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簡易ロボット

 案の定というか、俺たちはシンドリにこき使われることになった。

 ロボットの戦闘データから素材集め、加工の手伝い、シンドリの身の回りの世話をする。

 シンドリは、ドワーフの中でも地位が高いらしいので、言うことを聞くしかない。のだが、どうにも納得がいかない気持ちもある。


「なんでロボットなんて作ってるんですか?」

 トンカチでロボットの外装となる熱した鉄を叩いているシンドリに聞く。

「なんでってそりゃあれじゃろ」

 言ってから、3回鉄を叩く音が辺りに響いた。良い答えが思い浮かばなくて、このまま何も言わないのかな? と思っていたらシンドリは続きを答える。

「ワシにできるからじゃよ。できる技術があって、環境もある。どこまで高性能なロボットができるか、試したくなったんじゃ」

「楽しいとかそういう理由じゃないんですか?」

「そりゃ、楽しいこともある。だが、武器を作るのに比べたらあんまりじゃな。時間はかかるし、必要な素材も多すぎる。

 武器じゃったら、数日もあれば満足感を得られるんじゃが」


 だったら武器だけ作ってればいいのに、と思う。シンドリはロボットを作る度に、性能を調べる為にテスト用のロボットと出来立てのロボットを戦わせる。

 そして、性能テスト用のロボットに負ければ作り直しだ。スクラップ同然になった出来たてロボットをばらして、使えるパーツを再利用する。

 俺も簡単なことしかやっていないとはいえ、手伝っている手前、何日もかけたロボットがたった数分で壊れてしまうのを見るのは耐えがたいものがある。


「だったら、武器を作ってればいいじゃないですか。そっちの方が楽ですし」

「そりゃそうなんじゃが……。武器を作ってもワシは扱えんのでの。作る楽しみだけで、それ以降がつまらんのじゃ。

 傷つける道具ばっかり作ってものう。ワシが傷つけられる可能性があがるだけなんじゃ。

 その点、ロボット作りを成功させれば、ワシはロボットに守ってもらえる。実益も兼ねてるんじゃよ」


 シンドリたち小人族の作る武器は、神族ですら重宝するような代物ばかりだ。

 例えば、俺の持っている聖剣グラムだって、元々はドワーフたちが神々の為に作った代物。その後で人間の方でたびたび鍛え直している。

 そもそも大抵の道具は、まずはドワーフが作るらしい。その後で、他の種族がそれを貰ったり、模倣したりする。この世のあらゆる道具はドワーフが作った、と言い伝えられているらしいが、あながち誇張表現でもないのだ。

 そして、シンドリは今度は自動で動作する戦闘ロボットを作り上げ、さらにそれを強化しようとしている。


「ボディーガードでも雇って、そいつらに武器を配ればいいんじゃないんですか? それなら、こんな苦労しなくてもいいですし」

 シンドリの作った装備がもらえるとなれば、雇って欲しいと思う輩も多いだろう。

 良い提案かな? と思ったのだが、シンドリは詰まらなそうな顔で応じる。

「そんなもんつまらんじゃろ。そんなもんじゃ、ワシが優れているのかそいつが優れているのか分からん。ワシの手で最高のものを作りたいんじゃ」

「はぁ……そういうもんですか」

「まったく、エルフは何にもわかっちゃおらんな」


 そんな事言われても、暇だから話かけているだけであまり興味がない。というより、元々は興味があったのだが何時間も何日も手伝いを続けながら話を聞いている内に耳にタコなのだ。

 ドワーフは職人気質の人間が多い。価値観が凝り固まっているので、どのドワーフに話を聞いても同じようなことしか言わない。

 いい加減飽きてきた。

 しかし、俺は流れ作業をするしかないので、その苦痛を和らげる為に会話をしないともたない。


 色々と文句が頭に浮かびながらも、ロボットを作るのは面白い。俺がやっているのは単純作業でしかないが、それがロボットのような高性能な機械に様変わりしていく姿を見るのは楽しい。

