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期待の勇者? ハーレムの始まり

『そなたの はたらきに 期待しているぞ 勇者アリカよ!』

 国王に見送られて、俺は3人の美少女と一緒にとぼとぼと城を出た。


「ねぇ、俺って本当に期待されてるのかな?」

「何を言うんですか、アリカ。あれだけのもてなしは、滅多にないのですよ」

「そうよね、聖なる儀式とか。ここ10年はやってないんじゃない?

 おまけに、国王が自らの血をひたすなんて、あたしが生まれてから聞いたことないよ」

「ええ、私も聞いたことがありませんね。

 アリカさんは、すごく期待されていると思いますよ」

 美少女たちが口々に俺を慰めてくれる。


「けどさ、これって」もらった褒美の中身を見せる。

 50(ゴールド)、たびびとのふく、こんぼう×2、ひのきのぼう。

 いや、ヒノキじゃなかった、トネリコの棒。

 仰々しい宝箱に入っていたが、あの箱をもらって売ったほうが金になったんじゃないのか……。


「50Gあれば6日間は宿に泊まれるのよ? 立派な褒美じゃない」

 たった6日? 昨日までサラリーマンだった俺には眩暈がする。

「この服は?

 ただの服だし、俺たちが既に来てるものよりしょぼくない?」

「装備屋さんが買い取ってくれますよ。

 王宮にしか配給されていないので、プレミアがついて高く売れます」

「いくら?」

「35Gくらいですかね」


 え、高っ! いや、高いっつーか、いよいよ国王からもらった50Gがしょぼく思える。

 どっちも国王からもらったものではあるけれど……。


「あたしはこんぼうなんていらないしなー。イズンは?」

「私は杖があるのでいりませんね。傷つけるための武器はちょっと……」

「こんぼうとトネリコの棒ってどっちが強いんだろ」

「アリカ、国王がおっしゃられていた魔法を使ってみたらどうですか?」


 ああ、そうか。勇者にだけ使える魔法があるらしい。

「アナライズ」

 こんぼうを見ながら唱えると、視界いっぱいに黒いウィンドウが現れてびっくりする。

 ウィンドウには、こんぼうの情報が表示された。まるっきりテレビゲームのメニュー画面そのものじゃないか。

 こんぼうとはそもそも何か、という簡単な説明などが書いてある。

 どうでもいいので読み飛ばして、必要なことだけを読む。


【こんぼう 攻撃力7】

「アナライズ」

【トネリコの棒 攻撃力2】 圧倒的に弱い。


「こんぼうの方が強いね。

 俺はこっち使って、残りの1本とトネリコの棒は売ろうか」

「いけませんよ。

 トネリコは世界樹と呼ばれるユグドラシルと同種の木なのです。

 貴重品ですから、お店でも買ってはくれないでしょう」


 えー、トネリコの棒を見てみるが、何の変哲もない棒だ。

 握る部分にだけ、縄が巻いてあって持ちやすいように加工されている。

 売れない上に、捨てたら怒られそうだ。呪われたアイテム級のゴミアイテムである。

 俺はトネリコの棒を持っていた旅人の袋に戻した。


 この"旅人の袋"も国王からもらったのだ。袋には魔法がかかっており、見かけによらずかなりの量のアイテムを収納することができるらしい。

 おまけに、重さが軽減され、たくさん入れてもたいした重さを感じない。

 はっきり言って、今日貰った中で一番価値があるのは、この袋だ。


 俺はこんぼう1個と旅人の服を商店で売った。

 合計50Gで売れたので、全財産はきっかり100G。宿屋換算で言えば、12日間くらい泊まれる。

 ゲーム世界で生きていくのは、案外厳しいのかもしれない。


「12日間しか宿に泊まれないとなると、とにかくお金を稼がないとだね」

