8 酒場ー(3)
「さて、とりあえず2人でダンジョンに行ってみるか?」
パーティーを組んだところで早速そう提案すると、アイリスは考えるように首を捻った。ああ…そりゃあ男女2人でとか嫌だろうな。
「んー…私とユヅルさんの職業から考えたら、戦士の人か、魔獣遣いの人がいた方がいいと思います。私たちだけだと、中、遠距離戦になってしまいますから」
ところが、アイリスから返ってきたのは真面目な答えだった。前世の職業は1人で行う殺し稼業だったためか、その点に気づくことができなかった。
「そうか、近距離戦を受け持ってくれる職業か…。ん?そういえば戦士なら…」
俺は先ほど掲示板に紙を貼っていった女性を思い出した。掲示板に貼られた紙を見てみると、そこには職業の欄に、戦士と書かれていた。
「とりあえずこの人を誘ってみないか? さっき貼られたばかりだから顔も覚えているし」
「そうですね、私も見てましたし……確か、あっちの方に座ったような……」
アイリスが指差した方を見ると、先ほど見た女性がなにやら本を読みながらテーブルで酒を飲んでいた。
俺たちは掲示板から紙を取ると、彼女へ近づき声を掛けた。
「えっと……、ティアナ、さんで合ってるか?」
「ん? いかにも、アタシの名前はティアナだよ! パーティーのお誘いかな?」
俺が話しかけるとティアナは読んでいた本から顔を上げると、快活な笑顔を向けて立ち上がった。
「あっはっは、パーティーの誘いなら全然いいよいいよー。いやー、2人とも初々しい顔をしてるねー。1ヶ月前を思い出すよ! まあまあ、自己紹介とかもしたいし、色々話もあるからさ、カウンターでお酒でも貰って来なよ」
ティアナは笑顔のままカウンターを指差した。
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「さーて、自己紹介も済んだところでカンパーイっ」
3人が各々の紹介を終えると、ティアナはジョッキを掲げた。それに続いてジョッキを掲げると、カチンッと小気味良い音が響いた。
「ふふふ、さてさて3人組ができた訳だけどさ、このままダンジョンへ行っちゃうかい?」
既にジョッキの半分以上を飲みながら、ティアナはそう提案した。俺はその提案に頷いて首肯する。
「ああ、俺はまだダンジョンに行ったことが無いからな。 どんな風なのか実際に体験してみたい」
「私も、です。 パーティーもティアナさんが入ってくれたからバランスも良くなりましたし」
俺の意見にアイリスも続いた。そしておずおずと酒に口をつけるが、口に合わなかったのか顔を顰める。先の自己紹介で先日16歳になったばかりだと言っていたからまだ酒には慣れてないようだ。
「うんうんっ それじゃあ、簡単なお仕事を受けてダンジョンに行ってみようか! アタシも、1ヶ月前に同じことを先輩の冒険者に教えて貰ったんだ」
そう言うと、ティアナはお仕事ボードまで行くと、しばし眺めてから、1枚の紙を取って戻ってきた。
「この仕事をやってみない? 『リクチト』って言うダンジョン1階の奥に生えてる木を削って取ってくるの。家具とか色んなものに使われてる木でさ、年がら年中依頼されてて簡単だから、これを取ってくるお仕事は冒険初心者が最初に受けるお仕事としておすすめなんだって」
彼女も同じ仕事をしたのだろう、仕事を説明する言葉の端々から余裕が感じ取れた。一度クリアできた彼女が一緒に行ってくれるなら問題はないだろう。俺とアイリスは了承して頷いた。
「決まりだね。そんじゃまあ……、お酒を飲み終わったら冒険の準備をしましょうか。あれ? アイリスちゃん、お酒苦手なの? もらってもいい?」
ティアナはアイリスからお酒を受け取るとグイグイと飲み干していく。俺は自分の分も持っていかれそうな気がして勢い良く酒を飲み込むのだった。