表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/48

ハーレム勇者にご用心

「なんか呼ばれてるって言われて来たんだけど」

「ああ、スキールニル、結構早かったね」

 程なくして、スキールニルが現れた。身長は高くもなく低くもなく。170cmくらいで、深い帽子をかぶって耳まで覆っている。

 続いて、中世的な美しい子が入ってきた。いかにもしょんぼりしています、という風勢で頭を垂れている。


「フノスちゃん見つけたよ。まったく、外にまで出てて探すの大変だった」

「スキにぃ言わないでって、ボク、お願いしたじゃん!」

 フノスと呼ばれた女の子がスキールニルの腕を軽く叩いた。フレイの目が険のあるものに変わる。

 それに気づいたフノスは、申し訳なさそうに上目遣いにフレイを見返した。

「フノス、何度も外に出ちゃいけないって言っているだろ?」

「だってフレイにぃ、ボクは……」

「お前の『だって』は聞き飽きた。外に出る時は誰か護衛をつけなさい」

「それじゃ冒険になんないもん」

「あのなぁ、フレイヤ……お前の母さんのことを好色で落ち着きがないなんて言うが、お前だって似たようなことを」

「ママと一緒にしないでよ!!」

 強い語調でフノスがフレイの言葉を遮る。


「まぁまぁ」ニヤニヤと意地悪そうに笑いながら、スキールニルがフレイを宥める。

「すぐに見つかったんだからいいじゃないか、フレイ」

「そもそもスキにぃが外に出たことを喋るからいけないんでしょ」

 フノスは小声でスキールニルに抗議するが、こちらにまで聞こえているのでフレイがまた怒ろうとする。

「はいはい、二人ともそこまで。

 俺は役目を終えた。そして、次の役目が待っている。

 客人を待たせてるんだろ? フレイ。そっちを片付けよう」

「ああ、そうだった。すまない、アリカ殿……身内の恥を晒してしまって」

「ええ、いえ……」

 急に話を振られて俺は戸惑う。


「あ!」フノスが突然、声をあげた。「この人たち妖精族(エルフ)じゃないよ? フレイにぃ」

 やばい、バレた。なんでだ? と思ったのも束の間「そんなことは分かっている」とフレイ。

 俺はさらに驚きを隠せない。エルフは用心深いと聞いている。おまけにここは王宮の中だ。追い出されるんじゃないか?

 自分がどんな表情をしたのか分からないが、フレイは俺の顔を見て笑った。

「な、なんでわかったんですか?」

 言ってから、自分でエルフじゃないと自分でバラしているようなもんだ、と気づいた。動転し過ぎだ。俺は馬鹿か。

「耳だよ。君たち、エルフの耳の動かしかたを知らないだろ?」

 言って、フレイは自分の長く鋭い耳を上下左右にぱたぱたと動かした。

「君たちは感情がこもっても耳が動かない。よっぽど感情表現が苦手か、エルフじゃないか、のどちらかだね。

 そっちの子だけは、エルフなんだろうけど」

 フレイがシギュンを指す。シギュンは自分を話題に出されて嬉しいのか、耳を上下に動かした。


「あの、騙すつもりはなかったんです。これには訳が……」

「騙すなんてとんでもない。街の人たちだって気づいていると思うよ。騙せてない」

 フレイの言葉に唖然とする。もしかして、変身の杖って意味がないのか?

 スキールニルが小馬鹿にしたように笑う。

「おいおい、そんなに驚かなくてもいい。

 俺たち3人もエルフじゃないんだ」

「え、だってさっき耳を」

「騙されやすいやつだな。これは訓練でなんとでもなる。

 まぁただエルフに変身したのは正解だ。郷に入りては郷に従えってな。

 つーか、この街見つけられないだろ。エルフになっとかないと」

 スキールニルにあれこれ話を振られて、頭が回らない。結局、問題はないってことか?


「僕は神族だ。このアールヴヘルム一帯を統治している。この地域に居る時は、エルフたちに合わせて姿を変えているんだ。

 フノスは、僕の妹の子供で同じ神族だ。それからこっちのスキールニルは幼馴染でね、種族は……」

「俺はエルフでも神族でもない」

 スキールニルがフレイの言葉を遮った。

「どうしてそんなに種族を言われるのを嫌がるんだ?」

「謎が多いほうが面白いだろ?」ニヤリと笑うスキールニル。


「そんなことはどうでも良い。

 旅の人――アリカって言ったっけ? 俺に用があるんだろ?

