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二刀流スタイル

 シグルズはこの一帯を脅かせている竜のファヴニールに対しても慈悲深いようだ。竜になったのはヴィズル国王のせいであり、ファヴニール自身に罪はないと考えているらしい。

 国のために放っておくことはできないが、せめてなるべく苦しませないように葬ってほしいと、シグルズは言っていた。無論、俺もそのつもりだ。

 というか、俺はシギュンのおかげで魔物と話をすることができる。争うよりも先に、話し合いをしてみるつもりだった。


 部屋に入る直前で、ロキの使い魔であるカラスのムニンが羽ばたいてやってきた。俺の肩に乗っかる。

 毎日毎日、ロキと俺の方を往復して情報を伝達しあっている。大変なもんだ。

「どうしたムニン。遅かったな」

 アァーとムニンは鳴いたが、魔族でもない動物の声は俺には分からない。

 俺は部屋のドアを開けた。


「あ、やーっと帰ってきた!」「あらあら、随分と"長かった"ですねぇ」

 スカジとイズンの小馬鹿にしたように笑みを含んだ声を無視して、俺はベッドに座る。

 シギュンはヒルドの胸の中でもう眠ってしまっていた。

「俺たちも、もう寝ようか」

 ベッドに這い上がって寝転がると、すかさずスカジとイズンが俺の隣に来る。

 ヒルドがシギュンを俺の胸の上に載せて、彼女自身はイズンの隣に横になった。



***



「本当にこんな大切なモノを借りていいんですか?」

 シグルズから聖剣グラムを渡されて、俺は尻込みをする。ゲームでも、ファヴニールと戦う前にグラムを貸し出される。

 だが、今の俺は魔剣ドラグスレイブを持っているので、グラムの必要性をあまり感じていないのだ。

 ただ、そんな事を言うと、色々と身の上を説明しなければならなくなりそうなので、俺は自分の武器については黙っていた。

「ふん、まさにその通りだ。貴様ごときの下賤な者に……」

「いいんだ。我が王家に伝わるこの剣であれば、いかに固い竜の装甲と言えど切り裂くことができるだろう」

 ヘグニの皮肉を無視してシグルズが言う。


「それから、アリカ殿たちの耐性を高めよう。血の誓いを行う」

「「え?」」俺とヘグニが驚きの声をあげた。

 ヘグニがシグルズに対して「そ、そんなことなりません」と喚くがシグルズは聞いていない。

「我が王家の血筋には、毒に対する耐性がある。血の誓いによって、アリカ殿たちもその恩恵を受けられるはずだ」

 そう言うと、シグルズが腰に下げていた鞘からナイフを抜き、自分の親指を傷つけた。

 シグルズの指が血に染まっていく。

「なんともったいないことを!! 王家の力をたかだか一勇者に与えるなど」

 俺はイズンを見た。「う、受けられるなら受けた方がいいですよ。た、大変、名誉なことです」

 イズンは目を見開いて驚いている。

 悩んでいる間にも、シグルズの血が滴り続ける。

 俺はシグルズからナイフを受け取って、自分の指を切った。


「聖なる砂はどちらにあるのですか?」イズンが聞いた。

「砂は必要ない。私はアリカ殿と義兄弟の血の誓いを行う」

「「ええ!!」」

 今度はヘグニとイズンが大声をあげた。

「シグルズ様、王の誓いではなく、本当に血の誓いをするつもりなのですか? この勇者と」

「最初からそう申しておるだろう」

「まさか、王の誓いならまだしも、王自らが血の誓いをするなど!!」

「何を言っておるのだ。王の誓いでは、効力が薄すれてしまうであろう。

 アリカ殿がファヴニールの毒にやられてしまったらどうするというのだ」

「し、しかし……そうなると、名目上はあなた様と同等の地位を得ることに……」

 シグルズが親指を差し出してくる、まだ何か言いたそうなヘグニを見ながら、俺は血の滴る親指同士を合わせた。


 ドクンッ。

 手が合わさった瞬間、俺の中で血がざわついた。

 合わさった部分から、熱が流れ込んでくる感じ。目の瞳孔が勝手に開くのが自分でも分かった。

 血が熱をもち、身体の中の隅々まで巡っていく。


 シグルズの手が離れると、熱は収まった。けれど、自分の中の血液が脈打っているのを確かに感じられる。

 仲間たちも、俺と同じように自分の身体を眺めまわしている。

 目の前にウィンドウが飛び出し、『【英雄王】の力を継承しました』『【毒耐性(大)】を取得しました』『【竜耐性(中)を取得しました】』『各種ステータスにボーナスポイントが付与されます』『称号:【英雄王】を取得しました』と立て続けに文字が表示された。


