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仮病で二人きり作戦

 俺とファヴニールの血が利いたのか。神官の薬が功を成したのか。

 何が良かったのかは分からないが、スカジは徐々に顔色が戻り、快調に向かっていった。

 まだ本調子には程遠いようだが、酷い風邪を引いたくらいのものだ。


「アリカぁ……。あたし、死んじゃったらどうしよう……」

 スカジが弱々しく言った。体調は徐々によくなっているはずのに、精神の方がやられているんだろうか?

「そんな事にはならないよ。俺が何とかする。苦しかったらすぐに言うんだよ?」

「一人っきりでいると心細いの。すぐ塞ぎこんじゃうし……。アリカと一緒に寝たい」

 スカジは繰り返してそう言った。スカジは現在一人で医務室のベッドで眠っている。

 竜の毒があった時は、神官から止められていた。だが、竜の毒抜きは出来たようなので、俺は神官に頼み込んで一緒に寝させてもらうことにする。

 神官もスカジの精神衛生上、そちらの方がいいと納得してくれた。


「ごめんね、わがままばっかり言って」

「良いんだよ。スカジは自分がよくなることだけ考えてな」

 俺は2人きりのベッドの中でスカジを抱きしめて頭を撫でる。

 そうしていると、スカジの表情が蕩けてキスをせがむので、したいようにしてあげる。

 精神が弱っているなら、俺ができることなら何でもしてあげて、少しでも良くなって欲しい。

「ねぇ、前の続きしよっか?」

 スカジが顔を真っ赤にしながら、そう言った。

「続き?」

「ほら、前に魔王城で……、その」

「スカジ、身体に障るかもしれないし、よくないよ」

「あたしとするの嫌?」

「そうじゃない」

 けれど、弱っているスカジに手を出せるほど、俺は無神経じゃなかった。


「スカジに早く良くなって欲しいんだ」

「でも、あたし死んじゃうかも」

「そんなこと言うなよ! スカジはちょっとずつ良くなってる。

 気を確かに持たなきゃ駄目だよ。治るものも治らなくなるぞ」

 言って、俺はスカジを強く抱きしめた。

「うん、変なこと言ってごめんね」

 スカジが安心するように、優しく頭を撫でていると、可愛らしい寝息を立てはじめる。



***



 ファヴニールへの罪は問われないことになった。呪いの装備によって、人格が歪んでいたのが原因だからだ。

 だが、手放しで放免される訳ではない。城お抱えの神官たちと一緒に竜化の謎を解く手伝いをすることになった。

 嫌な言い方をすれば、実験材料だ。

 しかし、自分の意思ではないとはいえ、沢山の人を殺めたことを悔いているファヴニールは、快く受け入れていた。


 シグルズの所で長く滞在することになったので、どうせならと俺はシグルズに剣術を習う事にした。

 ステータスの関係上、力は俺の方が有利だと思っていたが(俺の力はカンストの500なので)、アナライズをしたらシグルズも力は500だった。

 それどころか、シグルズのレベルはカンストの255だった。力は互角だけれど、俺はヒルドによる戦女神の加護(ステータスアップ)の分で勝っていたらしい。

 シグルズと本気で戦えば、ステータスアップや魔法がある分、俺の有利は変わらないだろう(シグルズは魔法を使えない)。

 けれど、こと剣術においてはシグルズから学ぶことは沢山ある。特に、シグルズの守りは一級品だった。


「防御に視点をあてるなら、盾を装備した方がもちろんいい」

 シグルズが言う。

「けれど、二刀流というアイデアも中々良いと思う。

 攻撃は最大の防御になり得る。

 スカジ殿のアイデア、――上腕付近に盾を固定するというのも面白い。

 万が一の攻撃をそこで防ぐ練習をすれば光るものがあるかもしれない」

 俺は練習用の剣と盾を駆使して、素振りをしたり、シグルズと稽古をして時間を過ごした。

 シグルズの義弟である従者のヘグニも、俺たちのことを認めてくれたらしく、あまりあれこれと騒がなくなった。

 ヘグニは、俺たちがまさか竜退治を完遂できるなど思っていなかったらしい。

 ヘグニは英雄としてシグルズを尊敬している。竜退治の英雄たる俺たちも認めてくれたようだ。