 恩を売るのが俺の仕事だ。何か仕事をくれ」

 言って、スキールニルはフレイの隣に座った。フノスが回り込んでフレイの隣に座る。

「ええと、……エルフが『忘れ薬』を作れるって聞いてきまして」

「そんなもんは作れないぞ。作れるとしたら、小人族(ドヴェルグ)だな」

「小人族って言うと、この宮殿に居る人たちは作れないんですか?」

「おいおい、彼らを小人族って呼ぶと怒り狂うぞ。大方のやつはコンプレックスだからな。

 聞いてみないと分からんけど、多分無理じゃないか?

 ここにいるのは大体ハーフ。純正で職人気質な小人族はここにはいない」

「どこに行けば会えますか?」

「このアーヴルヘイム地域をさらに進んだ森の奥だな。

 彼らは弱視だから、日に当たらない奥地か地下に住んでいる」


 俺はスキールニルに詳しい場所を聞き、地図に印までつけて貰った。

「ありがとうございます。この地図を頼りに行ってみます」

「いや、行っても無駄だと思うぞ。

 彼ら小人族は見知ったヤツにしか心を開かない。話もできないだろうさ。

 それか、なぁ?」

 スキールニルは、俺の嫁たちを見回してから、フレイの腹を小突いた。

 ふーっ、とため息をつき、フレイが口を開く。

「美しい女性が夜を共にすれば、欲しい物を作ってくれるかもね。

 ……妹がね。昔、どうしても黄金の首飾りが欲しいって、小人族と寝たことがあるんだよ」

「さいてーよね」フノスが吐き捨てるように言った。母親のことを相当嫌っているらしい。


「仲間にそんなことはさせられない。何か他に方法はないんですか?」

「そこで俺の出番だ。俺は奴らに顔が利く。ギブアンドテイクと行こうぜ?

