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血の誓い

 階上からは2人以外誰も降りてこなかった。

 あれ、2人も立て続けにゲーム内で仲間だった子が出て来たので、"そういうこと"だと思ったんだが、キャラメイクした子が現れるってわけでもないのか?


「あれ、ぼくー、こんな所でどうしたの?

 管理人さん、……ここおっかないお姉さん座ってなかった?」

 武闘家ちゃんが俺を見て、諭すように言ってくる。

 なにが「ぼくー」だ。いい歳こいたサラリーマンなめんなよ。


 武闘家ちゃんは低身長設定のはずなんだけど、俺と同じくらいの背丈だ(小柄な女の子が武の達人というギャップが俺の中で熱いのだ。流行なのだ)。

 おおジーザス。俺ってそんなに低身長だったのか……。


「男の子にそんな態度するのは失礼ですよ、スカジさん」

 スカジと呼ばれた武闘家が不機嫌そうに頬を膨らませる。

「そんなこと言ったって、イズン。

 あたしたち一体いつまでこんな所にいればいいのよ」

「こういうのは、めぐり合わせだから仕方がないですよ。気長に待ちましょう」


 ブリュンヒルドにスカジにイズン。

 スカジとイズンはゲームで俺がつけた名前そのものだ。ゲームにもブリュンヒルドはいたけど、ゲームする上でのサポートNPC扱いで、直接の仲間にはならなかった。


「あの、俺、仲間を探しに来たんですけど。他の人はいないんですか?」

「なかまぁ?」

 心底不思議そうに俺のことを眺めてくる武闘家ことスカジ。

「なに、ぼくも冒険者なの?」

「いえ、この子は勇者ですよ。本日転生召還の儀でこの世界に呼ばれたのです」

「え? まじ!?」「あらあら」

 スカジが俺の頭に手を載せた。それから、肩を触ってみたり、腕、腿、足をさわさわする。こそばゆい。心地よい。


「まるっきりただの餓鬼じゃない!」

 あきれた風に言われてしまい俺はショックを受ける。

 そんなこと俺に言われても、その転生召還をした奴に言って欲しい。

 俺はただのゲーマーで、インドア派で、単なる神話マニアなだけだ。美少女オタクでもあるけど。

 強いやつを召還できなかった無能な召還士のせいだ。俺は断じて悪くない。


「そんなことありませんよ。

 私が全身全霊祈りを捧げてこの世に来ていただいたのです。

 この子には、勇者としての才能があります」


 前言撤回。ブリュンヒルドは、無能な召還士ではない。

 可愛いは正義。可愛ければすべて許される。

 期待に応えるために頑張ろう。我ながら現金なものである。


「へー、見かけに寄らず凄いのね。こんなちんちくりんが」

 ちんちくりん言うな。ていうか、大して体格が変わらないじゃないか。

 スカジは筋肉質という感じには見えない。どちらかというとスレンダーだ。無駄な贅肉がない感じ。


「ということは、あなたはもしかして戦乙女ヴァルキリーということでしょうか?」

 イズンがブリュンヒルドを見て言う、ブリュンヒルドは頷いた。

「この子の予言では、この子は魔王を倒したというんです。期待できる子です」

「え!? ほんとに凄いんじゃない、この子。

 予言とか、あたしはあんまり信じてないけど、わざわざあのヴァルキリーが召還するなんて」

 でもなぁ、うーん、と言いながらスカジは、再び俺の身体を触る。


「ええ、この子は、立派な勇者か……英雄になることでしょう」

「すばらしいじゃないですか」

 一歩離れて俺を眺めていたイズンが、近づいてきて俺の顔をじっと見つめてくる。ちょっとぼんやりしたお姉さんタイプのイズン。

 顔が近い。嬉しいけど、恥ずかしい。

 俺が視線をそらしても、イズンは変わらず俺のことを見ている。


「あ、あの、他の冒険者はいないんですか?」

「今日の留守番はあたしとイズンだけだから、ここにはいないわよ。

 夜になれば酒飲みが来るけど、ああいう連中は駄目ね。

 訓練もまともにせず、毎日酒ばっかり飲んでるだけだもの」

 やっぱり魔法使いちゃんはいないのか? パンクなロリばばあはいずこに。


「ねぇねぇ、あたしとイズンを連れて行ってみない?