「え、すぐにそんな遠くに行くの?」

「いや、行くつもりはないけど?」

「だったら、冒険者の酒場に戻ればそんなにかからないわよ。

 ちょっとしたお手伝いとかする必要があるけど」

 なんだ。取り急ぎはそこまで苦労するものでもないらしい。



 とりあえず、外のフィールドに出てみることにした。

 高くそびえる城門をくぐると、視界一面に緑が広がる。

 風が凪ぐのにしたがって、草原は海のせせらぎのように波打った。

 現実で景色に見ほれたことなんてなかったけど、光景に引き込まれた。


「やっと旅に出れるのね。

 でも、大丈夫よ。あたしたちがちゃんと守ってあげるからね。

 この日の為に、しっかり修行してきたんだから」

 スカジが右腕をまげて、力をこめると二の腕がぽっこりと盛り上がった。

 触ってみて、と言われてみたので触れると、確かな弾力がある。

 頼もしい限りだ。


「イズンはね。なんだっけ、何の魔法が得意なんだっけ」

「白魔法ですね。特に回復魔法が得意です」

「ブリュンヒルド、って呼びにくいわね。ヒルドって呼んでいい?」

 ヒルドだと北欧神話ではまた別のキャラになっちゃうよ、と思ったが、ブリュンヒルドが「構いませんよ」と言うものだから、俺は口をつぐむ。

 確かにブリュンヒルド、といちいち呼ぶのはだるい。


「ヒルドは、何が得意なの?」

「私はアリカのサポートですね。勇者に加護を与えるのが役目です。

 アリカのレベルに応じて、使える加護が増えていきます」

「アリカさんは今レベルいくつなんでしょうね。

 一旦神父さまのところに戻って、確かめてきましょうか?」

「アリカだったら、アナライズでそういった情報も分かりますよ」


 ああ、そうか。アナライズは、対象の情報を得る魔法だ。

 アイテムにも使えるし、人や魔物にも使える。


「でも、自分にアナライズってどうやるの?」

「これでどうぞ」

 ヒルドがどこからか手鏡を取り出して渡してきた。

 鏡の中を覗いてみると、目の前に歳若い美少年がいた。いや、美少女か? 髪は金色でショートだが、顔は中性的な出で立ち。

 性別がどちらか判断がつかない。


 なんだこれ。

 眉根を寄せると、鏡の中の美少年(仮)も同じように表情を動かした。

 ……もしかして?

 頬を触ると、目の前の美少年(仮)も鏡越しに同じ動きをする。

 俺は20台のはずだが、どう見ても高校生くらいにしか見えない。

 いや、もっと若いか? 中学生といっても通じるだろう。


 やたらめったらに身体を動かしてみる。

 違和感の原因はこれか! 手足が断然短い。

 他の人間がでかいから、単にそう見えているだけかと思っていた。

 しかし、今更だが自分の身体が明らかに縮んでいるのが分かる。

 いや、顔がまるっきり違ってしまっている。これは俺じゃない。


「どうしたのですか、アリカ?」

 ヒルドは優しく俺の髪をなでてくれる。眼前の鏡の俺も同じようにヒルドになでられていた。

 どうも、この美少年は俺らしい。美少年(仮)ではなく、美少年(俺)だった。

「え、これって、俺?」


「なに馬鹿なこと言ってんのよ」ケタケタとスカジが笑う。

「もしかして、俺って結構かっこいい?」

「ええ、とっても魅力的ですよ」

「そうじゃなきゃ、こんな子供と血の誓いなんてしないわよ」

 それもそうか。命を懸けるとかなんとかいってたもんな。血の誓いってのは、やっぱり重要な儀式なんだ。

「スカジさん、何を言ってるんですか!」「冗談よ、冗談」


 ちょっと待てよ。ってことは。「元の子供はどうしたの?」

 もしかして、俺のせいでどうにか……死んだりしたのか?