 時にはヘグニも訓練に参加しながら、俺は2対1での戦闘も学んだ。

 恐らく、今後は複数人との戦いも多くなるだろう。良い機会を貰った俺は真剣に練習を重ねた。



「キャアアアアアアアアアアアアア」

 耳元で大きな悲鳴が聞こえて飛び起きる。スカジの隣に横になって容態を見ているはずが、どうも寝てしまっていたらしい。

 まとっている布団をどかして、スカジを抱きしめる。

「どうした。何があった?」

 敵襲か? 城の中に? スカジが弱っている今、守り切れるか? そもそも俺は今武器を携帯していない……。

 ぼやける頭で思考を瞬時に巡らせる。

「どうしたんですか?」と他の仲間たちも医務室に慌てて入ってきた。

「あ、あれ……」

 スカジが窓の方を指刺す。窓の外は平原が広がっている。

 何か化け物でもいるんだろうか? 目を凝らすが特に異常は見られない。

 それとも、もしかしてスカジは毒の後遺症で頭がおかしくなってしまったんだろうか?

「スカジ、どうしたんだ? 何が見えるっていうんだ?」


「と、とりが……」

 もう一度目を馳せると、窓辺に小鳥が止まっていた。まさか鳥に驚いているなんて思わなかったから見落としていた。

「ただの小鳥じゃないか、何をそんなに怖がっているんだ」

「だ、だって、あの。いつもアリカとか、みんなが傍に居てくれたから。

 誰かが話かけてくれてたと思ってたのね? あたし」

「ん? 何が言いたいんだ」

 スカジは首を振る。訳が分からない。

「だ、誰かがあたしに話かけてくれてるんだって思ってたのよ、あたし。

 で、でも、さっき一緒にいてくれたアリカは寝てたし、それでも声が聞こえるから……」


「スカジ、落ち着いて。言っている意味が分からないよ。

 ちゃんと聞いてるから、分かりやすく話してくれ。どうしたんだ?」

「鳥が、喋ってるのよ……」

 スカジの言う通り、確かに鳥はぴーちくぱーちく鳴いている。

 鳥に言語があるなら、喋っていると言っても良いだろう。だが、人間である俺には内容が分からない。

「た、確かに鳥が鳴いてるよね。だけど……」

「違うのよ!! 喋ってるの!!」

 本当に頭がおかしくなったのか? と訝しんで言う俺をスカジが大きな声で遮った。


「この女の子いつまで寝てるんだろうねー。もう治ったはずなのにー」

 シギュンが唐突に何か言い始めた。俺はシギュンの方を向く。

「どうしたんだ?」

「えー、鳥がねー、そう言ったのー」

「そうそれっ!!」

 スカジが大声で言った。近くで大声を出されたものだから、俺は耳がキーンと音を立てる。

「そうなのよ。

 なんか変なこと言われてるなって思ったら、鳥が喋ってたのよ!!」

「こんな大声だせるんだからー、やっぱりもう大丈夫だよねー」

 シギュンがまた何か呟いた。「そうそれ!」とスカジも合いの手を打つ。

「シギュンには鳥の声が聞こえるのか?」

「うん」シギュンは頷いた。「ムニンともお話してるでしょー?」


 ムニンとは、俺たちとロキの伝言係を務めるカラスのことだ。確かに考えてみれば毎晩シギュンはムニンに向かって色々呟いていた。

 俺はシギュンがどこか頭のネジが外れていると思っていたので、特に気にしていなかったのだが……。

 あるいは、ムニンは使い魔だから、主人とだけ口がきけるのかと思っていたら、そうでもなかったのか。

「で、なぜかスカジも鳥の声が聞こえるようになった、と」

 うんうんうんうん、と何度もスカジは頭を振る。


「なぜでしょうかね?」イズンが首を傾げて疑問を口にすると、ヒルドが答えた。

「竜の血の影響じゃないですか? 竜は賢く、その血には大いなる知恵が宿ると言われています」

「竜の血? じゃ、ファヴニールの血の影響ってこと?」

 確かに、スカジはファヴニールの血を治療の効果を狙って何度も飲んでいる。

「身体はどこも悪くないのか? 何か異常があったりとか」

 俺は心配になってスカジの背中をさする。

「う、うん。別に悪いところはないけど……。もう体調も悪くないし。

 あ、安静にした方が良いって言われたから、そうしてただけなのよ?