 その辺の男共なんかより、ずっと役に立つと思うよ」

 願ってもない話だった。理想の女の子をはべらせて冒険というのは、RPGの醍醐味だ。

「でも、そんなに優秀な勇者なら、男の方を連れて行ったほうがいいんじゃないでしょうか?」

「いえ、俺は別に……」

 二人をフォローしかけて、俺の言葉は入り口の扉のバタンッ! という音にかき消される。


「あのクソ王。今日来たばっかりの勇者に2人も冒険者をつけろだってさ!!」

 苛立たしげに声を荒げるアラサーお姉さんこと、ここの管理人さん。

「いいかい、ちびっこ。本当はね、レベル10ごとに1人の冒険者を雇えるんだよ。

 けどな、あんたは特別らしいからね。仲間を2人も選んでいいんだってさ。

 あのクソ王、クソ忌々しい」


 たった2人? ゲームでは、7人まで仲間にできるはずだった。

 俺は事前に攻略本を読んで、

『4人パーティー&固有キャラ抜きでラスボスを倒すとクリア得点あり!』

 とあったので、高難易度ながら、頑張ってラスボスを倒したのだった。

 まぁ、『世界の半分をもらう』という選択肢のせいで、それもおしゃかになってしまったけど。


 アラサーお姉さんは、俺の身体を触ったままの武闘家と、俺をすぐ近くで屈んで眺めていた僧侶を認めると、ふん、と鼻を鳴らして言った。

「すっかり打ち解けてるんじゃない。仲間はその二人にしな」

「え!? でも、この子、魔王を討伐の予言までされてるらしいですよ。

 あたしたちでいいんですか? 期待の勇者みたいだし、男共を連れて行ったほうがいいんじゃないですか?」

「と に か く 、男の冒険者は貴重なんだ。

 実績も作ってないこんな子供に、はいそうですか、って渡せるほどうちは繁盛してないんだよ。

 クソ王のせいでクソ勇者たちにどんどん連れて行かれちまって、今じゃ生きちゃいるかさえ分からない。昔とは時代が違うのさ」


「実績なら既にありますよ。ヴァルキリーである私が、直接転生召還しました。

 それに、この子の予言では、この子は魔王を倒しています」

「それは王宮のやつらの言い分だろ?

 予言だのなんだのじゃ、こっちは飯を食えないんだよ。

 予言とやらで魔王に勝てたとか抜かした勇者は前にもいたよな?

