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戦乙女ヴァルキリー

「じゃあね、アリカくん」

「うん。色々お世話になったよ、ありがとう」

「水臭いことを言うなよ。僕たちは一緒に戦った戦友なんだ。一緒に戦ったんだよ」

 ロキが握手を求めてきた。握ると、ロキはがっしりと俺の手を握った。

「魔王さまをお預けするんだ。くれぐれも、無理はしないように。

 それから、何かあったらすぐに魔王城に戻ってきてくれ。歓迎するよ」

「分かった。じゃあ、行ってくるよ」

 俺たちは魔王城を後にした。


 俺たちパーティー(俺、スカジ、イズン、シギュン)は、前に話合った通り、竜のファヴニールを倒す為に旅に出ることにした。

 ロキたちは魔族の内政を指揮っていて忙しいらしいので、一緒に旅を出ることできないらしい。

 倒すと言っても人間族や魔族に牙を向かないというのなら、話し合いだけで済ませたかった。

 シギュンの血を飲んだ俺たちは、今なら魔物と会話をすることができる。会話で両方が納得できるのなら、それに越したことはない。


 ロキはあれで心配性なようで、ムニンというロキのカラスを俺に預けてきた。ムニンが毎朝ロキにこちらの状況を伝える為に飛び立ち、夜になるとこっちに帰ってくる。

 馬車も一式貰ったので、旅自体は楽ちんだ。シギュンは魔族ならある程度気配を感じ取れるし、この一帯では、俺達を襲う魔物はいない。シギュンに逆らう魔族なんていないからだ。

 俺は念のために馬にまたがりながら(乗れるようにロキに訓練させられた)、偵察という名の風景鑑賞をたしなんでいる。

 この辺りは、以前いたミズガルド街周辺よりも動植物が多い。

 もう魔王城から旅立って、何日も経つけれど、見ていても飽きなかった。


 竜のファヴニールとのイベントは、『円環の最終戦争(ラグナロク)』からすれば脇道のイベントだ。

 ゲーム内の聖剣の最強武器であるグラムを手に入れる為に、過剰なお使いイベントをする必要がある。

 お使いイベント自体が面倒なのだが、竜殺しの剣であるグラムがあれば、ファヴニール自体は呆気なく倒せる。

 俺が持っている魔剣ドラグスレイブは、元々グラムを叩きなおしたものだし、性能も引き継いでいるはずだ。この剣さえあれば何とかなるだろう。

 面倒なお使いイベント(が現在しているこの世界であるかは分からないが)をやる必要がない分、攻略は楽そうだ。


「だから、あたしの方がアリカを好きになったのは早かったんだから!」

「私の方が早かったですよ。でも、聖職者だから遠慮してたんです!」

「えー、わたしもアリカすきだよー」

 馬車の中からかしましい声が聞こえてくる。あの夜の一件以来、彼女たちのスキンシップが過剰だ。シギュンはどちらかというと、純粋に遊びに混ざっているような感覚だと思うけれど。

 正直嬉しいのだが、スキンシップという枠を超えずに、発展することはなくて(どうも2人で抜け駆け禁止同盟を立ち上げたらしい。クソッ!)生殺しなので、俺は毎日寝不足になっている。