 べ、別に仮病とかそういう訳じゃ……」


「スカジさん、あなた、アリカさんを独り占めする為に!!」

「そ、そ、そんなことないわよ」

 イズンが傍らに来て、スカジをじと目で見る。

「あなたね、武闘家として武を極めるとか言いながら、なんなんですか!!

 その体たらくは。本当に武を目指すものなんですか!!」

「あ、あんたに言われたくないわよ!!

 あんただって僧侶失格じゃない!!」

「イズン、いいじゃないか、そんなこと」

「よくないですよ!! アリカさんの優しさに付け込んでるんですよ?」

「そんな事はないよな? スカジ」

「う、……うん」

 返答の歯切れが悪い。

「ほら、やっぱり下心があるからすぐに答えられないじゃないですか!!」

「そういうなよ、イズン。

 きっと病み上がりだから、いつも以上に頭が正常に回ってないんだよ」

「……なんか失礼なこといってない? アリカ」

「とにかく、言い争いは後だ。

 ファヴニールを呼んで確かめてみよう」


 俺はファヴニールを呼ぶ為に、医務室を出る。

 医務室では、先ほどの言い争いがまた再開されてしまったらしい。外にまで聞こえる大声で騒いでいる。

 やれやれ……、あれだけ元気ならスカジの体調は、もう問題なさそうだ。

 医務室までファヴニールに来てもらって、俺はファヴニールの血を飲んだ。

 すると、確かに小鳥の声が聞こえるようになった。

 小鳥は好き勝手にわーわー喚いている。もの凄くうるさかった。

 俺が能力を得たおかげで、パーティーのみんなにも能力が継承されたらしい。他のみんなもギョっとしながら、小鳥を眺める。

「ファヴニールにも聞こえているのか?」

「ああ。竜になってから聞こえるのが当たり前だったから、気にしてなかったよ。

 他の人にも意味が通じてるのかと思ってた」

 せっかく血を飲んだので、俺はついでにファヴニールに対してアナライズを唱えてみた。


【ファヴニール】

 LV143/255

 種族:人間族/竜族

 職業:人/竜

 称号:竜人の民

 ステータス: (人間族と竜族のステータスが2つ並んでいる)

 その他:一定の条件を満たすことで、竜に変身できる

     血を飲ませることで、対象に動物の声を聞きとる能力を与える


 何の気なしに覗いてみた情報は、予想外のものだった。

「ファヴニール、君、竜に変身できるらしいぞ」

「なんだって?」

 俺は見えているままの情報を、ファヴニールに伝える。

「普通は、種族が2つ書かれていることはあっても、LVやステータスは1つしかないんだ。

 それなのに君は2つ用意されている。変身前と後で強さがまったく異なるみたいだ」

「一定の条件って、何をすればいいんだ?」

「いや、そこまでは書いてないから分からない」

 そもそも竜の状態でカンストのLV255というのがおかしい。

 『円環のラグナロク』では、竜のファブニールはLV220程度だ。なぜ、こんなにもLVが高い?

 竜に変身できる人間というのも、ゲームの中では出てこなかった。


「ありがとう、アリカくん。神官の方と相談して、色々試してみるよ」

「けど、……竜になる方法が分かったとして、理性は保てるんだろうか?」

「……分からない。けど、あの兜を付けていなければ問題はない気もする。

 暴れられないような状態にして、試してみるとか考えるしかないな。

 もし、俺がまだ生きている意味があって、何かできることがあるのならば、俺にはこれしかない」


 その後、ファヴニールは毎日血液を採取して、その血を研究に使われたり、必要な人に配ったりされていた。

 それから、神官と一緒に竜に変身する方法を様々試している。

 変身の条件が分からないから、身体を酷く傷つけるようなこともあったらしい。

 しかし、俺たちが滞在している間には、ファヴニールの謎はまったく解けなかった。


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