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殺人ロボット

 ロボットの透明な顔にぼんやりと赤い一線が浮かびあがった。

 背中のモーニングスターで攻撃をしかけてくるのか?

 一瞬で試行を巡らせるが、目の前でロボットが俺の方に右手をゆっくりと掲げた。

 なんだ? 俺は拍子抜けする。

 だが、認識が甘かった。バシュッンという音と共に、突然腕が伸びあがってきたのだ。

 構えた俺の剣ごと、俺をつき飛ばして背後の木々に叩き付けられる。

 意表をつかれたのもあって、思った以上にダメージを受けてしまう。


「なにしてくれてんのよ、この!!」

 スカジがロボットの伸びあがった腕を思い切り蹴りつける。

 ロボの腕があまりにも固すぎたようで、怒りを忘れて「いったぁーい」とスカジは足を抑えて蹲った。

 俺を回復しようと駆け寄っていたイズンは、一瞬迷ったあと、戻ってスカジに回復を先に行う。

 俺はロボの腕を足で押し返して抜け出し、2つの剣を引き抜いて腕を斬りつける。重い金属の音が鳴り響き、ロボの腕が陥没した。

 スカジは既に立ち直り、直接的な物理攻撃ではなく"気"を駆使して、攻撃を開始している。

 フノスは短剣でロボの腕を蹴りつけたが、短剣の方が折れてしまう。


 敵である俺たちの行動に反応しているらしく、ロボの目の光が点滅する。

 意表をつかれたのでなければ手ごわい敵でもない。ロボから繰り出される攻撃は単調な上に速度が遅かった。

 数分もすると、ロボの身体はボコボコになっていく。

 足が胴体を支えきれなくなったのか、膝を折ったまま立ち上がらない。機械の駆動音が空回りする音が聞こえる。


『致命的な損傷を確認しました。管理者を呼び、確認をお願いします』

 という言葉を何度も繰り返している。ボロボロな状況と無機質なロボの声の温度差が印象的だ。

「なんだったんでしょうね」ヒルドが問うが、もちろん誰も答えられない。

 フノスとシギュンが興味深そうにロボを眺めたり叩いたりするが、特に何も起こらなかった。


 ロボに気を取られていたせいで、気づいた時には足を踏みしめる音と金属同士がこすれる音が近くで聞こえていた。

「おーい、なんでこんなトコにエルフがおるんじゃ?」

 やけに低い間延びした声に振り返ると、背丈が1mに満たない髭もじゃの男がこちらに向かってくる。

 小人族のドワーフだろう。

 頭には帽子をかぶり、ゴーグルをつけている。腰にポーチを下げていた。金属音は、そこから聞こえてきたのだろう。中に金づちなどが所せましと押し込まれている。


「あー!!」

 それまで鈍臭そうだったドワーフが急に声を荒立てた。

 俺たちに囲まれているロボに駆け寄って、「なんてこった!!」と悲鳴をあげる。

「お前らがやったんか!

 せっかくこのワシが長年かけて作ったロボットを!!」

 スカジは素手だからまだしも、俺は剣を構えていた。今さら言い逃れは出来ないだろう。ちなみに、フノスはめざとく折れた短剣を背後に隠して知らん顔をしている。

 俺は開き直ることにした。


「このロボットがいきなり襲いかかってきたんだ。正当防衛でしょう」

「んなわけねぇがや。張り紙をしておいただろうが」

「そんなもん見てないよ。ねぇ?」

 仲間に同意を求める。別にしらばっくれているつもりじゃなくて、実際に見ていない。

「ほら、見てないですよ。そんなもん」

「この道を行った先にあるじゃろうが。ワシは確認してから、こっちに来とるんぞ」

 ドワーフが振り返って道を指さす。俺たちが来た道とは異なる。

「俺たちはこっちから来たんですよ。張り紙なんてなかった」

「んなことしるかい。大体エルフごときが、ワシたちの街付近におるのが悪いんじゃ。どうしてくれるんぞ」


 なんだこいつ……、あまりにも頭が悪い。本当にこの世の物なら何でも作れると噂の小人族なのか?

