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新たな旅立ち

「くれぐれも、気を付けるように。この一帯に危険な魔物はいない。

 だが、フノスも一緒にいるんだ。いつも以上に気を配っておいてくれ」

「ええ、きちんとお預かりしますよ」

「俺がアリカにお願いしておいてなんだが、フノスに何かあったらただじゃ置かないからな」

 スキールニルがいつにない真面目な表情で言った。

「本当なら俺もついていきたいが、忙しい身だ。俺に変わってフノスの面倒を頼む」

「ああ、分かってる。

 無事に行って帰ってくるよ。フノスのことは任せてくれ」


「もー、ボクだって戦えるんだし、そんなに心配しなくて大丈夫だよ。

 それにアリカにぃだって、すっごく強いんだから」

「その話は何度も聞いたよ。

 フノス、もう少し王族としての自覚を持ちなさい。

 お前の命はお前だけのものではないんだ」

「……そんな話はもう聞き飽きたよ。ボクにだって旅ができるってこと、証明してみせる。

 ボクがパパを見つけるんだ」

「フノス……お前……」

「じゃ、ボクたち行ってくるから!」

 言葉に詰まったフレイを遮るように、フノスは大声を出した。手を振って馬車に乗り込む。


「この手紙を渡せば言うことを聞いてくれるはずだ」

 スキールニルが差し出した手紙を受け取る。

「覗き見はするなよ? 相手の名誉関わることも書いてある。

 魔法で封をした。覗き見をしたら相手にもそれが伝わるからな」

「ああ、分かったよ。ありがとう」

 俺たちは新しい仲間(臨時)を一人加え、新しい旅に出た。



 俺は馬にまたがり、俺の前にはフノスが座っている。

 今、馬に乗っているのは俺とフノスだけだった。

 フノスは旅が初めてということもあり、小人族(ドヴェルグ)の街への旅はフノスに存分に旅を楽しんでもらうためだ。

「スキにぃはああ言ってたけど、小人族(ドヴェルグ)が協力してくれるかは分からないよ。

 元々、妖精族(エルフ)と小人族は仲が悪いんだ。隣り合う地域にあるっていうのにね。

 小人族はエルフの高い身長や美しい容姿に憧れている。弓も魔法も得意だしね。

 逆にエルフはドヴェルグの知識や物を作る技術に憧れてる。

 この世のあらゆる便利な道具は、全てドヴェルグが作った、って噂もあるくらいだからね」


 "外"の景色に目を輝かせながら、フノスの話はあっちへいったりこっちへいったりする。

 興奮して、考えがまとまっていないのだろう。思いついたことを即座に口に出しているようだ。

「全ての道具をってことか?」

「噂だよ、噂。それくらい物を作ることに長けてるって言われてるんだ。

 でも、すっごいへそ曲がりで頑固なんだって。協力してくれるかどうか、分からないよ。

 ……ママみたいなことにならないといいけど」

 フレイヤか……。確か、黄金の首飾りを欲しいが為に、4人の小人族と夜を共にしたらしい。

 何とも下品な話である。おまけに、その話が娘にまで伝わっているというのだからどうかしている。


「大丈夫。そんな事はさせないよ」

 ちらりと馬車の後方を振り返る。「当たり前でしょ!」などと怒られるかと思ったが、スカジやイズンは退屈過ぎて眠っているらしかった。

 初日からフノスにこんな姿をさらしてしまって良いのだろうか……。

 あれだけ旅を期待していたフノスだ。あまりフノスの理想を崩したくはない。

「ボクは街のエルフたちみたいに、小人族を嫌ってる訳じゃないけど。

 ただ、願いの為に身体を差し出すってのは、ちょっとぞっとするね……」

「そんなこと、考えなくていいよ。選択肢に入らないから」

 それに万が一そんな事になったら、俺はフレイに殺されるかもしれない。


 小人族の地域は隣接しているとはいえ、馬で駆けて数日はかかる。

 基本的に馬車内で衣食住を兼ねることはできるが、寒い日にはたき火を番をしながら外で野宿をする。

 手頃な洞窟などがあれば、冷たい風を遮ることが出来て心地がよい。

 綺麗な泉が見つかれば身体を洗うことはできるが、王宮での生活のように毎日ありつける訳じゃない。

 食べ物も、俺の元居た世界とは異なり、保存食がありふれている訳じゃない。

 味は二の次で長く持たせることだけを考えた乾パンのようなものを咀嚼する。そのままだと硬すぎて食べられないから、口の中でふやかして何度も噛んで食べるのだ。

 手頃な動物がいれば狩りをして食べることもある。


 妖精族の村付近では、魔物がなりを潜めているらしい。自然と魔族化していない動物の数が多い。

 が、魔族ではない動物が安全かというと必ずしもそうではない。

 肉食動物に目をつけられたら、俺たちは餌として認識される。夜の番は、誰かが起きてなければならない。

 交代で朝も夜も見張りをたてる必要がある。

 それから、退屈が何よりの敵でもある。自然豊かな景色が眼前に広がるが、かといって、ずっと見続けていられる訳でもない。

