面影を追いかける
ゆらり、煙が漂う。
毛先に向かって色が抜けていくアッシュグレーの髪に、珍しい鮮やかな緑の目。
気だるげに煙を吐き出すその姿を、もう何度見たことだろうか。
今日は黒いシャツと黒いパンツで任務のない日の格好だ――いや、俺が任務出してるんだけど。
記憶にある姿は今よりも背丈が引くく、アッシュグレー一色の髪で、軍用パーカーを着込んでて、ドッグタグなんかしてなくて、まだ可愛げがあった。
なんとなく遠くなった目を戻し、足音を殺して気だるげな背中にタックルをする。
肩からぶつかれば「うわっ」と想像よりもだいぶ落ち着いた声が上がった。
「何すんですか、大将」
口調にも可愛げはなくなった。
呆れを滲ませて、煙ごと息を吐く姿にはっはっはっと笑い、男よりも確実に狭い背中を叩いてやる。
高い音が辺りに響く。
「今日は休みだろ?」
「まあ、そうですけど。さっきまで、ナナと手合わせしてたんで」
顔を覗き込む俺に、緑の目を細めたソイツは、関係的にいえば俺の部下。
ナナというのも、犬っぽいが人間で、俺の部下の部下になる。
ソイツは女だが、ナナは男でもある。
「それより、大将の仕事は?」
「俺?俺、俺はー、アレだ!休憩中だ!」
両手を打ったものの、緑の目は更に細くなり、薄い唇から吐き出された煙は俺に向けられていた。
げほ、ごほ、噎せる。
「まーた先生に怒られますよ」
鬼の形相をした軍医を思い出し、うぐ、唸り声が漏れた。
そんな俺を見てはクスクス控えめに笑うソイツは、やはり、年月に合わせて変わったと思う。
顎程度まで切り揃えられていた髪も、今では背中の方まで伸びている。
煙草を吸うようになり、もっと言えば、自分で偽煙草を作るくらいだ。
軍用パーカーではなく、軍服を着るようにもなったし、ドッグタグだって持っている。
もっと変わったことといえば、ああ、目を細める俺に、煙草の灰を落とすソイツが眉を寄せた。
眉間にシワが一本出来上がり、何ですか、煙と共に問いかける。
「似てないな、って」
ジャケットの襟元に付いたバッジを弄りながら言えば、ソイツはますます分からない、と言いたげに首を捻った。
ジリジリ、手元では煙草が灰を増やす。
過去、俺の同僚が姿を消した。
当然軍人なんてやって軍に属していれば、死ぬことも殺すことも日常茶飯事だ。
ただその同僚は、本当に忽然と、鎖の繋がったドッグタグを残して消えた。
死体が見付からない、運べないからこそのドッグタグだが、違和感は拭えずに年月だけが経っている。
そしてその同僚は、目の前のソイツを拾い上げ救い上げた。
ソイツからすれば親のような存在で――そこまで思考が及んだところで、吸いかけの煙草が俺の口に押し付けられる。
雑味のある苦味に顔を顰め、これは偽煙草だと直感した。
市販品に比べると味が粗雑なのだ。
そんな俺を見るソイツは、軽く肩を竦め、短くなった煙草の火を揉み消した。
「当たり前じゃないですか」
さも、当然のように最後の煙を吐き出して、ソイツは言った。