ツルの恩返し(もうひとつの昔話11)
その昔。
ある山深い村に若い木こりがおりました。
この若者には働き者の嫁がおり、その嫁の織る美しい布を町で売ることにより、若者はやがて村一番の金持ちになりました。
布を織るとき、
「決して見てはなりませんよ」
なぜか嫁はそう言って奥の部屋に閉じこもり、朝から晩までカタンカタンと布を織り続けました。
このナゾめいた嫁。
猟師のワナにかかっていたところを、若者に助けられたツルの化身。恩返しにと、みずからの羽を抜いては、それで糸をつむぎ布を織っていたのでした。
日ごとに。
嫁はやせ細っていきました。
かたやそのぶん、若者には美しく立派な布が手に入りました。
布を売って稼いだ金はツボにためられ、盗まれぬよう囲炉裏のそばの床下に隠されていました。
そんなある日。
若者は嫁との約束を破り、ついに部屋の中をのぞき見て、嫁の正体を知ってしまいます。
「正体を知られましたからには、わたしはここを出ていかねばなりません」
嫁は白いツルに姿を変えると、悲しい鳴き声を残し、山に向かって飛び去りました。
その後の若者。
金のとりこになっており、かつての金もうけの味が忘れられないでいました。ですが、それには美しい布を織るあの嫁に、なんとしても帰ってもらわねばなりません。
若者は逃げたツルを探し、毎日のように野山を歩きまわりました。
けれど、どこをどう探しても見つけられません。
そんなとき。
――そうだ!
若者はハタとひらめきました。
あのツルでなくてもかまわないのではないか。いかなるツルでも助けて恩を売れば、同じように恩を返してくれるのではないかと……。
さっそくワナを野山にしかけてみました。
すると、すぐに一匹の大きな鳥が捕まりました。ツルではありませんが、やはり白い羽を持っています。
――美しい布を織ってくれそうだな。
若者は助けるふりをして、白い鳥をワナから逃がしてやりました。
その晩。
娘が若者の家を訪れます。
「決して見てはなりませんよ」
前の嫁と同じことを言って、娘はそのまま奥の部屋に閉じこもりました。
――よし、いいぞ……。
若者は二度と同じ過ちをせぬよう、決してはた織りの部屋をのぞきませんでした。
翌日のこと。
若者が山仕事から帰ると、はた織りの部屋の戸が開いていており、娘の姿はありませんでした。さらに囲炉裏のそばの床板がはがされ、ツボごと金が消えていました。
若者は盗まれた金を取りもどそうと、すぐさま娘を追って山へと向かいました。
ですが……。
すでにトンズラされたあと、あの白い鳥はどこにもおりませんでした。
――アイツ、サギだったんだ!