 困っていると、フノスが近寄ってきて俺の肩を掴んで引き寄せてくる。フノスが耳元でささやいた。

「アリカにぃ、あんまり怒らせない方がいいよ。ドワーフって意地っぱりだから自分の非を認めようとしないの。

 ドワーフたちに悪い噂流されちゃうと、アリカにぃの欲しいもの手に入らなくなっちゃうかも」

「そんなこと言ったってどうするんだよ」

「下手に出ておこう? ボクに任せて」

 俺には事態がおさめられそうにないのでフノスに委ねることにする。ヒルドのことが頼めなくなったら、今回の旅の目的を見失ってしまう。


「ごめんなさい。いきなり襲ってきたから怖くて……」

「ふん、エルフ如き馬鹿が近寄るからじゃ」

「すっごく強いんですね。このロボット」

 実際には、ふいうちで俺が攻撃されたくらいで、後はのろすぎてこちらにとってはただの攻撃の的だった。堅さがあるから武器の硬度がないとダメージを与える手段がないけれど。


 しかし、フノスの言葉に気を良くしたのか、ドワーフはふんと鼻を鳴らす。

「そうじゃろ、そうじゃろ。こいつはワシの最高傑作なんじゃ。

 どうせお前らエルフ共が小賢しい手段で壊したんじゃろうが、こいつは一級品じゃて。なんせこのワシが作ったんだからな」

「やっぱりドワーフの方って凄いですね! ボク尊敬しちゃうなー」

「エルフにしては賢い子どもじゃの。感心じゃて」

 フノスよりも頭一つ分以上低いドワーフが、わははと笑いながら言った。小さいけれど顔がヒゲだらけだし、結構歳もいってるんだろうか。


「あ! そうだ!」フノスがわざとらしそうに手をぽんと叩く。

「アリカにぃ、ドワーフさんに聞きたいことがあるんじゃなかったっけ?」

「ワシは今最高に機嫌がいい。何でも答えてやろう」

「あの、ドワーフの方が"忘れ薬"を作れると聞いてきたんですが」

「ワシなら朝飯前で作れるぞ」

「本当ですか!?」

「本当に決まっておる。ワシらドワーフは、お前らエルフみたいに小賢しいことなどせん。本当のことしか言わん」

「じゃぁ、記憶を元に……」

「だが」俺の言葉はドワーフの強い口調に遮られる。


「お前らに作ってやる義理などないな。我が子のように可愛がっていたロボットを壊されて、その上、仕事までしてやる気にはならんの」

 そりゃそうだ。どうしたもんか、と悩んでいるとフノスが馬車に駆け込んで手紙を持ってきた。

「あの、知り合いがこの手紙をドワーフさんに渡せば手伝ってくれるって聞いたんですけど」

 両手で手紙を持ってうやうやしく渡す様は、ラブレターを渡す女の子みたいでちょっと可愛い。

「なんじゃこれは。誰からじゃ」

「スキに……スキールニルさんです」

「なんじゃと!!」


 ドワーフは急に大声を出したかと思ったら、顔を引きつらせて仰け反った。そのまま体勢を崩して、後ろに尻から倒れ込む。

「お前ら、あの馬鹿者の手先なのか。性懲りもなく脅しにきやがったんだな?」

「いえ、そんなつもりはないです。俺たちはお願いに……」

「下らん言い訳などするな。手紙を……見ないのもまずいな。こんな所で出くわすなんて運が悪いのう。なんでワシはいつもこうなんじゃ……」


 転んだまま伸ばしてきた手に手紙が渡される。

 ドワーフは「くそっ!」とか「あのやろう!」とか悪態をつきながら、顔を真っ赤にして手紙を読んでいく。

 いったい手紙に何て書いてあるんだ……。

 ひとしきり罵倒の言葉を吐いた後、ようやくドワーフは立ち上がった。手紙を読むだけで疲れてしまったのか、はぁはぁと息を切らしている。


「わかった。お前の望むものを作ってやろう」

「本当ですか!?」

 まさか小人族たちの街につく前から、こんなにも早く目的が達成できるなんて思ってなかった。

 しかし、俺の喜びを削ぐように「じゃが」とドワーフは言う。

「お前らはワシのロボットを壊しやがった。直す手伝いをしてもらうぞ。

 拒否するようならワシは何も作らん。街のものにも作らせん」

「おじさん、そんなに偉い人なの?」

 フノスが首を傾げる。


「偉いも何も」得意そうにドワーフに笑う。

「ワシほどの鍛冶屋は他におらん。街のものは全員ワシの弟子みたいなもんじゃ。わはははは」


「はぁ、そうなんですか」

 そういうより他はない。褒められたと勘違いしたのか、ドワーフはさらに笑い声をあげる。

「お名前を聞いても良いですか?」


「なんじゃ、ワシの名前を知らんのか。ワシの名は、スヴァルトアールブヘイム、一番の名工、シンドリじゃ! わっはっはっはっは」

 一瞬、スヴァルトアールヴヘイムが名前かと思った。聞いてもいないのに、自慢げな自己紹介をしてくれる。

 とりあえず、頭はあまり良さそうではないのが分かった。


「わー、おじさん本当に凄いんですね!」

 と、目を輝かせているフノスを見て、この子は確かにフレイヤの子供なんだな、と実感した。


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