 そのせいだろう。

 俺は眠気を感じて、馬車に引っ込むことにした。

 すかさず女の子たちが、横になった俺に近寄ってくる。腕やら胴やら胸やらを引っ張られるが、俺は彼女たちを無視して、深い眠りについた。



***



 ぺちぺちと、顔を叩かれる感触に気付いて目を覚ました。シギュンが叩いていたようだ。

「アリカー、この子がなんか言ってるよー」

 指の示す先に、手乗りサイズの小鳥がいる。耳元で何か喚かれていると思ったら、鳥だったのか。

「なんて言ってるの?」

 俺は魔物の声は聞こえるが、魔族化していない動物の声は分からない。

 シギュンに聞くと、小鳥を掴んで肩口に持って行った。

「すぐそばのやまにーほのおのやかたがあってー。

 おんなのこがねむっているー。だってー」


 すぐ傍の山に、炎の館があって、女の子が眠っている。

 なんだそりゃ。訳の分からない小鳥だ。それがどうしたって――。


 俺は飛び起きた。スカジとイズンから両腕を引きはがす。

「メニュー」

 黒いウィンドウが俺の前に現れる。はやる気持ちで、俺はマップ情報を表示させた。

【現在地】『ヒンダルフィアル山のふもと』

 俺はスカジとイズンの身体を揺すって起こす。

「なによー」「どうかしたんですか? アリカさん」

「今から山を登る」

 言って、剣と盾を手にとった。その他の防具は……いらないだろう。

 俺は馬車から降りて駆けだした。

「ちょっとー」という言葉を置き去りにして、俺は一心不乱に走る。


 その山は、それほど大きくはなかった。

 頭頂付近に火が燃え盛る館が見えて、俺はさらにスピードをあげる。

 どういう仕組みなのか、山の木には燃え移らず、館も形を保ったまま炎に包まれていた。

 呆然とその建物を見つめる。


「ど、どうしたんですか。アリカさん」

 イズンが先にたどり着いて、シギュンを抱っこしているスカジが続いて追いついてきた。

 追いついてから「なにこれ」と館を見て3人とも首を傾げている。

「イズン、魔法防御を俺にかけてくれ」

「え? いいですけど、何をするつもりなんですか?」

「いいから、早く!」

「は、はいっ」

「聖なる光りよ、邪悪な影を照らし、魔の法から我らを守れ。

 ハイマナウォール」

 俺の身体が白く包まれる。


「ここで待ってて」

 言い残して、俺は館に突っ込み、ドアを蹴り飛ばす。

 館を守る火の粉が俺に降りかかり、服を焦がしていく。

 マナウォがなかったら、一瞬で燃え尽きていたかも知れない。

 俺は火のついた上着を一度脱いで、床に叩き付けて消火する。

 自分でハイヒールを唱えて回復した。すぐに回復したのが良かったのか、ダメージは回復してくれる。

 館の外から、「なにやってるんですか!!」という声が聞こえてくるが、「すぐ戻るから待ってて」と返して館を見回す。


 館は、外から見たイメージとは異なって一回建てだった。

 天上がやけに高い。周りのステンドガラスは、礼拝堂を思わせる。

 そんな清浄な建物の中央に、ベッドが一つだけ置かれていた。

 ベッドは茨によって、包まれていて、羽飾りの帽子と甲冑に身にまとった女の子が死んだように眠っている。

 俺は手から血が出るのも構わず、茨をどける。

 茨が女の子を傷つけないようにしてから、女の子の肩を揺さぶる。

 女の子は目を覚ます気配がない。

 口に手を近づけると、息はしている。死んでいるわけじゃないようだ。

 胴体を締め付ける重い甲冑のせいか、呼吸が浅いような気がする。

 甲冑は、前にある金属性の留め金のせいで外れそうにない。


 俺はドラグスレイブを鞘から抜いた。

 注意して甲冑の留め金のみを斬りさく。

 バチンッ、という乾いた金属音の後、甲冑は2つに割れた。

 顔にも服にも見覚えがある。

 先ほど揺さぶっても起きなかった女の子が、静かに目を開いた。


 目が合う。

「ブリュン……ヒルド」

 俺の声はなぜか掠れていた。

「私を眠りから覚していただき、ありがとうございます。

 私の英雄さま」

「ヒルド、俺のことが分かるか!?」

「ええ、私を神の呪いから解き放ってくれた英雄さまなのでしょう?」

 神の呪い? 解き放つ?

 俺は嫌な予感がした。


「ヒルド、俺が誰だか分かるか?」

「ええ、私を神の」「違うんだ!」ヒルドの言葉を遮る。

「俺の名前が分かるか? アリカだよ。

 一緒に旅をしていただろ? ヒルド?」

 ブリュンヒルドは首を傾げた。

「ええ、私には未来が見えていますよ。私は、戦乙女(ヴァルキリー)として、あなたと共に戦う運命なのです。

 あなたは英雄となり、後世までその名を残すことでしょう」

「違うんだ。俺が言ってるのは、未来の話じゃない。過去の話だ」

「かこのはなし?」

 ヒルドは言葉の意味が分からないのか、俺の言葉を繰り返した。


「私は過去、神々の父である主神オーディンに逆らってしました。

 そして、神の呪いを受けたのです。

 この館で長い眠りにつき、私を解放してくれる人を待っていたのですよ。

 それがあなたです。英雄アリカよ」


 話がかみ合っていないのは、自分でも痛いほど分かっている。

 でも、俺はヒルドからその言葉が吐かれるのが恐かった。

 知りたいはずなのに、決定的な言葉を聞くのが躊躇われた。


「それにしても」

 ヒルドは言った。

「どうして私の名前をご存じなのですか?

 どこかで、お会いしたことがありましたか?」


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