※武闘家VS僧侶
「スカジ、きれいだよ」
「は、恥ずからそんなこと言わないでよ……」
「きれいだ」
スカジは口を尖らせて、俺から目を逸らして明後日の方向を向く。
俺はスカジの肩口に触れた。
「いたっ……」
「あ、ごめん」そういえば、スカジは肩を怪我をしているんだった。
頭が意思を持って脈打っているようだ。身体が熱くて仕方ない。
でも、スカジに嫌われるようなことはしてはいけない。
自分の欲望をぐっと堪えて、優しく接しないと……。
とにかく俺はスカジの全部を見たかった。
俺は胸を隠しているスカジの手の上に手のひらを重ねる。
スカジは少し抵抗するが、徐々に胸を覆っている手が離れていった。
「んにゃー」
声のすぐ後に、ぼすっ、という布団を叩く音が聞こえた。
頭が真っ白になった。
俺とスカジは抱き合いながら、お互いに身体をビクつかせる。
目を瞬かせながら、ちらりと音のした方を伺うとシギュンが寝返りを打ったところだった。
大丈夫、まだ起きてない。見られてはいない、はずだ。
……興奮し過ぎてシギュンが同じベッドの上で寝ているのを忘れてた。
スカジも同じだったようで、顔をこわばらせている。
「あ、あたしたち、ななな、なにをやってるんだろうね。
あ、あはは。
あたしったら、ごめん、ちょっとか、身体の"気"が高まっちゃって……」
「い、いいいい、いやいいんだ。俺もちょっとおかしかったから」
あまりにもびっくりし過ぎて、興奮が一瞬で吹き飛んだ。
まさか幼女の隣で、こんなことを始めようとは、自分の無謀さに驚く。
俺は頭の中で、スカジにしようとしていたことを思い浮かべてしまう。
また血の脈動が戻ってくるのを感じた。
スカジが俺の下半身を見て、ぎょっとする。
それから目線が上がってきて、俺と目があった。
「あ、アリカもお、男の子だもんね?」
下心を見透かされて、俺はいたたまれない気持ちになる。
その気持ちごと俺の下半身を沈めてくれればいいのに、身体は言うことを聞かない。
「と、とにかく、服、着るね。いくらなんでもここじゃ……」
スカジはシギュンをちらりと見る。つんつん、と指先でつついてみるが、シギュンは起きる気配がない。
これならイケるんじゃないか? と思うのだが、
「ね、ねぇ?」
と、言われて強引に言って良いのか分かりかねて、「う、うん」としか返せなかった。
でも、口で言ったからと言ってやはり未練はある。
スカジもスカジで服を着ないで、胸を手だ隠したままの姿でいる。
「だ、駄目だよね。子どもの前で、こんなこと……」
俺は頷く。同意するしかない。どちらも黙ってしまって、ちょっとした気まずい沈黙が流れる。
「い、いつでも、その、さ。で、できるわけ、だし。
ま、また機会があったら、ね? つ、つづき、しよっか……?」
『また』『続き』という言葉の期待感から「そうだね」と諦めがついた。
その時、鋭い破砕音が鳴った。
俺もスカジもそのままの姿勢で、瞬時に首だけを巡らせる。
……イズンだった。
口をあんぐりを開けたままの姿勢で、イズンは棒立ちになっている。
足元にはスチールで出来たおぼんがグワングワンと音を立てている。
破砕音の正体はコップだったようだ。
中に入っていたのだろう香草は飛び散り、陶器製のコップは見るも無残にばらばらになっている。
「ナニ、シテルンデスカ?」
イズンの口調からは感情がうかがい知れない。
俺は殺気を感じた。
ズボンの一部が膨張している俺も、ほぼ素っ裸のスカジも何も答えられなかった。
「あの、私、せっかくスカジさんの為に薬を調合してきたんです。
もしかして、二人きりの時間を作る為に、私に頼んだわけですか?
お邪魔だった、という訳でしょうか?」
イズンの頬がピクピクと小刻みに引きつっている。真顔なのが恐い。
「ご、誤解だ!! これ以上は、何も!!」
「これ以上? これ以上ってなんですか?
これって、何をしてたんですか!!」
「いや、だからイズンが思ってるようなことは……」
「私が思ってることってなんですか!! 何してたんですか!!」
割れたコップを踏みしめて、俺の目の前まで来るイズン。
スカジの上にかぶさっている俺を押しやって、俺はスカジから引き離された。
「さあ、アリカさん。何をしてたんですか。
それとも、私なんかもうどっかいなくなっちゃった方がいいですか?」
いや、どちらにせよ、今やめようとしてた所だから。
と、言おうものなら、また怒られそうだ。
「そんなことある訳ないだろ。大切な仲間なんだから」
「大切な仲間、そうですか。じゃぁ、スカジさんはアリカさんにとって何ですか?」
「なにって、そりゃ」スカジを見る。
スカジがゆっくりと俺に向かって伸ばそうとした手を、イズンがぴしゃりと叩いた。
「仲間だよ、もちろん」
スカジが眉根を寄せて、口を尖らせる。なんだか、機嫌が悪そうだ。
「じゃぁ、同じ仲間の私に隠しごとしないでくださいよ。何してたんですか」
え、なにこれ。どういう状況?
どうすればいいの?
どうしたら良いのか分からなくて、スカジを見るけれど、ぷいっ、と視線を逸らされた。
「え、ちょっとスカジ」
「言っちゃえばっ!」
???
なんかよく分からないが、許可が出たので正直に話すことにする。
「そ、そのスカジと、ね。ききき、キスなんかしちゃったりして」
瞬間、俺はイズンに頭を左右からがっしりと掴まれた。
「え?」
そのまま体重をかけられて、俺はベッドの上にすっころぶ。
柔らかいベッドは、俺に反発するでもなく、ぐにゃりとへこんだ。
頭突きされた! ……と、思ったらイズンにキスされている。
「んむむむっ!!」
あまりにびっくりして手で押しのけようと思ったら、両手をがっしり掴まれた。
イズンの足が俺をカニばさみしてロックする。
なんだ、なんだ、なんだ!?
いったいどうした??
「ちょ、ちょっと、何やってんのよ。離れさないよ!!」
スカジの声に反応し、唯一動かせる視線を動かすと、スカジがイズンを俺から引っぺがそうとしていた。
「なんで、あんた僧侶のくせにこんな力が強いのよ!」
女の子に押し倒されてキスされている状況だってのに、困惑し過ぎて感触を堪能できない。
というか、歯が痛い。最初に唇が合わさる時に、歯と歯がガチンとぶつかったのだ。
イズンも歯が痛いのかなんなのか、目をぎゅっとつむり、手や足を使って俺をホールドする。
もうキスとかロマンスとか、そんなのでは完全にない。ただ、締め付けられて身体が痛い。
スカジが俺とイズンを話す為に、俺の顔を思いっきり押したりするのも凄く痛い。




