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ドラゴンスレイブ

 俺は上空がちらりと光ったのを見逃さなかった。

「スカジ、下がれ」

 腕を引っ張って後退する。魔法の射程外だろうとは思うが念の為だ。

 次の瞬間、シギュンが放ったであろうエクスライトニングがファヴニールに落ちた。

 以前のシギュンの雷を一度喰らったことがあるが、喰らったら数秒間は動けなくなる。

 人間が受け切れるものではない。


 しかし、竜はその限りではなかったようだ。

 雷で全身を痛めつけられながら、口から毒液を吐いてきた。咄嗟に左腕部分に固定した盾を構えて受ける。

 スカジも俺の盾の下に隠れたが、盾で防ぎきれなかった分が、俺たちの身体にかかった。

 耐性のおかげで大したことはない、と俺は判断したが、スカジの顔色がみるみる内に悪くなった。

 俺は二本の剣を一旦しまう。


「どうしたスカジ」

「ちょっと、……気分が……」

 声を発するのも苦しいのか、スカジの顔は青ざめていた。

 なぜだ? といぶかるが、すぐに結論が出た。

 俺は毒耐性(大)を持つが、スカジは俺から間接的に耐性を継承しただけなので弱化している。

 同じ(大)ではなく(中)あるいは(下)程度の耐性しか持たないのだろう。


 目の端では、真っ赤に染まった竜がこちらに突進をしようとしているのが見えた。

 今までの攻撃が蓄積しているのか、そのスピードは緩慢だ。しかし、体格の差があり、ぶつかればダメージは相当量になるだろう。

 俺はスカジを抱きかかえて、竜の進行方向から離脱する。

 怒り状態でモノを考えられないのか、竜は木々をなぎ倒しながら、俺たちの横を駆け抜けていく。

 近くでこちらを窺っていたヒルドにスカジを預ける。俺は背中に背負った魔法の袋を渡した。

「この中に解毒剤が入ってるはずだ。見てやってくれ」

 竜の進行方向には、イズンとシギュンがいるはずだ。

 俺はすぐに引き返す。


「待てよ、おい」

 満身創痍で足を引きずっている竜は歩みが遅く、なんとか追いついた。

 剣で後ろ足を傷つけるが、しかし竜は止まらない。

 ちまちまやっても駄目だな……。

 俺は二本の剣を突き刺しながら、また竜の身体を昇った。背中に降り立ったところで、どんどん頭の方に昇って行く。

 竜の肩越しに、数メートル先にイズンとシギュンがいるのが見えた。


「何やってるんだ、早く逃げろ!!」

 竜が二人に向かって毒液を吐いた、シギュンからも大きな火の玉が迸る。

 毒液は一瞬で蒸発したが、火の玉も相殺され竜には届かない。

 イズンたちをよく見ると、足元が紫色に染まっている。

 毒を受けているのか……。気丈に立ってはいるが、スカジですら動けなくなっていた。

 イズンでは、立っているのがやっとだろう。


 シギュンは、竜の肩に俺が乗っているのを見つけると、攻撃を氷魔法に切り替えたようだ。

 鋭い氷柱が竜をめがけて打ち出される。竜は先ほどと同じように毒液を吐いたが、氷柱は突き進んで竜の胴体に突き刺さった。

 竜は呻いて、前足を上げて上体を逸らした。俺は振り落されないように、剣を首に突き刺して身体を支える。

 竜が前足を地面にたたき下ろすと、辺りの地面が揺れた。イズンとシギュンが転倒する。

 竜は二人に振り下ろさんと、右前足を大きく振りかぶった。


「やめろ、この野郎!!」

 竜が装備している兜の取っ手になる部分を掴み、兜に保護されていない目にドラグスレイブを突き刺す。

「ギィアィアアアアアアア」

 痛みを耐える為に、竜が瞼を閉じた。凄まじい力だ。剣を引き抜くことができない。

 首をやたらめったらに振り、俺を振り落とそうとしてくる。俺は剣と竜の兜をしっかりと握って耐えた。

 振り落されるにしても、せめて剣だけは引き抜かないとッ……。


 イズンとシギュンの悲鳴があがった。クソ、なんとかなれ。

 しかし、体勢も悪く、腕だけではどうにも引き抜けない。

 衝撃が弱まったタイミングで俺は一度剣から手を離して、両手で兜を掴んで体勢を安定させる。

 剣の柄を蹴りあげる。剣は竜の目を抉った。竜はひときわ大きな咆哮をたてて首を思いきりぐるりを回転させた。

 俺はたまらず宙に弾き飛ばされる。

 長い浮遊感の後、地面に叩き付けられた。


 衝撃によって口腔から体内の空気が押し出される。俺は激しく咳き込んだ。 あの高さから飛ばされた割には、身体のダメージが少ない。

 竜の咆哮が酷く遠く感じる。鼓膜でもやられたのか?