「なんたることだ……シグルズ様の高貴な血筋が……」

「身体に何か異常はないか? 痛みなどはないだろうか?」

「いや、……何かおかしい気はするけど、異常はないですよ。力が溢れてくるみたいだ」

「当たり前であろう! シグルズ様はそんじょそこらの王家の者とは格が違う。

 王の中の王、英雄の中の英雄なのだ。我が王家は代々続く、名誉ある血筋なのだぞ。

 ……見たところ、王家の血に負けて暴走する器ではないようだな。及第点というところか」

「ヘグニ、どうしてお前はいつもそう偉そうなのだ」

「シグルズ様、我々は王家なのです。実際のところ偉いのですよ。シグルズ様こそ、もっと自覚を持って階級の差をですな……」

「もうよい。お前は黙っておれ。アリカ殿、よろしく頼むぞ」



 俺はシグルズたちに見送られて城を出た。城下街を通り過ぎて、街の入口に着く。

 辺りを見回して、近くに俺たち以外に誰もいないことを確認する。

 スカジたちを一人ひとり見て「アナライズ」を3回唱えた。

 目の前に、3つの黒いウィンドウが表示される。

 俺は両手を使ってウィンドウをスライドさせ続けた。

 スカジは……よし、大丈夫。イズンも……問題ないな。シギュン、……OK。


「よかったー」

 俺以外にはウィンドウは見えないので、女の子たちが首を傾げる。

「なにがよかったのですか?」

「いや、血の誓いするって言ってたからさ。

 みんなもシグルズの嫁になるのかと思って。ちょっと心配だったんだよ。

 俺、男と血の誓いするの初めてだったしさ」

 スカジとイズンが互いに目を合わせた。そして、また俺に向き直る。

「あっきれた……。王と直接血の誓いをするって時に、そんな事考えてたわけ?」

「あの……アリカさん。王族は通常家系の者同士としか血の誓いなどしないんです。

 それか余程の業績をあげた、その国の勇者ですね。それほど王家にとって血の誓いは重要なものです。

 ヘグニさんの狼狽えぶりを見たでしょう? 普通は有り得ないほどの待遇なのですよ。

 それを嫁がどうなどと……」

 残念な子供を見るような目でスカジとイズンが俺を見る。

「し、仕方ないだろ! 気になっちゃったんだから。

 スカジやイズンは俺以外の嫁になっても良いって思ってるのか!?」

「思ってなんかないわよ」「ですから、間接的な血の誓いでは配偶の有無は継承されないのですよ」

「ぐぬぬ……いや、だから、俺はそれを知らなかったから……」


 俺は救いを求めて、いつも俺の味方をしてくれていたヒルドを見た。

『アリカは異世界の勇者だから、色々知らなくても仕方ない』そう言って慰めてくれていたヒルド。

 ヒルドは俺の視線に気づくとにっこりと笑った。癒しだ。そして、言った。

「アリカは本当に何も知らないのですね」

 笑みは崩さずに言ってのけた。

「おばーかさーん」シギュンが馬鹿にしながら俺の腰に抱き着いてくる。

 ……俺はいたたまれない気持ちでいっぱいになる。

 同情してくれるのか、イズンが血の誓いについて説明してくれた。


 血の誓い。

 誓った者同士で特性を受け継ぐ。義兄弟(あるいは配偶者)になる。

 力量差が大きい場合は、血に汚染され、暴走することがある(血縁関係の場合はその限りではない)。

 また、同じく血の誓いを果たしているもの同士は、間接的に(多少効力が弱まって)特性を受け継ぐ。

 今回の件で言えば、俺はシグルズの英雄としての特性を直接受け継いだ。

 そして、俺と血の誓いを果たしている嫁たちにも、弱化した特性が受け継がれることになる。


 また王の誓いについても教えてもらった。


 王の誓い。

 王族による血の誓いとは、一般的にこちらのことを指す。

 聖なるツボを媒介にして血を混ぜることで、特性のみを(効力を弱めて)受け継がせることができる。

 王族は、血筋による様々な恩恵を持っているため、これを王家以外に出すことは通常は禁じられている。

 王族の特性が薄まることで、王家としての威厳や能力が損なわれることになってしまうからだ。


「へー、かなり名誉なことなんだな」

「そうですよ。というか、普通は有り得ないですよ。シグルズ様が変わってらっしゃるんだと思います」

 シグルズはヘグニとか兵士にも日頃から『乱心した』と言われると苦笑いしていた。

「あーでもさでもさ。王の誓いよりも、血の誓いの方が凄いんだよね?」

「えーっと。シグルズ様の誓いが優先されると思います。たぶん」

「たぶん?」

「私にだって分からないことくらいありますよ!!

