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結婚初夜

「ヒルドの防具も買おうね」

 振り返って、後ろから黙ってとぼとぼとついてくるヒルドに言う。

「いえ、私はヴァルキリーなので戦闘に参加できません。

 その代りに、戦闘でダメージを受けることもないのです。

 私には神々の加護がありますので」

「え、そうなの?」

「ええ、はい。ですからお気遣いは不要です」

 ヒルドは浮かない表情でまた俯いてしまう。


「あのねぇアリカ。人のことばっかり気にしてちゃダメよ。

 もっと自分のことも考えないとね。あなたは勇者なのよ」

「HPは満タンだと思いますけど、どこか痛いところとかはないですか?」

「大丈夫だよ。イズン、ありがとう。

 ヒールのおかげで大分よくなったよ」

「今のところ、私はこれくらいしか取り柄がありませんから。

 私も、もっとレベルがあがれば攻撃魔法を覚えられるんですが……」


「エクスホーリーとか?」

「そ、そんな、と、とんでもない!

 そんな白魔法の上級魔法なんて、使いこなせるわけありませんよ!」

「ゲーム、いや、俺の予言ではイズンはエクスホーリー使ってたよ」

「ほんとですか!?

 それが本当なら、私ってもしかして、結構凄いのかも……」


「ね、ねぇねぇ。あたしはあたしは?」

「武闘家最強の特技とか使えるようになってたよ」

「それって、螺旋(らせん)波動掌とか!?」

「それも使えるけど。

 もっと凄い特技があって、師範マスターに秘奥義を教わるんだ」

「ひ、秘奥義!? なにそれ、強そう」


「もしかして、あたしたちかなりの才能を秘めてるんじゃない?」

 スカジが嬉しそうにイズンに話しかける。

「自意識過剰になってはいけませんよ」

 と、イズンはスカジを注意するが、イズン自身も嬉しそうに笑っていた。


 2人で盛り上がっているスカジとイズンを尻目に、俺は歩を緩めてヒルドの隣で歩くことにした。

「ヒルド、元気がないけど、どうしたんだ?」

「アリカがスライムを2匹も倒して、すごく嬉しかったんです。

 普通の勇者は、最初はスライムにも手こずるらしいので。

 それで私も興奮しきってしまって、サポートがおろそかになりました。

 私、アリカが初めてお遣えする勇者なので、経験がないんです。

 ごめんなさい」

「謝ることなんてないよ。

 さっきのだって、俺が戦闘中に油断したからいけないんだ」


「でも、私は足を引っ張りました。

 声をかけたタイミングが悪かったせいで、敵の攻撃がバックアタックになるようにしてしまって……」

「気にするなって。初めてだったんだし、仕方ないさ。

 俺もこれからちゃんと経験つんで、心配をかけないようにするからさ」

「……ありがとうございます。アリカは優しいんですね」

「そんなことないさ。誰にだって優しいわけじゃない。あのその……」


 なんていうか、ファーストキスの相手だし。

 けど、そんなことは年齢イコール彼女いない歴の俺には恥ずかしくて言えるわけがない。

 いや、俺の今はパワーアップしたんだ。

 彼女どころか俺には3人の嫁がいる!


