表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/48

VS最強神

「物理防御魔法は切らさないでくれ。

 ヤツは魔法を使ってくることはない。魔法防御はいらないぞ」

 ロキがそう指示すると、イズンとナリが物理防御魔法を一人一人にかけていく。

「母なる大地よ、汝らの敵を防ぐ鎧となれ。ハイウォール」


 身軽で素早いスカジが、まず突進していった。手には、禍々しい鉤爪がついたドラゴンクローを装備している。

 トールが振り下ろした左腕を軽いバックステップで避けて、その腕に乗ったスカジは、トールの肩に向かって駆け抜ける。

 掴もうとする右腕をこれまた避け、腕にクローの一撃をお見舞いした。


 メタキンの次に硬い竜の装甲を傷つけるための武器は、トールの腕を切り刻む。

 スカジはさらに肩口を切りつけて進み、トール後頭部を蹴った勢いで、ヤツの背後に降り立った。

 トールがそちらに向き直るのを俺は許さない。

「すべてを生み出した最古の力よ、暗闇を照らし、我が敵を消滅せよ。エクスフレイム」

 俺の手から大きな炎が迸る。迫りくる大きな炎を見て、しかしトールはにやりと笑った。

 トールは大きく腕を振りかぶり、その"炎ごと"地面をなぐりつける。

 地響きが鳴り、衝撃が風を呼ぶ。俺の繰り出した炎は掻き消えた。

 ……魔法専門職じゃない俺ごときの魔法じゃビクともしないか。


 トールの傍らには、既にロキとヴァーリが左右から駆け寄っている。

 銀の残影が二度続き、トールの左肩と右腕から血しぶきがあがる。

「うおおおおおおおおおおおおお」

 俺は注意をひきつけるために叫び、正面から突っ込んでいく。

 トールからすれば前衛の敵は4人。誰を攻撃するか、とトールが迷っている間にも、トールは傷ついていく。

 標的にされた人間は防御に徹し、その他の人間がその隙を見計らって追撃する。

 何度も行った訓練の成果だ。

 ボスは、すべてのパラメータが高く、個人で相手にできる存在じゃない。

 その圧倒的な差を、仲間と連携をすることで埋めていく。


 ロキとヴァーリの左右、そしてスカジの後ろからの攻撃。

 それらに気を取られたトールの両足を俺は八の字にきりつけた。

 最硬度のドラグスレイブは、最強神の足を易々と切り刻み、トールの膝を地につかせる。

「こざかしいクソどもめ!!」

 トールは両手を振り上げると、地面に思い切り叩き付けた。

 タイミングを合わせて後方に跳んだのは問題がなかったが、その後に巻き起こったの爆風で後ろに投げ出される。


 背中から落ちたが、腕で何とか頭を守った。衝撃を殺さずに、そのまま後転してトールに向き直る。

 両足を切り裂いたはずなのに、トールの足は既に回復したのか、立ち上がっていた。

 所々にある傷口から白煙があがっている。凄まじいスピードで回復しているのだ。

 トールは、体勢の悪い俺に向かって大またで駆け寄ってくる。

「アリカさん、大丈夫ですか?」「アリカーだいじょうぶー」

 イズンとシギュン、後衛の二人が近づいて声をかけてきた。

「いいから逃げろ、左右にばらけて!!」


 イズンが左、シギュンが右に逃げたのを目の端に捉えながら、トールのターゲットがそちらに移らないように俺は雄たけびを上げながら、トールに突っ込んでいく。

 トールがなぎ払うようにした左腕を跳躍して避ける。叩きつけられる右腕を、トールに近づくことで下からすり抜けたた。

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」

 トールが突然叫んだ。近づきすぎたせいだろうか、声は俺の鼓膜をたたき、あまりの痛みに俺は咄嗟に腕で耳をかばってしまう。

 雷神は両腕を高く振り上げた。瞬間、左手側からロキががら空きになった胴体を切りつける。

 右手からヴァーリがその攻撃に続く。

 後ろからスカジが頭を蹴り、トールは前のめりになった。しかし、雷神の攻撃は止まらない。


 避けっ、いや、間に合わない。受けきるッ!!


