6 酒場ー(1)
「最後に、軍資金として5000Gを渡しますね! お金はモンスターを倒すと手に入りますし、時たまモンスターの素材もゲットできるので、それは売ったり、武器や防具の素材にしたりして有効に使ってください! では、貴方の冒険に幸あらん事を!」
とてもいい笑顔でコインの入った麻袋を渡されば、俺は頭を下げて礼を述べながら建物を出た。
「よぉ、その痣を見る限りお前も冒険者になったんだな」
建物から出てきた俺の姿を見るやいなや、カインは俺へと近づいてきて、手の痣を見た。カヤはどうやら帰ったらしく、見渡しても近くにはいなかった。
「ふうん、緑って事は風属性か。オレのギルドには必要ないかな」
カインは少し肩を落として溜息と共にそう言った。
「ギルド?」
「ん、ああ。簡単に言うと5人の冒険者の団体をパーティー、そういったパーティーが幾つも集まったのがギルドって言うんだ。一応オレ、『紅い流星』っていうギルドのリーダーやってるんだけど……風属性はそれなりにいるからな。お前が全属性使えたら速攻で仲間にしたんだけど」
「なるほどね……。ギルドか、まだこの世界の事は詳しくないから、そういうのに入るのも1つの手か」
カインの話に、ギルドに入ってみるのもいいかもしれないと思ったが、俺の言葉にカインは大きく首を振った。
「いやっ! 確かにギルドだとベテランとパーティー組んだりして色々教えてもらったりもできるし、命の危険も少ないけど、最初は何も知らない初心者通しでパーティー組んだ方が絶対楽しいぞ! オレも最初は初めて会ったやつとパーティー組んで、色んな事を経験して、今のギルドを作ったんだ」
カインは、拳を握り大きな声で力説した。ふむ……、ギルドかパーティーか。どちらを選んでもこの世界を知らない俺にとっては充実した冒険になりそうだが、ここは命の恩人の言葉を素直に受け取ろう。
「よし、俺はパーティーを組んでみる事にする。……でそういうのはどこで組めるんだ?確か……酒場だっけか?」
「ああ、酒場だな。あそこは年がら年中色んな冒険者が集まってて、仲間を募集してたり、色んな仕事の依頼が集まってるんだ。有益な情報とかも集まってるんだが……、さすがに今日はもう時間が時間だから、明日行った方がいいかもな」
カインはそう言うと、小さな紙切れを取り出して俺に手渡した。紙にはここからとある建物への地図が書かれていた。
「そこ、オレの親戚がやってる宿屋なんだ。少し古いけど、安くて美味しい朝食付きさ。とっ、後これも」
カインはコインと小さな麻袋も取り出し、渡してきた。
「その金は、さっき倒したウルフマンから得た金の半分な。お前もダメージ与えてたから貰ってくれ。そっちの袋はチコリべが入ってる。カヤからのお礼だってよ」
それだけ説明すると、カインはクルリと背を向けた。
「今日はカヤを助けてくれてありがとなっ なんかあったら紅い流星を訪ねてくれ。必ず力になるからさ」
そう言って去っていくカインに俺も声をかける。
「こちらこそ、色々世話してくれてありがとう、カイン。カヤちゃんにもよろしく言っといてくれ」
カインは一度振り返り、ニッと笑うと雑踏の中へと消えていった。
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宿屋で目覚めた俺は、シャワーを浴びた後、美味しい朝食をいただいた。ふっくらと柔らかい焼きたてのパンとこんがり焼かれたハム。野菜がたっぷり入ったミルクスープに『カミナバ』というフルーツ。特にパンとスープはおかわり自由だったため、腹一杯になるまで食べてしまった。
その後、忘れ物がないか確認した後、宿屋の若女将に宿泊の礼を述べ、前日の内に場所を聞いておいた酒場へと向かった。