※堕落した夜
俺たちパーティーは、フノスの部屋で寝ることになった。
フレイは手を出すなとか言ったかと思ったら、一緒の部屋で過ごせと言ったり訳が分からない。
「パーティーとはそういうものだから」
とか言っていたが、どうにもこの世界では俺の価値観がズレているらしい。
寝食を共にすることで、パーティーとしての関係性があがる。冒険をする以上、命をかける状況にもなり得るから、パーティー同士の結束力は重要だ。
という言い分は最もだが、男女がベッドを共にするってのは、俺からすれば異常にしか思えない。
あれだけフレイに警戒されていたので、これ以上疑われてはまずい。風呂は男女別で入ることにした。
嫁たちがぶーぶーと文句を言ったが、フレイに悪感情を頂かれるのはよくない。なんか普段の柔和な顔との二面性が怖いし……。
フノスの部屋は調度品が沢山ある。けれど、あまり均整がとれている感じではなかった。雑多なモノが適当に並べてある感じ。
珍しいものが多いので聞いてみると、父親であるオーズからの旅のお土産であるらしい。フノスは目つきが多少鋭いのだが、父親の話をする時は目じりが下がり、誇らしそうだった。
「それにしても、アリカにぃたちのせいでスキにぃに捕まっちゃったけど、そのおかげで旅に出れるんだね。
人生どうなるか分からないよ。ボクにとっては有り難いけど」
どうもフノスは女の子だがボクっ娘で、年上に「にぃ」とか「ねぇ」とかを付けるらしい。兄と姉という意味だろう。
「え、俺のせいで捕まったって?」
「ん? 覚えてないの?」
フノスがきょとんとした顔をする。覚えも何も、応接間が初対面のはずだ。
俺の表情から読み取ったのか、フノスが眉根を寄せた。
「昼間会ったじゃない。エルフの街の入口近くで」
昼間……、そこで俺は思い至る。
「ああ、そっか。フノスの今の姿は変身してるんだっけ。
俺たちを見て一目散に逃げたのがフノスだったのか。印象が違うから分からなかったよ」
「あっきれた。アリカにぃ、抜け過ぎじゃない?
いくら神族の時と妖精族の時で姿が違うからって、普通分かるでしょ。そんなに変わってる訳でもないし。
よくそれでお嫁さん4人も作れたよね。そんなんじゃモテないよ?」
「もうこれ以上モテなくていいのよ」
スカジの言葉にイズンがこれ見よがしに大げさに頷いた。
「なんか大変なんだね」フノスは首を傾げながら俺たちを眺める。
「それにしてもボクの部屋に泊まるのでよかったの?
フレイにぃが押し切ってたけど、別の部屋にした方がよかったんじゃないの?」
「そりゃそうだよな。フノスだって可愛い女の子なんだから。
男の俺と一緒に寝るなんて嫌だろ?」
母親が半面教師なおかげで、貞操観念高そうだし。
「ううん。ボクは別にいいけど」
「え、そうなの?」俺は驚いて声をあげる。
「だって、パーティーが一緒に寝るなんて普通でしょ。
ボクが気にしてるのは、ボクがいることでアリカにぃたちがセック……」
俺は自分でもほれぼれするくらいのスピードで、フノスの口を手で塞いだ。
……確実に俺の気のせいだと思うけど、今なにか大変な事を言おうとした気がする。
いたいけで純情な少女が、暴れながら俺の腕を解いた。
「い、いきなり、なにするんだよ!」
「だって、フノスがいきなり変なことを言おうとするから……」
「変なことって、なに?」
穢れなき純粋な瞳で俺を見返してくるフノス。俺は答えられなかった。
「もしかして、セック……」
俺はカッと目を見開き、また瞬速でフノスが何事かを喋るのを止める。
嫌がるので、今度はすぐ手を離してあげるけれど。
「もー、なんなんだよ」
「君は貞操観念が高いのか低いのか、……どっちなんだ?」
「高いに決まってるでしょ!! でも、好きな人とそういうことするのが間違ってるなんて思ってないよ。
うちのママみたいにとっかえひっかえは駄目だと思うけど」
もちろんそれは駄目なんだけど、いたいけな女の子が気軽にセック……なんて言ってはいけない。
フノスはどこかズレているようだ。反面教師である親のせいで、エロに対する耐性がつきすぎているのかもしれない。
普通は、セック……なんて単語を言うのも恥じらうだろう。……いや、知らないけど、そうであって欲しいという願望が俺にはある。おしとやかな娘が好きです。
「アリカにぃもお嫁さん4人もいて"アレ"だけど、でも見境ないって訳でもなさそうだし。