 なのに、せっかく育てあげた冒険者は帰ってこない。商売あがったりだ!」

「ですが、この子は……」

「私にとっちゃどうだって良いんだよ。どうすんだい。決めるのはあんただよ。

 この2人でいいのか? それとも嫌なのか。どっちなんだい」


 武闘家と僧侶の2人を眺める。

「よく決めたほうがいいわよ。大切なことだから」

「そうですね、その通りです」

「あのね、あんたたち。こういう機会じゃないと、女のあんたたちは、連れて行って貰えないわよ。冒険者になりたくて、うちに来たんでしょ?」

「それはそうですけど……。

 それはあたし個人の気持ちで、この子に押し付けられないですよ」

「魔王を倒すための勇者様には、もっと実績のある冒険者をつけたほうがいいんじゃないですか?」

「だから、その実績のあるやつらが帰ってこないんだろ。ここにさ」


 ブリュンヒルドのほうを見ると、彼女は優しく笑みを浮かべた。

「あなたの運命は、前世によって決定されているのです。

 すべては運命の賜物なのですよ。

 この方たちは、あなたにとって良いめぐり合わせなのでしょう」

 ブリュンヒルドもこの2人を仲間にするのは反対ではないらしい。

 そうと決まれば、俺の願望を通すだけだ。

「あ、あの! 俺、この2人でいいです。いや、この2人がいいです」


「ほんとうかい!?」

 一番驚いたのは、アラサーお姉さんだった。

「ほんとにいいのかい? 男じゃなくて。

 冒険は甘いもんじゃないよ。外には、魔物があふれてる。

 どうしたって、女じゃ男みたいにいかないこともあるもんさ」

「この2人がいいんです。

 ゲーム……いや、予言でもこの2人と一緒に旅をしてました」

「え、じゃあ、あたしたちも一緒に魔王倒したってこと!?」

「ええまぁ」

 俺は、武闘家がゲームの最後で必死になって、魔王の言葉を聞かないようにと説得していたのを思い出す。

 少しばつの悪い想いがこみ上げてきた。


「きゃー、すごいじゃん! あたしたち」

「あらあら。私なんかがお役に立てるんでしょうか」

 アラサーお姉さんは、心配そうな顔をしていたが、

「そこまで言うんなら」としぶしぶと言った感じだが頷いてくれた。


「気をつけるんだよー。無理しちゃダメだからねー。

 きちんと帰ってきなさいねー。命を粗末にするんじゃないよー」

 スカジとイズンの旅の準備を整えて冒険者の館を出ると、管理人のお姉さんは人が変わったように優しくなり、扉の前まで見送ってくれた。

 案外、根は良い人なのかも知れない。



 王の間に戻ると、国王は「女2人か」と呟いたが、それ以上は何も言わなかった。

「では、王の誓いを始めるとしよう。聖なるツボを持てい」

 王の前に台があり、その上に口の広く底の浅いツボが置かれていた。王は手にしたナイフで、おもむろに自分の親指にそのナイフをあてがった。

 血が滴り落ちて、ツボの中に吸い込まれていく。


「え、嘘、そこまでするの」「期待されているんですね」

 すぐ前に立っている俺にやっと聞こえるくらいの小さな声でスカジとイズンが囁きあった。隣のブリュンヒルドは、誇らしそうに大きい胸を張っている。


 数滴の血を滴らせた後、王は受け取った布で血を拭き、手にぐるぐると包帯を巻いた。包帯は、血が少しにじんで赤く染まる。

「次はそなたの番だ」

 メイドが俺の前にツボとナイフを持ってきてくれる。

 ツボには、砂が詰まっていた。点々と黒くなっている部分は、血の跡だろう。


 メイドは俺の右腕を掴むと、親指にナイフをあてがいスッーと引いた。

「この中に血を流してください」

 もう結構です、といわれるまで、国王と同じように血を数滴たらす。

 左手で砂をかき混ぜろといわれたので、その通りにする。


「これで王の誓いは完了だ。今度は、仲間との血の誓いを果たすがよい」

 メイドはスカジの右親指をナイフで切った。スカジもツボの中に血を入れるのか? と思ったらどうも違うらしい。

「互いの指を合わせて、誓え」と、国王。

 メイドがスカジの耳元で何かささやいた。スカジが親指を目の前に掲げたので、俺も同じようにする。


 親指から血を滴らせながら、俺とスカジは親指を合わせる。

「あたし、ああ、すみません。

 私は貴方のために命を賭して戦うことを、神々の名において誓います」

 俺も何か言う必要があるのか? メイドのほうを向くが静かに首を振った。

 5秒ほど経って、スカジが手を離した。

 スカジは手渡された包帯を自分の親指に巻く。

 今度はイズンの番だ。先ほどと同じようにイズンとも血の誓いを行う。

「私は貴方のために命を賭して守ることを、神々の名において誓います」


「戦乙女の誓いはもう済ませてある。儀式は全て終わった」

 ブリュンヒルドを見ると、くすりと笑って、人差し指を口にあてがった。

 俺はブリュンヒルドとキスしたことを思い出して、顔が熱くなってきた。顔が真っ赤になっていることだろう。

 そうか、あれがブリュンヒルドとの戦乙女の誓いってやつだったのか。

 もっとたくさん誓いたいなー。と下らないことを考えてしまう。


「では、そなたらに褒美をとらそう」


 褒美!

 周りにいる仲間たちや兵士の反応を見るに、どうも俺はかなりの高待遇を受けているらしい。

 何がもらえるんだろう。わくわくしながら先ほどのメイドが何かを持ってくるのを待つ。メイドが大きな宝箱を抱えて持ってきたのを見て、俺の興奮は最高潮に達する。


 まじかよ、すげー!! なんだあれ。金銀財宝か!?

 メイドは宝箱を俺の足元に置いた。

 ゴトンッ、という宝箱の重さが伝わってくる大きな音に俺は胸を高鳴らせる。


 メイドが宝箱をあけてくれた。

 くぱぁ。


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