※眠れない夜
もう勘弁してくれ……。
という状況に2,3分耐えた後でようやく俺は解放された。
3人とも疲れていた。はぁ、はぁ、はぁ……とともすればエロい喘ぎ声をあげている。
スカジをちらっと見たが、既に上着を着ていた。残念。
「あああ、あんたねえ! 聖職者でしょ!!
なに、いきなり淫らなことしてくれてんのよ!!」
「スカジさんが抜けがけするからでしょ!!
第一、私は雷神とはいえ神に逆らっちゃったから、もう聖職者失格なんですよ!!」
あ、だから、あれだけ神族に逆らうなって言ってたのか。
悪いことしたな。パーティから外してあげればよかったか?
スカジは、言っている意味が分かってないのか「え、どういうこと?」と言葉を反芻している。
「私は僧侶で聖職者だから、神に貞操を捧げていたんですよ!!
だから、素敵なアリカさんの前でもおしとやかにしてました。
でもね、もう神族に逆らっちゃったからには、後はもう私の好きにさせてもらいます」
俺は風呂で何度もちらりと見ているイズンの裸を思い出した。
顔が熱くなってくる。
「神に貞操を捧げてるってことは、その、……つ、つまり」
「しょ、処女ですよ!!
神に捧げるってのは、つまり生涯、じゅ純潔でいるってことで……」
俺はほっと一安心する。良かった。俺は胸を撫で下ろす。
「あ、あたしだって処女よ!!
はじめてはアリカに貰ってもらうんだから!!」
「聖職者の私と、武闘家のスカジさんじゃ、まるっきり覚悟が違うじゃないですか!!」
「そんなの関係ないわよ!! あたしだって処女だもん!! はじめてなんだから!!」
何が起こってるんだ? どうして、あの姉妹のように仲が良かった2人が喧嘩しているんだろう。
ブリュンヒルドはどこだ? 彼女だったら、この場を収めてくれそうな気がする。
それとも、ヒルドがいることでバランスがとれていたのだろうか?
三竦みが二竦みになってしまったから、バランスが崩れてしまったのか?
イズンに腕を回され、肩と腹を抱き寄せられた。
イズンの豹変にびっくりしていたスカジは、それを見て、はっとしたように俺の腕を引っ張る。
「アリカはあたしの初めての相手なの!!」
「は、初めてって、そんなところまでしてしまったんですか!?」
いやいやいやいや、俺は首を高速で左右に振る。
「そんなっ! ひどいっ!!」
「どっちなんですか? しちゃったんですか!?」
「いや、キスしかしてないし」
「そうよ、キスしたじゃない。初めての相手じゃない」
ああ、ファーストキスのことを言ってるのか。
「スカジは初めてだったんだね」
言ってから、あっやべ、と気づいた。
「スカジさんの前にもキスした人がいるんですか!!」
イズンが俺の襟をつかんで首を締め上げる。
「いやあの、こっちに召喚された時にヒルドとね……。
戦乙女の誓いとかで……」
スカジが思いきり腕を振りかぶって、ベッドを殴りつけた。
ボスンッ、という音と共にベッドが"気"によって粉砕される。
拳大の穴が開いた。
いつもの俺なら、「何をやってんだよ!」と怒るはずなのだが、いかんせん、うつむいたスカジの表情が怖くて、声をかけられない。
「くっ……、戦女神の誓いじゃ仕方がないですね。
じゃぁ、アリカさん、貞操はどうなんですか? まさかあのヴァルキリーにあげてませんよね?」
「うん、童貞だけど」
さっきのスカジとの成り行き次第では、不名誉な称号(童貞)を捨てられたのに……。
「じゃぁ、私がもらいます」
イズンが俺のズボンずり降ろした。
「ちょ、おい! 何やってんだよ!!」
俺、逃げる。
「なんで逃げるんですか、私のことが嫌いなんですか?」
「いや、そういうことじゃなくて。シギュンだっているんだぞ」
「もしかして、シギュンさんとも……」
「シギュンとは何もしてないよ! キスも何も」
そもそも犯罪だろ、流石に。あ、でも実年齢は結構いってるからいいのか?