それとも夜になると狼にでもなるの?」
「なんない、なんない」スカジが横やりを入れてくる。
「甲斐性がまったくないですね」イズンも続いて俺を口撃する。
かいしんのいちげき! 俺は精神的ダメージを負った。
俺はハーレムは好きだし、今の状況に満足している。
けど、男女間での修羅場や、今の楽しい関係性が壊れるのが怖いのだ。
でも、そういった俺の心情を誰も理解してはくれない。はいはい、ただのヘタレですよ。
「ふーん。ならボクも安心だね。まぁ、手なんか出そうとしたらフレイにぃに殺されると思うけど」
フノスの言葉に、フレイの真剣な表情が思い出された。ゾゾゾ、っと寒気が込み上げてくる。
フレイを敵に回したらまずい。普段大人しいヤツこそが、一番危険なのだと思い知らされる。どうもフレイは、感情が高まり過ぎると自分を抑えることができないらしい。
「フノスにその気がないなら大丈夫よ。アリカったら、一緒にお風呂入っても何もしてこないんだから」
「へー、珍しいんだね」
「意気地がないんですよ」「そうそう」
スカジとイズンは、こういう時は仲が良いのか俺の駄目だしを始めた。
俺は健気に耐えるしかない。
「アリカのこと嫌いなのー?」
シギュンが2人に対して疑問を投げかけると、即座に「好きよ」「大好きです」と反応した。
イズンの言った"大"好きに対して、「あたしのが好きよ」「いいえ、私の方が」と喧嘩をし始める。
最初の頃は戸惑ったが、俺たちの中ではお決まりの展開となりつつあるので、俺はげんなりしてしまう。
「わたしもアリカすきー」と言いながら、頭突きをかましてくるシギュンを俺は受け止める。
このくらいシギュンは、俺の癒しになりつつある。純粋って素晴らしいね。
「ヒルドはー?」
「私も好きですよ。アリカはみんなに愛されて幸せ者ですね」
「うん、ありがと」
ヒルドもシギュンも俺の癒しだ。俺は安らぎを得て、肩の力を抜く。
「なんかアリカにぃも色々と大変なのね」フノスに同情された。
俺はシギュン抱いて、頭を撫でながら寝かしつける。身体が小さいからなのかなんなのか、シギュンはよく眠る。
「あとは私が」と言って、眠ったシギュンをヒルドが抱き上げ、ベッドで横になった。すぐに2人分の寝息が聞こえてくる。
突然、部屋の扉が開かれた。
ノックも無かったので驚いて視線を向けると、一人の男女が立っていた。
女性は異常な格好をしていた。生地が薄いのか、ほぼシースルーで服としての意味を為していないようなワンピースを身にまとっている。女性にとっての秘所だけがレース編みになっていて見えないだけだ。
肢体を覆う面積がほとんどなく、胸の形を含めた身体の形が完全に晒されている。むしろ、胸なんかはトップ以外はほぼ全部見えている。
もはや、服というよりは、性的な感情をあおるだけのアクセサリーと言った感じだった。
服と同じ素材のストールを羽織っているが、これも透け透けで隠すというよりは、強調することを目的にしている。
バスタオルに身体をまくほうが、まだ露出度が低いくらいだろう。
美しいことに間違いはないが、肉感的な美しさだ。
大きく切り開かれた胸の上には、黄金の首飾りがかけられている。
自分の容姿に絶対的な自信があるのか、女性の表情は挑戦的な微笑を浮かべている。
生きることに貪欲、という印象を俺は受けた。
逆に傍らの男は生気をげっそりとしている。目の焦点も定まらず、宙を浮いている。
「ママ! 勝手に入って来ないでっていつも言ってるでしょ!!」
フノスが苛立ちを隠そうともせずに叫んだ。なるほど、この女性が好色のフレイヤか。
ならば、首元の黄金の首飾りは、小人族たちと寝て手に入れたというモノだろう。
「お楽しみの最中だったかしら? お邪魔だった?」
妖艶に笑いながら、俺に向かって言葉を紡ぐフレイヤ。
「い、いえ、大丈夫です」
俺は嫁たちの手前気丈に振る舞いたいが、見るつもりはないのに目が胸に行ってしまう。
自分に注がれる視線が心地良いのか、フレイヤは濡れた笑い声を漏らしながら、胸を強調するように腕を組んだ。
イズンと同等か、あるいはそれ以上に大きい胸が柔らかく揺れる。
俺は目を逸らした。
「フレイお兄様があんまりにも釘をさしてくるから、どんな良い人が来たのかと思ったら……。
予想以上に楽しめそうね。旅のお方、今夜は私の部屋でゆっくりしていきませんか?