 産みの苦しみと言えばいいのか、やっている時は単調でもその成果が見れるのはいい。だからこそ、性能テスト用のロボットに毎度破壊されるのを見ると憂鬱になるのだが……。


 シンドリは作るのがひたすら楽しいらしく、ああだこうだとロボットを作るデメリットや詰まらなさと語りながら、口元は笑っている。

 逆に俺と異なるのは、テストロボットに作ったばかりのロボットが破壊されても、あまり残念がっている節は見当たらない。熱心にメモをとって、次の戦略を練るのが楽しいらしいのだ。もう何度も作ったロボットが破壊されている所を見ているので、感覚が麻痺しているのかもしれない。


「ほらほら、ふいごが止まっておるぞ。真面目にやらんか」

 言われて、俺はふいごをまた動かし始める。ふいごというのは、送風機だ。取っ手を開いたり閉じたりすることで、ピンポイントに風を送ることができる。

「まったく。まるでうまくならんの。ワシの弟がやってくれた時は、もっと時間を短縮できるんじゃが」

「そんな事を言われても、仕方ないじゃないですか。長年やってきたドワーフの弟さんと一緒にしないでくださいよ」

「身体が悪くなってしもうてできんのが残念じゃ。才能があったのにな」

「もうその話、何回も聞きましたよ」

「何べん言っても足りんほどなんじゃ。あれだけの者も少ないぞ。せっかく技術をつけたのにのう」


 はいはい、と聞き流す。弟さんは、シンドリと一緒に武器を作っている際に、事故があって目が悪くなってしまったらしい。同情する内容なのだが、毎日、酷い時には1日に何回も聞かされたら感情も薄れていく。

 不謹慎で申し訳ないが「またその話か……」と思ってしまう。


「ところで、あれだけ高性能のロボットが出来るんだったら、簡単な作業を自動化すればいいんじゃないですか?」

 俺はふいに思って聞いてみた。一定の水準のモノを効率よく作りたいのなら機械で自動化すればいいんじゃないか、と思い至ったのだ。前の世界では、それが当たり前だった。

「なんじゃ自動化って」

 わざわざ人力でやらされていたので、人による微妙な調整が必要なのかな、と何となく考えていたのだが、どうもそうじゃないらしい。自動化という概念そのものを知らないようだ。


「例えば、今俺がやっているこれ、送風を行うロボットを作るんですよ。一定の強さと一定のタイミングで風を送れるようなものをね」

「そんな簡単なモン作ってどうするんじゃ。役に立たんだろう。

 良いから口じゃなくて手を動かせ。風に強弱をつけずに一定にやれ」

「役に立ちますよ。人がやったら、風が強くなったり弱くなったりしますけど、機械が一定の速度で自動で出来るようにすればいい」


「そんなもんを作ってる暇がどこにある。ワシはロボット作りで忙しいんじゃ」

「忙しいからこそ、やっておくんですよ。これからずっとこの作業が必要なんでしょ? 1度作ればその後も何度だって使えるんですよ? それに俺の手も空く」

「お前がサボりたいからそんな事を言ってるんじゃろう。騙されんぞ。エルフはまっこと屁理屈ばかりじゃのう」


「違いますよ。その間に、俺は素材集めに行くことができる。素材だって足りなくなってきてるでしょ?」

「そりゃそうじゃが……。

 ……さっきも言ったじゃろ。そんなもんを作ってる時間がない」

 話がループしそうだった。ドワーフは、物を作るのには長けているが頭が悪い。というか、一度「こうだ」と思った事を曲げようとしない。先々のことを考えず、目の前にばかり熱中する。

 だからこそ、様々な物を生み出せているのかも知れないが、楽できるところはしたほうがいいだろう。

 俺だって、何日もここに滞在するのは億劫だ。


「それくらいの物なら、すぐ作れるんですよね? 騙されたと思って、1回だけ作ってみましょうよ」

 俺は食い下がる。

 ドワーフたちは頑固ではあるが、こちらが言い分を曲げないと途中でイラついて「分かった分かった」と言い出す。考えるのが苦手なので、頭をパンクさせてやればいいのだ。この数日間で学んだ。