 王と血の誓いをするなんて、聞いたことないですもん!!」

 イズンが追い詰められて興奮している。興奮するとおかしくなるので要注意だ。


 話を逸らすことにした。

「そ、そういえば、剣2つになっちゃったけど、どっちが強いんだろ」

 背中に背負っている2本の剣を鞘から抜いて、それぞれアナライズを唱える。

【魔剣ドラグスレイブ】

 とある聖剣をゴールドメタルキングの金属で鍛え直した魔剣。

 元々が聖剣であるため、魔剣となった現在でも呪いの類はない。

 攻撃力500

 ルーン強化済。勝利のルーン↑↑

【聖剣グラム】

 神々の父オーディンの剣を鍛え直した聖剣。

 その威力は竜の装甲も易々と貫くとされ、聖剣の中で最強の威力を誇る。

 攻撃力450 聖属性+100

 未強化


 へー、素の攻撃力だったらドラグスレイブの方が強いのか。っていうか、何気なく使ってたけど、そういえばこれ魔剣だったな。呪いがなくてよかった。

 グラムの方は聖属性が有効な相手には、ドラグスレイブよりも良さそう。逆に聖属性のやつには微妙かな。それでも強いことには変わりないけど。

 うーん、ファヴニールに聖属性は有効なんだったけか? ゲーム内だと、剣で一番強いのはグラムだから他に選択肢がなかったけど、聖属性が有効じゃないならドラグスレイブを使った方がよさそうだ。


「うーん、どっち使ったらいいかな。迷うな」

 いちいち相手の属性を考えるの面倒だし、ドラグスレイブを使っておけば間違いはないか?

 でも、せっかくシグルズから貸してもらったし、使ってみたい気もする。

 たぶん、ファヴニールを倒した暁には、グラムは貰えるはずだ。ただ持ってるだけじゃ面白くない。

「どっちも使えばいいんじゃない?」

「そうなんだけどさ。相手の属性を知らないと効果的じゃないからさ」

「ん?」スカジが首を傾げた。「両手で装備して使えばいいんじゃないの?」

 俺も小首をかしげる。両手で? 剣を装備する? 二刀流ってこと?


「え? そんなことできるの?」

「できるのって、あたしに聞かれても……。重くて2つは使うのは無理そう?」

 俺は左右でそれぞれ持っている剣に目を落とす。別段重くない。左右の剣をふるってみた。特に違和感はない。扱えそうだ。

 あれ、このゲームって二刀流なんて選択肢はないよな? 左手は盾しか装備できなかったはず……。

 いや、別にそんなゲームのシステムなんてどうでもいいのか。俺が使えるか、使えないかの問題だ。

「使える、かも。あ、でもそうなると盾が装備できないから、防御力が下がるね」

「肩にでも括り付けたらいいんじゃない?」

 一旦、剣をしまう。背中にかけていたメタキンの盾を取り出して、見つめる。

「ほら、腕を通して、この辺りで固定して。あたしの髪留めかしたげる。結びつけて……、ほら、どう?」

 スカジが片側の髪留めをほどいて、くくりつけてくれた。

 盾は、腕にいい感じにフィットしている。手で持って使うよりは、もちろん扱いづらいけど。

 いや、これ実際のところどうなんだ? 邪魔になる気がしないでもない。


「使えないこともなさそうだけど、相手の剣げきとかは防ぎきれないかな」

「2本も剣があるじゃん。そっちで防ぎなよ」

「!?」

「この盾って属性とかを軽減するんでしょ? 魔法が来たら合わせるとかすればいいんじゃない?」

「スカジ、お前頭いいな!!」

 思わずスカジの両肩に手を載せると「え、そうかな。えへへ」と目線を逸らして笑う。めちゃくちゃ可愛い。

 デレデレしていると、イズンが俺の手をスカジから引きはがした。イズンのこめかみがピクピクと動いている。

「イズンも頭いいよな!」

 言ってみたが、イズンは何も喋らない。両肩に手を置いてみると、にっこり笑った。

「ありがとうございます」満面の笑みだ。めちゃくちゃ怖い。


 気を取り直しまして。

 俺は盾に肩に括りつけた状態で、2本の剣を抜いてみた。

 武器が1本増えて、一気に強くなった気がする。二刀流の効率的な戦い方は後で考えよう。

「わー、かっこいいよ、アリカ」スカジが目を輝かせて褒めてくれた。

「そ、そうかな。ありがとう」

「わ、私もかっこいいと思ってます!!」イズンがすかさず言った、

「あ、ありがと……」

「……さっきより心がこもってない気がするんですけど」

「ありがとうございます!!」俺は叫んだ。

 スカジと、遠巻きに見ていたシギュン・ヒルドが突然の大声にびくつく。

「いえいえ、本当のことですから」イズンだけは、はにかんで笑った。

 なんだこいつ、僧侶のくせに……頭イカれてるんじゃないのか?

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