3 冒険者ー(2)
目的の場所へ向かう途中、2人がどうしてこんな森の中にいるのかを尋ねたら、どうやらカヤがお菓子作りの材料を集めたいと言ったかららしい。カヤが腰にぶら下げていた布袋を開いて見せてくれて、その中には赤紫のビー玉サイズの木の実が入っていた。『チコリベ』というその木の実はケーキのトッピングには欠かせないらしく、足りなかった分を2人で採りに来たが、はぐれてしまったところをウルフマンに襲われたらしい。
「このままでも、美味しい、です。どうぞ」
カヤは、チコリべを1つ取り出すと、手渡してくれた。ずっと飲まず食わずで歩きっぱなしだったので、ありがたく頂き、口に放り込んだ。その味は苺に近い味わいで、ほのかな甘酸っぱさは疲れた身体にゆっくりと浸透していった。
「ありがとう。美味かったよ」
微笑みながらお礼を伝えると、カヤは頬を赤らめながら、それでも嬉しそうに袋を閉じた。
「よっと、見えた見えた。 あれがが『ガルムスト王国』、世界で一番冒険者が集う国さ」
森を抜け、数百メートル先に灰色の城壁が左右に広がっているのを指差しながらカインは呟いた。その城壁は縦にも横にも大きく、恐らく高さ数十メートルもあり、長さは数十キロにも及ぶだろう。端の方がカーブを描いて奥へと消えていってるのでどうやらこの王国は円形に城壁に囲まれているらしい。
しかし、それ以上に目を引いたのは、王国の中央にある、城壁よりも高く、雲にまで届きそうな巨大な塔である。
「なんだあの塔は、って顔してるな。大丈夫、それについても、教えてもらえるからさ」
俺の顔が如実に語っていたのだろう。カインはこちらを見てからかうように笑いながらそう言った。慌てて表情を直すと、なおもにやけ顏で見つめるカインに案内を促し、再び歩き出した。
城門をくぐり抜け、壁の中に入ると、そこは中世のヨーロッパのような街並みが広がっていた。しかし、ある程度は文明が発達してるのか、道路の脇には街灯が建ち並び、大勢の人が歩き、活気立っていた。
人混みをくぐり抜けるように進むと、カインは教会のような建物の前で歩みを止めた。
「ここが、この世界に1番詳しい人がいる場所だ」
「ふむ…、ここで、話を聞けばいいんだな」
「ああ、この世界のことから聞くとちょっと長いことになるだろうけどさ。 オレはここで待ってるから、とりあえず聞いてこいよ」
カインは笑顔を浮かべながら俺を見つめる。
「ここから出てきた時、お前がどんな風になってるか楽しみだぜ」
その言葉に少し不安を覚えたが、とにかく今はこの世界の情報が欲しい。俺は一度だけ深呼吸をした後、扉を開けた。