 俺の言うことを一つ聞く。そしたら、アリカの為に俺がひと肌脱ごうじゃないか」

 机の上に身を乗り出してスキールニルが言う。その顔はニヤついていて、あまり良い感じを受けない。

「何をすればいいでしょう?」

 笑みを崩さずに、うーん、と言いながら顎を撫でた。フレイと、それからフノスを見る。

「フノスちゃんを、その旅に連れて行ってくれないか?」

「え? ボク!?」

 フレイも何か言いかけたが、フノスの言葉にかき消されて黙った。


「旅はしたい。けど、王宮の奴とじゃ『おままごと』になるから嫌だ。

 となると、もうこういう機会しかないんじゃないのか?」

「うーん」

 値踏みするようにフノスが俺たちを見る。フレイが俺たちを見る視線も同様に真剣さが増している。

「どうだい、アリカ? そもそも提案を受け入れる気はあるか?」

「ええ、俺は構いませんけど。でも、今日会ったばかりの俺たちに預けるなんて良いんですか? 王のフレイ様の姪なんでしょう?」

「ああ、だって君はアリカなんだろ?」

「え? はい、そうですけど」


「英雄王シグルズと義兄弟。

 竜殺しの英雄アリカ。っていうのは、君のことじゃないのか?」

 話したっけ? と隣に座ってるイズンとスカジに確認するが、二人とも首を振った。

 フレイも言葉に驚いたのか、スキールニルに向き直っている。

「なんで知っているんですか?」

「俺は何でも知っている。それに何でも解決できる。

 と言って、君が本当にあのアリカなら、有名な噂だよ。

 ついこの間の話だしな。

 竜を殺すほどの英雄で、英雄王と義兄弟。これ以上の物件はないだろ?」

 後半の台詞は、フレイに対して言っているようだ。

 確かにそうだが、とフレイは言って俺たちパーティを丹念に見つめる。

 スキールニルが来るまで柔和だったフレイに、険のある視線を投げかけられる。


「その、君たちは……、結婚でもしているのか?」

 長い沈黙の後にフレイが問うた。

「ん? ええ、はい。全員嫁です」

 記憶を失っているヒルドの立ち位置が微妙だけど、簡潔にそう伝えた。

「ハッハッハ! 英雄色を好むってやつだなぁ!!」

 スキールニルが嬉しそうに笑い、フレイが彼を睨み付けた。

「笑いごとじゃないだろ! フノスが手を出されたらどうする!!」

 フレイはいきなり立ち上がり、語調も荒く怒鳴った。

 その声を聞いて、スキールニルが腹を抱えてさらに笑う。

 当のフノスは、「まーた始まった」とあくびをした。


「分かった分かった。笑って悪かったよ。

 それにしても本人を前にして失礼な物言いじゃないのか?」

 ハッ、と我に返ったフレイが「す、すまない」と言って謝った。椅子に座り直す。

「まぁまぁ。許してやってくれ。

 フレイはさ、純情一途なんだ。その癖、妹のフレイヤがとんでもない好色だからな。ノイローゼなんだよ。

 フレイヤは『男はみんな私の恋人』なんてほざいてる阿呆なんだ。んで、フノスはその娘だからさ。何かと気にしているんだ」

「ボクはママとは違うって言ってるだろ!!」

 今度はフノスが立ち上がって、スキールニルを糾弾する。

「ほら見ろ。ご覧の通り、似たもの親子なんだ。

 まぁ、この場合は叔父と姪だけどな。ハッハッハ」

 フレイとまったく同じ行動を取ったのが恥ずかしいのか、フノスは黙りこくって席に着いた。

 顔が真っ赤になっている。それもフレイと同じだ。


 スキールニルは自分の遣える王族に対して、酷い態度だな。

 幼馴染だからと言って、許されるものなんだろうか。どっちが主従か分からないくらいだ。


「姪に絶対に手を出さない、というなら許可しよう」

 真剣すぎる瞳でフレイは問う。気圧されて俺は頷く。

「絶対に、はおかしいだろう。

 フノスが惚れたらその限りじゃない。ハッハッハ」

「ボクをママと一緒にするなって言ってるだろ!!

 好きな人なんて出来たこともない。ボクは惚れっぽくないんだから」

「そんなことはどうでもいい。

 多分、ここまで頼れる旅人が訪れることはほとんどないぞ。機会を逃すと次はいつ訪れるか分からん。

 冒険に行きたいのか? 行きたくないのか?」

「絶対、行きたい」フノスは即答した。

「これも遺伝ってやつか? 旅がしたくて仕方がないんだもんな!! ハッハッハ」

 心底楽しそうにスキールニルがフレイの肩をばしばしと叩く。


 何の事か分からずに戸惑っていると、フレイが教えてくれた。

「フノスの父親もね、旅が好きでよく旅をするんだ。

 だが、今となってはフレイヤの浮気癖に呆れて失踪中……」

「ママがどうしようもないから、パパが出て行っちゃったんだ」

 フノスは父親には懐いていたようで、見ているこちらまで悲しくなるほどしょげている。

「もう何年も探しているんだが、どこにいるのかまるで分からない」

 言葉を聞いて、スキールニルは笑いに耐え切れなくなったのか身体を折って、腹を抱えた。クックック、という哄笑だけが漏れ聞こえる。

 フノスがスキールニルの傍らに駆け寄り、「笑うな!」と殴りつける。

 だが、力は強くないようで、むしろスキールニルの笑いを増長させた。


「はぁ……、交渉は成立かな。

 フノスには絶対に手を出さないでくれよ」

「ぜ、ぜ、ぜ、ぜ、った、い」

 笑いながら、スキールニルが言葉を繰り返す。フレイが肘で腹を殴るが、笑い声は止まらない。

「大丈夫ですよ。手なんて出させません」

 話を聞いていたイズンがそう言った。「絶対出させない」とスカジが言葉を続ける。

 俺は二人から腕を引っ張られた。警察に連行される犯人みたいに。

 スキールニルが顔だけ挙げて、俺たちを眺める。笑い過ぎて苦しいのか、表情が少し苦しそうだ。それでも笑みは止まらない。


 フレイはスカジとイズンを見て、自分と同じもの(純粋さ?)を感じたのか頷いた。

「しっかりと、監視しててくれ」

 フレイの言葉にスカジとイズンは固く頷いた。3人で握手なんぞまでしやがった。

 いや、俺って別に好色って程じゃないと思うんだが……。そもそも、結婚したのだって王に言われて、知らずに血の誓いをやっただけだし。まぁ、可愛い女の子と重婚できて嬉しい気持ちはあるけど。

「妹のことをあまり悪く言いたくないが、フレイヤをアリカ殿に近づけない方がいい。

 とんでもない奴なんだ、本当に。気を付けるんだよ」

「分かりました」「絶対近づけません」


「フノス、アリカ殿たちと一緒なら旅に出ていいよ」

「本当! やったー!!」

「よ、よ、よ、よかった、な」スキールニルはまだ腹を抱えている。


 なにぶん賑やか過ぎて俺も気疲れしたが、ここまで来た旅が無駄にならなくて良かった。

 俺たちパーティは、フノスの旅の準備が終わるまでは城内で滞在することになった。


「アリカ殿、ちょっと」

 応接間から出る時、フレイに呼ばれた。


「絶対に、僕の妻には手を出すなよ?

 そんな事をしたら、この地域から生きて帰れると思うな?」

 真剣過ぎる声と表情に、俺は「は、はい」と上ずった返事をした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気に入った方は 評価ブクマ感想などをいただけると嬉しいです。

▼こちらの投票もよろしくお願いします▼
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