ご冗談を」

二人はそうおしゃべりをしながら、駅の北口に停めてある車へと向かうのであった。



 セダンタイプの普通乗用車に近づく二人。運転席に足立が、助手席にお嬢様が座る。

「いやあ、しかし昨日はお迎えにいけず申し訳ありません」

足立はそう言いながら、キーを捻りエンジンに火を入れる。

「しょうがないでしょ。昨日は満月だったし・・・。お国に禁止されてるんだから、それに従うしかないよね」

「はい・・・。そろそろ、私が出られない日にお嬢様をお迎えに行く人間を雇ったほうがいいかもしれませんね。夜道を20分も歩くのはお嬢様と言えど危ないですからねぇ」

車がゆっくりと動き始める。

「そうね・・・。バイトの広告でも出しておこうかしら」

「では、近いうちに私の店にアルバイト募集の広告でも出しておきましょう」

「老人を雇う気は無いんだけど?」

「いえいえ、ちゃんと若い人もいらっしゃいますので・・・」

「それって100歳以下ってこと?」

「まだ十分に余命のある人間と言うことです」

「ならばよし。ついでにお店のほうも手伝ってもらったら?」

「それはいい考えかもしれませんね。検討しておきましょう」

「あ、それ絶対やんないやつだ。・・・ところで、お風呂って沸かしてある?」

「ええ、今日は金曜日ですので」

「そ、ありがと。帰ったらご飯食べてお風呂入ってとっとと寝よ・・・」

お嬢様は助手席で携帯をいじっている。どうやら『疲れた』とかそういう方面の内容をつぶやいているようだ。ちなみに、携帯と呼んでいるがスマートフォンのことだ。以下同様。

「ところで、本日は珍しく輸血用の血液が手に入っております。少々古いものではありますが」

「本当?それはありがたいわ。やっぱ、たまには血を口にしないとね。あんまり美味しくないけど」

「このご時勢、生き血を手に入れるのはなかなか難しいですからね」

「まあね。殺さない程度に魂を吸い取るほうがよっぽど手っ取り早くて楽よ。大概の魂はあんまり味しないけど」

「やはり食事ですから、味は大事ですよね」

「うん。まあ、普通の食事も美味しいから、それだけでもいいんだけど」

スマホの画面を切り、カバンの中にしまうお嬢様。

「やっぱ中でも赤いものは定期的に摂取したくなるよね」

「であれば激辛のカップラーメンを買ってあります。赤いですよ」

「それは勘弁して・・・」

駅から少し走ったところにある一軒の古びた屋敷。そこへ、一台の車が入っていく。

 『なんだよ、普通にお屋敷に住んでんじゃん』と思ったそこの貴方。私が一体何年働いてると思ってるわけ?そういうこと。




「ふうぅーーーーーーーーーーーっ・・・」

バラの花の浮いた浴槽に、小柄な女性が浸かっている。

「『いや~、お風呂にゆっくり入ってるこの瞬間に生を感じるわ~』っと・・・」

今、何かつぶやいたな。こうやって携帯を持って入浴しているということは、つまり長風呂になるということだ。基本的には。

「あ、そういや明日は『異形の会』か・・・。めんどくさいなぁ・・・」

『異形の会』とは、つまるところ古い友人たちと定期的にお茶をする集い、と言ったところだ。大抵月一ペースで開催される。

「はぁ~・・・。集まるのはいいんだけど、朝起きてから行くまでがめんどくさいんだよなぁ・・・。」

浴槽に深く浸かり、湯気で曇った天井をぼーっと見上げつつ、全身の力を抜く。

「・・・明日は久々にバイクで行こ。さすがに最近乗らなすぎだし・・・」

ゴスロリとかロリータを纏って出席するのが通例だけど、まあたまにはライダースジャケットでも怒られないでしょ。というか、不二子みたいでかっこいいじゃん。まあ、いろいろと足りないけどね・・・。

多少ぼんやりして過ごしていたが、ふと確認した携帯の画面に映し出されている時刻は既に午前2時前。

「あー・・・。明日朝早いし、そろそろ寝ないと・・・」

朝早いと言うのは午前8時起きという意味だ。土曜の朝8時は早朝だというのは周知の事実である。


ゆっくりと浴槽から上がると、体の水気を払い浴室から脱衣所へと移動。その時、重大なことに気づいた。

「あ・・・マジか・・・」

脱衣所のドアを若干開け、廊下に聞こえるように一言。

「足立~、バスタオル~・・・」

これをやると絶対に足立の部屋から『私はバスタオルではないのですが』と言う足立の声がかすかに聞こえる。ここまでがテンプレだ。大丈夫、ちゃんと持ってきてくれる。

ちなみに、足立のシフトに土日は含まれていないため、金曜(土曜)のこの時間は完全にボランティアと言うことになる。次回あたり、バイト代に色をつけておくか・・・。

  

 ドライヤーで髪と体・・・ドライヤーで体を乾かすのは非常に電気がもったいないということは承知の上だ・・・を乾かしつつ、毎回技術と文化の発達について非常に感動する。ちょっと前までは毎日お風呂に入るなんて文化無かったし、お風呂の後ドライヤーで髪乾かすなんて無理だったし。今思えば、お茶屋でバイトしてたときの自分、今の衛生観念で考えるとめっちゃ汚いわ。江戸時代に厚生労働省があったら絶対に営業停止処分食らってたと思う。

「お嬢様、タオル、お持ちしました。ドアの前に置いときます」

ドライヤーの音の影から、足立の声が聞こえた。

「あ、ありがとう」

「いえいえ・・・。では、おやすみなさい」

「うん。おやすみ~。ありがとね~」

足立の足音が遠ざかっていく。足立、さっきの口調だと、たぶん寝てたな・・・。起こしちゃってなんだか申し訳ない。


いや、まあいいか・・・。私も、とっとと血飲んで寝よ。ヴァンパイアらしくね。そう、ヴァンパイアらしく。ね。



ミッドナイトお嬢様という曲、ありますよね。アレ最高ですよ。

あの曲を聴いて思いついたお話です。続ける気はありますが続くかどうかは分かりませんね。

社蓄度次第、と言ったところでしょうか。まあ、適当に呼んでいただければ幸いです。

あとなろう、しばらく新規投稿しないうちに結構めんどくさい方式になりましたね。

まあ、いいんですけど・・・。

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