身体を休めるかどうかは、保証できないけれど。くすくす」
台詞もエロいし、喋り方もエロい。イントネーションもエロい。
フレイとは双子の妹だって話だが、双子なのにどうしてこうも両極端になるんだ?
「ママやめてよ! アリカにぃにはお嫁さんだって4人もいるの。
もうママが入るスペースなんてないんだよ」
「あらあら、私は入れる方じゃないんだけれど」
俺は歯を喰いしばりながら、アホか!! と頭の中で突っ込みを入れる。そうでもしないと顔がだらしなく歪んでしまいそうだ。
フレイヤは余りのも煽情的な服装なので、というかほぼ裸なので、俺の意志に反して様々な妄想がはかどってしまう。
唖然としていたスカジとイズンが俺の隣に寄ってきて、魔物から守るように俺の肩を抱く。
「馬鹿なこと言わないでよ!」
「そうです。アリカさんを惑わさないでください」
つい先ほどまで喧嘩をしていた二人は、共通の敵を見つけて一致団結したようだ。
「可愛らしいお嫁さんね。羨ましいわ。
けど、一晩くらいは貸してくれてもいいでしょう? ただのつまみ食いよ。
もっとも、明日になってアリカさんが帰りたがるかは分からないわね」
フレイヤは、小馬鹿にしたように微笑を続ける。
「一晩だって駄目に決まってるでしょ!!
あたしたちだって一度もまだなんだから!!」
スカジは興奮して混乱しているのか、余計なことを言ってしまう。
言葉を聞いて、フレイヤは嬉しそうに喜んだだけだった。
「あらあら、魅力が足りないんじゃないかしら?
やっぱり、そんな無粋な格好じゃ殿方を喜ばせることなんてできないわよねぇ?」
「どどど、どっちが無粋な格好だってのよ!!」
女性から見ても、フレイヤの恰好は目の毒なのだろう。スカジもどこを見たらいいのか分からないようで、目が泳いでいる。
フレイヤが近寄ってくると、香水の匂いだろう、頭が馬鹿になりそうな甘い匂いが部屋の中に広がる。
胸が揺れ、腰元を隠すスリットがチラリズムを煽る。目の毒だ。
両脇の二人が身体をこわばらせて、俺をがっしりと掴む。
近づいてきたフレイヤが俺を覗き込むように前かがみになり、目の前に胸の谷間が現れた。
俺は目を逸らしたいのに、身体がいう事を聞いてくれず、胸に目が行ってしまう。
胸は柔らかさと強調するように、重力に手繰り寄せられて歪んでいる。
俺の視線を楽しむように、フレイヤはその場に座り込んだ。
胸が、崩れていた形を取り戻して、完璧な相似形を取り戻す。自由自在に形を変える胸。見ているだけで、柔らかさが伝わってくるようだ。
彫像のように美しい。けれど、フレイヤは彫像ではなく、体温を持った温かい現実の女性だった。
「アリカさん、黙ってないで何か言ってくださいよ」
隣にいるイズンの声が遠く聞こえるようだった。頭がまともに働いてくれない。
「興奮し過ぎて、喉がカラカラなのよね? 分かるわ。私の前ではみんなそうですもの。
私があなたの喉を潤してあげるわ。一緒にいらっしゃい」
「ママ、やめてよ! アリカにぃはそんな人じゃないの」
フノスが大きな声をあげた。それから、すがるような目で俺を見る。
そうだよね? とその瞳が同意を求めていた。
「それはあなたが決めることじゃないわ。アリカさんが決めること。
隣の二人だってそうよ。アリカさんのことはアリカさんが自分で決めるわ。ねぇ?」
フレイヤがゆっくりと俺に手を伸ばす。
「喋れないなら、私の手があなたに触れたら、私と一緒に来ってことにしましょう。いいわね?」
頭がぐらぐらする。吐きそうだ。
フレイヤの手が俺の頬に伸びてくる。眼前に広がる大きな胸の上に、黄金の首飾り。
俺はよろよろと手を伸ばした。
「あらあら元気ね。動けるなんて」
すべての音が遠くに聞こえる中で、フレイヤの声だけが俺の脳裏に大きく響いてくる。
俺はフレイヤの手を掴んだ。