「元の子供? 貴方は木からできたのですよ?」

「木?」「トネリコの」

「トネリコ? さっき国王からもらったあの棒ってこと?」

「ええ、もちろん貴方はもっと大きな木の幹からできましたけど。

 それに貴方はただのトネリコの木ではなく、世界樹と呼ばれているユグドラシルの樹から削り取られて生まれたのですよ」

「まじ? 俺って木なの?」

「ええ、トネリコの木に神の祝福が実って、貴方が生まれたのです」

 そりゃ北欧神話では、人間は木から生まれたって伝えられてるけど。


「え、じゃぁ、スカジとイズンも木から生まれたの?」

「違いますよ。原初の人間はそうですが、彼女たちは人から生まれています」

「ええ、そうね。親の顔は知らないけど」「私もそんなようなものです」

「じゃヒルドは?」

「私は神族に属しています。

 元々は人間族ではありますが、ヴァルキリーとして、神にお仕えしているんです」

「じゃ木からできてるのは、俺だけなのか」

「貴方は異世界の住人なので、依り代がないといけないのです」

 自分の身体を見下ろしてみる。そうか、俺は木なのか。

 何ともいえない想いがある。……いや、どうでもいいや。元の身体に未練はない。というか、今の身体、というか顔はいい感じだ。


 俺は手鏡を見る。美青年がいい感じに映る。無表情でも様になっている。

 鏡を見る習慣がないのですぐに気恥ずかしさを感じて、俺は当初の予定通り自分自身をアナライズする。

 予想に反して、俺の情報は少なかった。

 興味のあるところだけ読んでいく。


【アリカ】

 LV 1

 種族:人間族

 職業:勇者

 称号:異邦人(アウトサイダー)の新米勇者

 ステータス:HP(体力)は14 (色々と書かれている。特筆したステータスはない)

 その他:予言により、魔王を倒す役割がある


 自分自身のことだし単に、ふーん、と納得するくらい。

 俺は女の子たちの秘密の花園(情報)を見てみることにした。


【ブリュンヒルド】

 LV ???

 種族:人間族、アース神族

 職業:戦乙女(ヴァルキリー)

 称号:勇者アリカの戦乙女

 ステータス: (全部???だった)

 その他:転生召還の儀を行い、アリカの戦乙女となる

 スリーサイズ:86-55-83


 目の前に現れた黒いウィンドウを、タッチパネルを操作するように、指で動かす。興味のある情報だけざっくり読んでいくとこんな感じだった。


「ブリュンヒルドの項目は、分からない項目が多いんだけど」

 なのに、スリーサイズが正確に載っている。意味不明。つか、胸でけえ!

「私は戦乙女として、アリカの付き人のようなものですからね。

 祈りを行いエールを送りますが、基本的には戦闘には参加できません」


 そういうモノなのか?

 ゲームとかだと、固有キャラ・裏切り予定キャラとかだとステータスなどを見れないことがたまにある。

 自動オートで動かすキャラで、プレイヤーが操作できなかったりする時とかも。

 この世界ではコントローラーの類はないし、各自が自動で(って言い方は正しくないけど)動くんだろうけど。


【スカジ】

 LV 11

 種族:人間族、巨人族

 職業:武闘家

 称号:型通りの武術家

 ステータス: (力と素早さが他に比べて高く、防御が低い)

 その他:勇者アリカの嫁

 スリーサイズ:72-55-78


 胸が小さいな。平らじゃないか。

 見た目に違わぬ数値が表示されて、いたたまれない気持ちになる。

 いや、そんなことはともかくっ!!


「ちょ、ちょっと!!」

 あわてて、これこれ、と見えている画面を指さすが、他の人には見えないことを忘れていて、頭を傾げられる。


「す、スカジは勇者のアリカの嫁って書いてあるんだけど!!」

 え? という感じで首を傾げる3人の美少女たち。


「なにいってんのよ」

「書いてあるんだよ、ここに。

 どどど、どうしてこんなこと書いてあるんだろ」

 アホなこと喚いている思われないように、書いてあることを強調する。


「私には見えないけど、

 そ ん な の 当 た り 前 で し ょ 」

「E?」

「何を今更言ってるの。血の誓い、したでしょ」


 血の誓い? ああ、さっき城でやった親指同士でちゅーする奴か。

 え、ってことは、え?

 イズンに向けてアナライズを唱える。

 目の前に現れたウィンドウを指でスクロールして、該当する場所を見る。


【イズン】

 スリーサイズ:91-59-86


 見た目通り、凄い! 出るとこ出てる!!

 いやいや、見たいのはここじゃない。嘘ついた。興味あるのは確かだが、後回しだ、後回し。スクロールし過ぎた。

 ちょっと手前も表示するように指でウィンドウをはじく。


【イズン】

 その他:勇者アリカの嫁

 スリーサイズ:91-59-86


 うおおおおおおおおおお、じゅじゅじゅ重婚!

 どどど童貞なのに!?


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