意図せぬ停滞
まったくドワーフには驚かされる。
たった一つのアイデアだけで、シンドリの作るロボットは劇的に強くなっていった。なっていった、というか現在進行形でなっていっている。
作業を自動化したことが功をなしたのだろう。これまでシンドリは、ロボットを作ることだけで手いっぱいだったが、自動化のおかげで手作業が減り、考える時間が増えた。
俺やスカジがロボットと戦うデータの解析をする余裕が生まれて、そのデータを基に新しいロボットを作ることができるようになった。それが影響しているのだろう。
まだ俺やスカジには遠く及ばないものの、手ごわくなってきているのは確かだ。単純に、力とスピードはこちらの方が上だが、それに追従できるようになってきた。
以前であれば、こちらが一方的に攻撃していたのを防いでカウンターをしかけてきたりする。
ロボットということもあって、攻撃にはパターンがある。しかし、パターンが分かったとしても躱せるかどうかはまた別の話だ。
絶妙なタイミングで入ったカウンターを避けるのではなく、受ける必要もでてきた。
どんどん強くなっていく。まるで、ロボット全体が一つの生命で、少しずつレベルをあげているように。
しかし、ロボットと俺やスカジには大きな壁がある。どんどん強くなっているとはいえ、俺たちは危なげなくロボットと戦えている。
シンドリは戦闘データからあらゆるアイデアを取り入れて反映しているが、実力差が有り過ぎて効果があったのかなかったのかが判断しづらいらしい。
以前より強くなったのか? 強くなったけれど、俺たちの方が強すぎるので効果が見えづらいのか? などなど。
俺はロボット同士を戦わせて戦闘データを取ることを提案した。それなら実力がある程度拮抗しているし、だからこそ、改善されたかどうかが分かりやすい気がしたからだ。
俺とスカジはその模様を観戦して、どこをどうしたら良いかをアドバイスする側に回ってみることにした。
「やっぱり、ロボット同士で戦わせた方が効果が見えやすいですね」
傍らであごの無精ひげを撫でているシンドリに向かって言う。
「そうじゃな。だが、これじゃあ少しずつしか改善できん」
俺は元の世界の仕事を思い出して、世の中ってそういうものだけどなーと思った。劇的に何かが進むことなんて有り得ない。毎日毎日机に向かって少しずつよりよいモノを作る。
だが、魔法やら何やらがあるこの世界ではそういった道理は通用しないのかもしれない。
とは言うものの、想定よりも長く滞在し過ぎているのでそろそろ終わらせる方向で進みたい。シンドリを説得させるしかない。
「ちょっとずつでも良くなっているのが分かるだけでいいじゃないですか。
俺たちとやってた時は、それすらよく分からなかった訳ですから」
「まぁ、それはそうじゃが」
「僕たちもアドバイスできることが少なってきましたしね。
だから、その、そろそろ……」
「なんじゃ?」
シンドリがこちらに向き直った。面と向かわれると言いづらい。
「そろそろ、……こちらのお願いも聞いていただけませんか?」
「お願い? なんじゃそれは」
シンドリは首を傾げる。どうも本当に分かっていないように見える。
「なんじゃって、最初にお願いしたじゃないですか。薬を作って欲しいんですよ」
シンドリは眉根を寄せて、表情に?を浮かべた。そして、髭を撫でる。髭に触るのはシンドリがモノを考える時にする癖だ。
少しの沈黙の後、シンドリは口を開く。
「あれ、お前らはワシに弟子入りしたんじゃなかったか?」
「違いますよ。薬を作って欲しいって最初に言ったじゃないですか」
「まるで思い出せん」
俺はため息が出る。ドワーフはモノ作りは天才的だが、それ以外のことが全然できない。すぐに起きた出来事や約束を忘れる。
本人たちは約束を守る義理堅い性分だとか思っているようだが、そうではなく、単に忘れていることが多いのだ。
一緒に働く上で散々思い知らされた俺は、根気よく呆けた老人を相手にするように優しく丁寧に話す。
「俺たちがシンドリさんのロボットを壊しちゃって、その代わりに今手伝っている訳でしょ? 俺たちは薬を作って欲しいんですよ」
「そうじゃったか……。うーむ」
「最初に森で会ったじゃないですか? 街の北西にある森ですよ。
そこでシンドリさんは、ロボットの実地訓練をしててそれを俺たちが壊しちゃったんですよ。まぁ、わざとじゃなくていきなり襲いかかられたからですけど」