「なんですか?」

「ああ、いや。大切な仲間だからね」

「私は仲間ではありませんよ。

 ヴァルキリーであり、一緒に戦うことができないのですから」

「そんなの関係ないよ。

 一緒にこうして旅してるんだからさ。仲間だよ、仲間」


「うらんでいませんか? この世界に呼び寄せた私のことを」

 立ち止まって、ヒルドが言った。

 目線は下を向いており、俺のことを見てはくれない。


「うらんでなんてないさ。

 驚きの連続だけどね。なんとかやっていくよ」

 前を歩くスカジとイズンとの距離が大分開いてしまった。

 2人は、こちらに振り向いて歩みを止めている。

 俺はヒルドの手をとって「しょげてないでさ、早く行こう」と歩を早めた。


 スライムとホーンラビットを換金したら、結構な額になった。討伐料と素材料を合わせて、21Gだ。たった1回の戦闘で、宿屋換算2日強。

 国王は勇者の俺にもっと大金をくれてよかったんじゃ……。

 採取した薬草なども必要な分だけ残して売った。全財産は161Gになった。


 結構な資産家なんじゃないか!? と少しテンションがあがったが、スカジにおなべのフタ(を強化した盾)50G。

 俺にかわのたて90Gを買ったら残金が21Gになってしまった。

 イズンもおなべのフタを装備できるので、買いたかったが予算オーバー。

 おなべのフタ*3でもよかったのだが、イズンは後衛で敵に近寄らないし、ダメージを受けても自分で回復できるから、と説得されてしまった。

 申し訳ないが俺を皮の盾にさせてもらって、イズンは盾なしのままだ。


 スカジにとっては、皮の盾は防御力が高くてしっかりしたつくりの分、

重すぎて動きが遅くなるから嫌だ、とのことだ。

 嫌だ、という言い方をしたが、つまり装備できないってことなんだろう。


 それにしても物価がおかしい。

 冒険に必要なモノがやたら高い割りに、宿屋は1人あたり2G。どうも生活必需品の類は、王国から補助金が出ていて安いらしい。

 この辺りは魔王の城から遠く、弱い魔物しかいない。武器防具の素材が集まりづらいし、そもそも需要があまりない。にも関わらず供給が少ないから、値段を高くしないと店が成り立たない。