 俺は立ち上がろうとして、――何かに頭をぶつけた。

 脳が揺れて、視界が真っ白になる。

 なんだこれは……。


 手で手繰り寄せると、酷く大きく固い何かだった。それが俺の身体を覆っている。

 目が慣れてきて、"それ"から抜け出して全容を確認する。それは黄金に輝く兜だった。

 ものすごく大きい。これは竜が身に着けていた兜だ。

 こいつの間に挟まっていたから、俺は大してダメージを受けずに済んだのかもしれない。


 素早く周りに視線を這わせるが、竜の姿がない。

 どこに行きやがった?

 視界から消えるくらい遠くに飛ばされたんだろうか?

 先ほどまで耳に届いていた叫び声も、今となってはまったく聞こえない。

 辺りが静かだった。


 仲間たちは無事か? 前衛を俺が戦線から抜けてしまっては、俺たちのパーティーは一気に不利になる。

 残っている前衛のスカジだって、攻撃特化なので防御の面では弱い。

 地面が抉れているのを発見して、俺はその跡を辿った。兜が引きずられた時にできたものだろう。

 この跡を辿った先に、竜がいるはずだ。

 しばらく走った後で、ドラグスレイブが地面に突き刺さっているのを見つけて回収する。

 それから、イズンがこちらに向けて駆けてきているのを見えた。


「イズン! 無事だったか!! 大丈夫か?」

 イズンは会話も出来ないくらい必死で走ってきたらしい。傍に来ても喋らずに喘ぐばかりだ。

「喰らった毒は大丈夫か? 顔色がいい、解毒はすんでるみたいだな」

 俺はイズンの身体を確認する。服が擦り切れている部分はあるが、大きな怪我はなさそうだ。

 イズンは俺なんかよりも回復魔法が得意なのだ。もはや俺が気にする必要もないだろう。


「アリ、カさん。ちょっと、……こちらへ」

 息も絶え絶えなイズンに腕を引かれて、イズンの元来た道を戻る。あんまりイズンが辛そうなものだから、俺はお姫様抱っこして走ることにした。

 すぐに他の仲間を見つけることができた。

 おーいと声をかけると、みんなが一斉にこちらに振り向く。みんなの安堵した表情を見て、俺も安心する。

 良かった。誰も致命傷などは負っていないようだ。

 仲間たちに近寄ると、お姫様抱っこされているイズンを見て、スカジだけがちょっと眉根を寄せた。

 おいおい、今はそんな状況じゃないだろう。


「みんな、無事か。よかった」

 ロキの野郎ふざけやがって。何が『竜殺しも一興』だ。結果的に大きな問題なかったものの、強すぎた。

 やっぱり、もっと簡単なボスから回った方が良かったじゃないか。

 あの悪戯者の言うことは、今後は耳を傾けるべきじゃないかもしれない。

 やはり竜は強い。

 最強の剣を2本も持ちながら、ここまで苦戦させられるなんて思いもしなかった。


「それで、ファヴニールはどこにいったんだ?」

 森林に囲まれていて、場所が特定しづらい。

 しかし、周りの木々の荒れ具合や、竜の尻尾や翼が視線の先に放りだされているので、この辺りが先ほどまで戦っていた場所に間違いはないだろう。

「それが……」

 スカジが答えて、身体を退いた。ヒルドも同じようにして、二人の背に隠れた"それ"が視界に飛び込んでくる。


 人間だった。


 人間の男が、うつ伏せに倒れている。身にまとっている服は所々が割け、全身に傷がついていた。傷からは血がドクドクと流れている。


「おい、大丈夫か!!」

 俺は思わず駆け寄る。口に顔を近づけると、まだ息があった。

 無詠唱のハイヒールを唱える。

「ア、アリカ……」

 仲間が俺を呼んだが、気にせずにヒールを唱え続けた。

 血がすぐに止まった。

 背中の方はもう大丈夫そうだ。

 前面は、と男を仰向けにする。そして、気づいた。

 片方の目蓋を抉るように、縦に一線が入っている。


「もしかして、この男は……」

「ええ、先ほどの竜です。急に竜が眩い光を発して、気づいたらこの姿になっていました」

 イズンが答えた。俺たちの視線が集まる中、竜だった男――ファヴニールが目を開いた。


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