 俺は元の世界で景色なんてずっと見てこなかったから、多少なりとも新鮮さを感じている。

 しかし、ずっとそのモチベーションが続いている訳じゃない。

 景色に飽きたら、色々なことを考え、それに飽きたらまた景色を見る。退屈を紛らわせる為の努力は思いのほか面倒くさい。


 実は、フレイにはフノスを見ておくように、というのとは別に一つ頼まれていることがある。

 旅をしていて、フノスが弱音を吐くようであれば、すぐに連れ帰って欲しい、とのことだった。

 フノスは旅という旅をしたことがない。にも関わらず、旅をしたいと切望している。

 実際に旅をさせてみて、失望するならそれはそれでフレイにとっては都合がいい。

 子どもは「駄目だ」と言われれば言われるほど「やりたい」というモノだ。しかし、数日経ってもフノスから旅への失望のような態度は読み取れなかった。

 むしろ、時が経つに連れて顔が輝いて言っているようにも思える。旅の仕方などについて好奇心旺盛に何でも取り込み、学んでいった。


「アリカにぃ、あれなんだろ?」

 フノスが指をさす方向を見る。ただ木々が密集しているだけで何も見当たらない。

 そう告げると「アリカにぃの目じゃ見えないか。ちょっと近づいてみよう」と馬を下りて駆けだそうとする。

 俺は驚いて同じように馬を飛び降り、フノスを後ろから羽交い絞めにする。

「フノス、何かあったらどうするんだ。ちゃんと俺の傍にいてくれ」

 馬車の中でぼーっとしていたスカジが飛び起きて、目にもとまらぬ速さで俺の腕を掴んだ。

「後ろから抱きついて俺の傍にいてくれ、とはずいぶん大胆ね。

 あたしもそんなこと言ってもらったことがないんだけど」

 こめかみがピクピクと動いている。怒りの前兆だ。


「すぐに怒るなよ。そうじゃないだろ。フノスが勝手に行動するから止めただけだ」

「だって気になるんだもん」

「言うことが聞けないなら、このまま元の道を引き返すことになるぞ。

 俺は君を国から預かってきたんだ。勝手な行動をされると困る」

「ちぇ、はーい」

 納得がいかなそうなフノスとスカジ。まったく、少しは全体を考えて行動をしてほしい。


 フノスはやたらと目がいい。俺たちには見えないので、近づいてみることにした。

 馬車も通れるような道だったので良かった。森の中で、獣道に分け入っていくなんてぞっとする。

 普通なら無視するところだが、フノスの願いも聞き入れてあげないと可哀想だろう。

 なんてたって、彼女にとってこれが初めての冒険なのだから。


 7, 8mくらい進んだところで、木の陰に怪しげなモノが隠れていた。

 人のような形をしている。生きてはいないようだ。注意して触れてみると感触は硬かった。

 俺のイメージで言うと、宇宙服が一番近い表現だと思う。

 顔の部分は透明で目などの部位は存在しない。他の部分は土色をしている。

 背中に禍々しいモーニングスター(棒とトゲつきの鉄球を鎖で結んだ武器。振り回して戦う)を背負っているようだ。

 木を背にして、人間が座るように木に身体を預けて横たわっている。

 明らかに危険っぽいが、動く気配がまったくない。


 10数分が経った。事態は一向に変わらない。

「なんだろうね、これ?」

 フノスは尋ねるが、応えられる人間は誰もいない。

 シギュンが面白がって、その機械人間(?)の顔部分をぺちぺちと叩く。

 機械人間は作動することもなく、その場に佇んでいるままだ。


「誰か分かる人いる? 心当たりとかだけでもいんだけど」

 俺は聞いてみたが、誰も心当たりすらないらしい。

 今のところ危険はないが、まぁ無視していくのが妥当だろう。


 引き返す提案をしようとみんなの方に振り向いて、ちょうどその時、無機質な電子音が鳴った。

『所定ノ時間ニナリマシタ。スリープ状態カラ復帰シマス』

 振り向くと、先ほどまでまるで反応がなかった機械人間が、大きな駆動音を立てながら立ち上がった。

 俺とスカジは危険を察知して、自分の武器を構える。フノスは呆気にとられていて、反応できていない。

 少し遅れて、イズンとそれからシギュンが構えを取った。ヒルドは、俺に戦乙女の加護をかけ始めている。


「動いたよ!」

 喜んでいるフノスの腕を引っ張って、後方に下がらせる。

「危険かもしれない。下がって」

「どうするの? 壊しちゃうつもりなの?」

「それはこいつの動き次第だ」


 目の前の機械人間は、まるで人間が夢から覚めたかのように身体の節々を順番に動かした。

 こちらの視線などまるで気にならないようだ。

 ぐるぐると身体の関節を動かし終えると、『動作確認終了。異常ナシ』と電子音が喋った。

 それから、辺りを見回すように首を再度360度回転させ、状況を確認したらしい。


『周囲ニ外敵ヲ発見。タダチニ処分シマス』


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