妖精族は長寿なので、年齢を重ねても身体の方は成長しにくい。
シギュンは純粋な妖精族じゃないが、ハーフなので特色を受け継いでいる。
「スカジさんにセカンドキスあげたなら、ファースト貞操は私にくれてもいいじゃないですか」
何やら、イズンは訳の分からないことを言いだす。
なんだ、セカンドキスって。なんだファースト貞操って。ただの貞操でいいじゃないか。
「イズン、落ち着いてよ。どうしたのいきなり」
「いきなりじゃないですよ。もう私は聖職者じゃないんです。
ずっとアリカさんのこと好きだったけど、もう我慢する必要がなくなったんですよ」
「話が飛び過ぎだよ。イズンが直接神に手を出した訳じゃないだろ」
「直接だろうと間接だろうと、駄目ですよ。神は見ているんですから。
聖職者失格の烙印な以上、私は私の意思を貫きます!
なのに、なんなんですか。私がせっせと薬と作ってる間にはしたない!!」
ご高説はごもっともなのだった。イズンからすればキレるのは仕方ない。
「そういうあんただって、お風呂の時とか、色々やってるじゃない!」
「色々ってなんですか?」
イズンはにやりを笑って、胸を強調するように腕を組んだ。
91のバストがたゆんと揺れる。
スカジは、自分の胸(壁)を見下ろして悔しそうにおし黙る。
「別に変なことなんてしてないですよね?」
イズンが俺の腕を取って、明らかに胸があたるように抱き寄せる。
俺は男としての威厳を守りたいのだが、あまりの柔らかさに俺は表情が緩んでしまう。
スカジは、俺とそれからイズンを睨み付けて、もう片方の空いてる腕を抱き寄せた。
胸を当てようとしているのかも知れないが、当たるのは肋骨だけだった。
スカジの前身には余分な脂肪なんてこれっぽっちもついてないので、柔らかい感触は皆無だ。
「ふん。もういいわ。寝ましょ」
腕を引き寄せられて、俺はベッドに倒れ込む。ついでにイズンも。
既に寝ているシギュンの位置をスカジ側とイズン側、どちらに寝かせるかと喧嘩になりそうだったので、いつものように俺の胸の上に乗せる。
睨みあってる視線の間に、ちょうどシギュンが敷居になって争いが一応終わった。
イズンが俺の腕をさも大切そうに抱え、胸の谷間の間に挟む。服越しとはいえ、その豊かでたわわな感触に頭がぼーとする。
両脚で俺の足を巻き付けるようにして、太もももを押し付けてくる。付け根が温かい。
スカジはというと、胸がないのはどうにもならないので、ベッドをのそのそと上に移動してきた。
そして、顔同士が接近しそうなほど近づく。俺の腕は肩の根元から抱き寄せられて、拳は股の間に挟まれる。温かい、というよりは熱い感触が掌越しに伝わってくる。
「ちょ、ちょっと」と抗議するようにスカジに向き直ると、俺を見て瞳を潤ませていた。
心なしか唇を尖らせているのは、俺に文句があるのか、あるいはキスを求めているのか。
どちらにせよ、俺は三人の美少女に身体をロックされているので、首すらもほとんど動かせない。
そのまま見つめ合っていると、スカジはにっこりと満面の笑みを浮かべて、目をつむった。
肩口をさらに抱き寄せて、頬ずりをしてくる。それから足をもぞもぞする。
何度かそうしている内に心地のよい抱き具合が見つかったのか、スカジはすやすやと寝息を立てはじめた。
正直な話。
おまえ! ふざけんなよ!!
この邪な俺の欲望をどうしてくれるんだ。
興奮最高潮、もう辛抱たまらんのにトイレにすら駆け込めないこの状況。
スカジといちゃこらしてた時ですら限界だったのに、今や爆発寸前だった。
しかし、爆発させようにも俺は5体を縛られている。
女の子と一緒に寝るのは慣れてきたつもりではあったけど、性的な期待感がここまで俺を苛むのか……。
邪な俺は今からでもアレな展開に陥らないかな? と、どこか期待しているけれど、スカジもイズンも既に寝息を立てている。
元の世界では、エロゲーマーでもあった俺は、生殺し展開などが好きだった。好物だった。
しかし、見る分には興奮もするが、いざされるとなると頭がズキズキとする。とにかくすっきりしたい。
せめてトイレに行かせてくれ。
そしたら、2分もあれば冷静な俺に戻れるから!
俺は眠れぬ夜を過ごした。
俺は苦しまぎれに器用にクビだけ動かして、スカジとイズンの頭頂にキスをした。
夜も更けて、そして太陽が昇る頃になってようやく意識が途切れてくれた。