「ああ、ぼんやりと思い出してきたぞ。お前らが壊した言い訳をぐだぐだと言っておったな」
「いや、言い訳じゃなくて本当のことなんですけど……」
「お前らくらいの実力があれば、壊さずにもすんだじゃろう。これが言い訳じゃなくてなんというんだ」
「そりゃ、シンドリさんが作ったロボットだって気づいてたらそうしましたよ。俺たちは新手の魔物かなんかだと思ったんでね。手加減する必要もないでしょ。何より危ないし」
「ふん、お前たちのせいでワシのロボットは壊されたんじゃ。これ以外の真実などない」
「だからこうして手伝ってるんでしょ? シンドリさんの為に。ロボットたちだって、最初の頃に比べて随分強くなったじゃないですか」
「そりゃそうじゃが、まだまだやることがある。お前たちにやらせることもな。ワシのロボットはこれからもっと強くなるんじゃ」
「俺たちだってやることが色々あるんですから、いつまでもやり続ける訳にはいかないですよ」
「弟子が師匠に逆らうんじゃない!!」
「弟子入りしたつもりはないですし……」
「ああ、そうじゃったか。とにかく、まだまだなんじゃ。もっともっと強くなってもらわな困るんじゃ」
「前から思ってたんですけど、ロボットを作って何をするつもりなんですか? 何を戦わせたい訳ですか?」
「なんじゃ、前も言わなかったか? ワシにできるから作っておる。ドワーフは常に自分の才能と戦っておるんじゃ。よりよいモノをこの手で作る為にな」
「だとしても、わざわざ戦闘ロボット作ってるのには理由があるんでしょ?」
「…………そんなもんないわ」
すぐに即答できない沈黙が、まさに理由があることを物語っていた。
だが、ここで話をこじらせてシンドリを怒らせるのも厄介だ。
「ともかく、薬を作って欲しいんですよ。俺たちは。ロボットを壊しちゃったことは申し訳ないと思ってます。けど、あのロボットよりもはるかに強いロボットを作るお手伝いはしたでしょ?」
「だから、まだまだ強くなる余地が……」
反論しようとするシンドリの言葉を制して、俺は言う。
「俺たちは約束を守りましたよ。
今度はシンドリさんが約束を守ってください。
約束を違えるなんて、誇り高いドワーフのすることなんですか?」
シンドリは、まだ何か言いたそうだったが俺の言葉で黙った。まだ手伝わせたいという下心はあるのだろうが。誇りだとかそういう言葉にひっかかりと感じて、言い返せないのだろう。
「約束、守ってくれないんですか?」
「ドワーフが約束を違えるなんて、ある訳がなかろう」
「じゃぁ、薬を作ってくださいよ」
「だから、まだまだ強くなる余地が……」
「そんなの俺たちには関係ないですよ。というか、強くなる余地がなくなることなんて一生来ないでしょ」
「お前たちワシの弟子にならんか? そうすれば、一生手伝うこともできよう。ワシは弟子は取らないことにしてたんじゃが、お前たちなら弟子入りさせてもよいぞ」
謎の上から目線に俺は少しカチンと来る。
「弟子になんてなりませんよ。俺たちはね、ロボットを壊しちゃったからその代わりに罪滅ぼしをしてるんです」
「ワシの弟子になりたくないなんて、本当のその口が言ったのか!?
ここいらのドワーフが聞いたら泣いて喜ぶような事だぞ!!」
「俺たちはドワーフじゃないんでね」
「まぁまぁ、この話は後じゃ。
ほ、ほら、お前は自分のやるべきことをやっておけ」
「そもそも俺のやるべきことはこれじゃないんですよ。
早く薬を作ってください薬を」
「お前、そんな生半可な気持ちで仕事をしておったんか、けしからん!!」
「ちゃんとやってるでしょう。だから、ロボットだってここまで強くなったじゃないですか」
「いいから、今やれることをやれ。ほら、もっとロボットを強くせねばならんのだ」
結局、薬の件は何度も話題には出さないものの、シンドリに全てかわされれてしまった。ロボットを作ることがそんなに大事らしい。
いつも強気にあれこれと言ってくる割に、この件に関しては下手に出てきたりもする。
みんなとこの件を話してみるが、特に良いアイデアは出てこない。頼みの綱である、フノスも(多分、目的を達成したら帰らなければならないので)あまり協力的ではなく、何も提案してくれない。
そんな日々を何日か過ごした。
俺たちの状況はフレイに手紙を出して伝えているが、向こうからの手紙の「早く帰ってこい」という催促がだんだんときつくなってくる。