 たまに、他の街の商人が訪れて物を売っていくが、遊行費などが加算されるため、高くて買えない。

 なんか色々大変らしい。


 予算21Gの中から、8Gも捻出して宿に泊まるわけにはいかない。

 俺たちは今朝方訪れた冒険者の酒場に行くことにした。

 夜の酒場は賑わっていた。至るところで談笑が聞こえてくる。


「いらっしゃい! お、あんたたちか。泊まりに来たのかい?」

 管理人さんが出迎えてくれた。

「ええ、なにぶん金がないもので」

「ほんとだったら、店の手伝いをしてもらいたいところだが。

 旅の疲れもあるだろう、今日はサービスだ。無料・無労働でいいよ。

 旅に慣れるまではサービスにしてあげる。

 二階の奥にシャワーとベッドがあるから使っていいよ。

 飯はどうする?」


 俺は疲労度が高くて食べる気がしなかった。他の3人も同様らしい。

 少しは食べないとダメだ、と大きなパンを渡される。

 俺たちはアラサーお姉さんに感謝しつつ、二階にあがった。


 二階は、手前は階下と同じようにテーブルとイスが並べられていた。

 真ん中の辺りで、仕切りのカーテンがある。

 カーテンを抜けると、ベッドが何台かしつらえてあった。数はそれほど多くないが、ひとつひとつがやたら大きい。

 右隅には、さらにカーテンでしきられた箇所があって、シャワー室らしい。


 パンを4等分にして、それぞれで食べた。

「女の子は長くなるからお先にどうぞ」と言われて、俺はシャワーを浴びにいく。

 石鹸などはなかったので、念入りに身体を洗い流す。

 『洗って使え』という貼り紙の下にかかっていたタオルを洗い、よく絞ってから身体を吹く。

 着替えはない。防具屋で布の服を買おうにも、10Gする。手持ちの資産額を考えると、気軽に買える額じゃない。

 俺は先ほど脱いだ服を再び着るしかなかった。

 せめて女の子たちには着替えを用意したいところだが……。旅人の服を売ったのは、失敗だったかもしれない。


 着替えのことを話すと、女の子3人は驚いていた。

「もしかして、アリカは元の世界では貴族だったの!?」とのこと。

 ここでは通常6日間くらいは同じ服を着続けるらしい。

 着替えの購入を提案したら「そんな贅沢できるわけがない」と怒られた。


 激しい運動(というか戦闘)のおかげで、ベッドに腰掛けているとすぐに眠くなってきた。

 可愛い女の子たちとの会話をもっと堪能したかったが、眠気がそれを許してくれない。

「俺はそろそろ寝ることにするよ」

「そうね。明日も忙しくなるだろうし、もう寝ましょう」


 俺は靴を脱いで、今まで座っていたベッドの上をのそのそと移動する。

 ヒルド、スカジ、イズンも同じように俺の使うベッドに上がってきた。


「え?」俺は目を瞬かせる。


「どうかしたんですか?」

「どうしたもこうしたも。このベッドは俺が使おうと思うんだけど」

「ええ、それがどうしたの? どこ使っても怒られないと思うわよ」

「いや、そうじゃなくてさ。他にも空いてるベッドがあるじゃないか」

「まだ早い時間ですからね。空いてますよ。

 でも、すぐにいっぱいになると思います」

「え、何それ。ベッドが足りないってことを言ってる?」

「まぁ足りないわね。そしたら、床で雑魚寝よ。ベッドは早いもの勝ちなの。

 大体1つのベッドで最低6人くらいは使うわ。

 あ、でもアリカは勇者だから優先されると思うわよ。身分が違うもの。

 あたしたちパーティーのベッドに他の人が入ってくることもないわ」


「え、なに一緒に寝るってこと!? 一緒のベッドで? 男女で!?」

「パーティーなんだからそりゃそうでしょ。

 昨日まではあたしとイズンは女同士の冒険者と一緒に寝てたけど」

「パーティーを組んでない男女がベッドを共にすると、愛の女神の裁きがあるんですよ」

 スカジの言葉にイズンが付け足した。いや、そういうことじゃなくてだね。


 やっぱり元の世界では貴族だったんじゃないの? とスカジとイズンは訝ってくる。

「最初はこの世界の風習が分からない勇者も多いと聞きます。

 少しずつ慣れていけばいいですよ、アリカ。

 色々とアリカに教えてあげましょう。スカジ、イズン」


「せっかくの結婚初夜なんだから、みんなくっついて寝ないと」

 スカジが言った。


 ヒルド、俺、イズンの順に川の字になって、一番体格が小さい(俺と同じくらいの背丈だけど)スカジが俺の胸の上で横になった。

 ヒルドとイズンは俺の腕を抱くようにして横になる。

 左右を見ると、美少女たちのドアップの顔が映る。

 スカジは俺の心臓に耳をあてて、横になっていて、手は俺の胴体を抱きしめ、背中にまでに回されている。

 その上から布団をかけられた。布団の中央部がスカジの身体の分だけもっこりしている。

 客観的に見ると、アレな光景である。


 おいおいおい!! うそだろ、これ!!!!!!!!!!!!

 小柄なスカジは、上に乗ってもそれほど重さを感じない。

 身体はどこもかしこも柔らかくて、この身体のどこに魔物と戦う力が

あるのか不思議だ。

 と、冷静に考えたフリをして自分を騙そうとするが無理だった。


 シャンプーなんてないのに、スカジの髪の毛からはいい匂いがする。気がする。風呂上りの女の子、という単語が頭の中に浮かび、鼓動がどんどん早くなっていく。

 女の子たちの身体はみんな暖かくて、体温が伝わってきてほてる。


「アリカって血圧が高いのね。勇者ってみんなそうなのかしら」

 スカジの言葉に俺は顔が真っ赤になり、さらに鼓動が早くなる。

「また早くなった」と言われてしまって、俺はどぎまぎするしかない。

 両の手は、ヒルドとイズンの豊満な胸に抱き寄せられていて、どちらも圧倒的な柔らかさを誇りながらどちらも趣が違う。

 わびさびである。いとあわれなり。


 あれほど強かった眠気は吹き飛んでしまった。

 スカジの言うとおり、心拍数があがりすぎて、眠れる気がしない。

 両手と胴体をロックされているので、身動きが取れない。


 階下の酒場から聞こえてくる喧騒よりも、女の子3人の寝息の方が俺には大きな音に聞こえた。

 規則正しい呼吸につれて、ヒルドとイズンの胸(!)や、上に乗っかっているスカジの身体がかすかに動く。


 スカジは寝相が悪いのか、布団の中で身体をもぞもぞさせてくる。猫のように頬をこすりつけてきたりとか。

 役得ではあるんだろうけど、経験の少ない俺にとっては、そういうのは毒みたいなもんだった。

 大人の階段を一気に駆け上り過ぎている。俺はスカジが動く度に、身体をビクつかせ、猛る自分を抑え込む為に、何度も深呼吸を繰り返した。

 生殺しがこんなにも辛いものだとは思わなかった。

 あんまり動くのはやめてほしい。特に下腹部の辺りで。


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