 何度か同じような会話のやりとりをしていると、ついにシンドリが折れた。

「分かった分かった。エルフの屁理屈を聞くのはもう沢山だ。さっさと作って、お前の口を黙らせてやろう」


 自動でふいごを動かす機械は30分と経たずに出来た。スクラップになっているロボットをちょっと改造して、ふいごを動かすようにしたのだ。

 シンドリは自分で作った癖に「どうやって、その自動化とやらをやるんだ」と俺に尋ねる。

 俺の代わりにその機械にふいごをセットし、鉄にほどよく風があたる位置に設置した。

 シンドリが作ったものだけあって、俺が指定した通りの動きをしっかりしてくれる。


「どうです? 楽じゃないですか?」

「楽してるのはお前だけじゃろ。見てるだけじゃないか」

「いやだから、俺は手が空くから素材集めにでかけたりできるでしょ」

「行ってないじゃろ」

「明日からは行くことにしますよ。で、作業の方はどうですか? うまく行ってます?」

「当たり前じゃろ。ワシが作ったんだから。お前よりうまいくらいだ」

「だったら文句なしですね。これからは、この機械を使っていきましょう」

「あ、ああ。そうじゃの」


「所で、シンドリさんが今やってる作業って難しいんですか? 鉄をトンカチで叩くのって」

「そりゃ、難しいなんてもんじゃなかろう。同じリズムで同じ強さで鉄を叩く。寸分もたがわず、な。職人の腕の見せどころじゃ。修行を積まねば、こんな正確にはできんぞ」

「じゃ、それも自動化してみましょう。専用の機械を作りましょう」

「ば、馬鹿にしとるのかお前は! 職人の粋に達するのにどれだけの修行が必要だと思ってるんだ!!」

「まぁまぁ。とりあえず作ってみましょうよ。シンドリさん程の職人だったら、その程度の機械ならすぐにでも出来るんでしょ?」

「そりゃそうじゃ。ワシをなめてもらっちゃ困る」

「とりあえず作ってみましょうよ。それから考えましょう」


 口ではああだこうだと文句を並べ立てながら、それでもシンドリは新しい機械もすぐに作ってしまった。こちらも以前に壊れたロボットを流用している。

 カン、カン、と鉄を打つ音が鍛冶場にこだまする。シンドリは、自分が作った機械を信用できないのか、機械がハンマーを持ち上げる度に驚きの声をあげた。


「だ、大丈夫か? そうそう。おお、やるではないか。いいぞ、今の叩き方はよかった。もう一度やるのか? ハンマーをあげて、ここで止めて……おお、ぴったりの位置じゃ。そして、振り下ろす。いいぞ、お主うまいのう」

 ツギハギで作っただけのそのロボットには、音声識別機能は搭載されていない。にも関わらず、まるで我が子を見守る父親のようにシンドリは相槌を打ち続けた。


「なぜ、訓練もしてないのにこんなに正確に仕事ができるのだ」

 なぜも何もそういう風にシンドリ自身が作っただけなんだが……。やっぱりドワーフは頭が弱い。モノ作りに特化しているというべきなのか……。

「シンドリさんが作ったんだから、正確なのは当たり前ですよ」

「それもそうか。わっはっは」

 少しおだてるとすぐに調子に乗って、それまでの会話の流れを忘れてしまう。シンドリはすぐに上機嫌に戻った。


「なんじゃ、自動化、というのも便利じゃのう。

 この2体にまかせておけば、ワシが寝ている間にも仕事ができそうじゃの」

「それが機械の良い所ですよ。ロボットの戦闘データの整理とかって、まだ全然進んでないんでしょ? 機械が作業してくれてる間に、進めちゃったらいいんじゃないですか?」

「じゃが、こいつらがきちんと出来ているか見張らないといかんのじゃないか?」

「シンドリさんが作ったんだから、正確に仕事しますよ。終わりそうな時間になったら、仕事を確認しに来て機械を止めればいいんです」


「おお! それもそうじゃのう。お主、エルフの癖に賢いのう。

 まるで魔法みたいじゃ! そういえば、エルフの連中は魔法が得意だったの! 賢いのう!!」

 まったく賢くも何もない提案だが、俺は素直に「ありがとうございます」と答えておいた。


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