「混沌たる戦場を見守る神よ、悪しき力から我を守りたまえ。

 オーディンの加護!」

 盾が、青々と光輝いた。

 両手で盾を握り締め、頭上に掲げた。衝撃に備える。

 トールの手が盾に触れた瞬間、青々を輝く紋様が盾を支点としてに浮かびあがった。

 一瞬の停滞。

 しかし、その紋様は音も鳴く割れ、衝撃が盾を通じて俺を貫く。

 足元の地面に亀裂が走って砕けた。

 俺は何とか体勢を崩さずに持ちこたえる。

 仲間がトールの身体を切りつけているのだろう。トールの血がどばどばと俺に降り注ぐ。


 トールは再度腕を叩きつけようとしたのか、力を緩めて腕を引き上げようとする。

 俺は隙を逃さず、メタキンの盾に空いている溝を通して、トールの腕に剣を突き立てた。

 痛みに呻いたトールは、腕を引き寄せる。

 その咄嗟の行動が、予想外だったのだろう。

 スカジがその腕にぶつかって、血をまき散らしながら飛ばされ、地面に叩き付けられた。

「スカジ!!」

 思わず叫んだところ、動揺のせいでトールの蹴りを喰らってしまう。

 盾で防いだおかげで、ダメージは少ないが、スカジとの距離がさらに開いてしまった。


 スカジが飛ばされた位置が良くない。

 僧侶のイズンとは反対側にいるし、駆け寄ろうとしたナリを牽制するようにトールが立ちふさがった。

 スカジは当たり所が悪かったのか、地面でもがいているが立ち上がれていない。

「がはははは。やはり人間は脆いのお。

 ワシの腕にただぶつかっただけで、立てなくなるなど。

 こすい手を使われると面倒だ。一人一人、順番に殺してやろう」

 トールは、スカジに向き直る。


「あああああああああああ」

 ヴァーリは焦ったのか、仲間との連携もせずに横手から突撃する。

 振り下ろされるトールの腕をバックステップで交わすが、抉れて飛び散った岩がヴァーリを叩き付ける。

 横滑りに地面を転がったヴァーリは、地面に剣を立てて素早く立ち上がった。

 しかし、トールの標的は既にヴァーリではなく、隙を見てスカジに近づこうとしているナリに移っていた。

 地面を踏み鳴らしながら、殴りつけようとナリの後ろ姿に迫る。

 既に先行してスカジに駆け寄っていたロキが、方向を切り替えて、ナリに駆け寄った。

 ナリに注がれるトールの剛腕を、ロキが盾で受け止める。

 ――いや、受け切れずに地面を滑って後退する。

 倒れ込まないように、とロキが左手を地面についたところを、トールはすくいあげるように側面から大きな腕でビンタをかました。

 常人の2倍もあるトールのビンタは、さして力をこめたように見えなかったが、易々とロキの身体を吹き飛ばした。


 ナリに視線を戻すと、既にスカジに到達し、回復を終えたらしい。

 だが、スカジが利き腕の骨が折れているのか、だらんと下げたままだ。

 左腕を前に突出し、迫りくるトールを待ち構えている。

 あまりにも無謀だ。

 俺は当然スカジたちに駆け寄っているが、体格が2倍もあるトールの大股での走りには追い付けない。


 トールが大きな腕を振りかぶり、スカジとナリの上に振り下ろした。

 地面をうがつ大きな音が響き、トールの拳の下では、血だまりが広がっていく。

 俺は目の前が真っ赤になる錯覚を受けた。


「トーーーーーーーーーール!!」

 叫んで、持っているメタキンの盾を投げた。盾はトールの首筋に向かって回転しながら飛んでいく。

 声か、あるいは空気を切り裂いて迫る盾の音に気付いたのか、トールはこちらに向き直った。

 トールは、眼前に迫った盾から顔を守るように腕を掲げる。

 メタキンの盾はトールの右腕にぶつかり、盾にしつらえていた装飾の剣が突き刺さった。

 回転している盾は、それだけでは止まらず、円を描きながらトールの右腕から鎖骨、そして、左肩を切り裂く。

「グオオオオオ」

 盾は、トールの身体を傷つけながら、ブーメランのように俺の方に戻ってきた。

 俺は跳びすさび、盾を踏み台にして蹴りあげ、トールの眼前に肉薄する。


「きさまを、ころす!!」

 驚きの表情を浮かべるトール。

 俺は、その目に魔剣ドラグスレイブを突き刺した。


 会心の一撃を加えた達成感は、俺にはない。

 全身を悪寒が駆け巡った。俺はトールの額を蹴って後方に逃げる。

 正面のトールは、無事な方の眼を見開き、痛みに耐えているのか歯を喰いしばっている。

 ゴゴギギギッ、と歯と歯が鳴らす音がこちらまで届いてきた。

 まずは顔が、そして次第にトールの全身が真っ赤に染まっていく。


 ……そうだ、思い出した。

 トールはHPを半分以上削られると、身体が赤く染まって、さらに強くなるのだ。

 特に恐ろしいのが攻撃力で、1.5倍に膨れ上がる。

「ギザマラゴオジテヤル」

 トールが何が呻いたが、よく聞き取れなかった。

 狂気(バーサク)状態でまともに口が回ってないらしい。

 眼前のトールは、雷神としての威厳を無くし、ただ殺戮を求めている。

 身体は、みるみる内に傷口が塞がり、さっき潰した目は、ぎょろりと俺を見据えた。


「早く遠くに逃げてください、アリカさん!!」イズンが叫んだ。

 トールは激情に駆られて俺以外は見えていないらしい。ゆっくりと俺の方に歩を進めてくる。

 俺を掴まえようと、両腕を掲げる。

 先ほどトールから一時でも逃げ飛んだ自分に腹が立つ。

 逃げている場合なんかじゃない。

 俺は、こいつを殺してスカジの仇を取るんだ!


 足を一歩踏み出して、――頭上で何かが光るのが見えた。

 反射的に目をやると、トールを中心とした頭上に灰色の雲が集まっている。

 これは、雷上級魔法エクスライトニングだ。

「あ」と声を出す間もなく、雲から幾筋もの雷が落ちてきた。

 トールと、それから俺に向かって。


 目の瞳孔が俺の意思に反して激しくブレて、視界が真っ白に染まった。

 身体の中を稲妻が駆け巡り、全身がガクガクと震える。

 気づくと、俺はうつぶせに倒れていた。

 視界と思考が戻ってきたが、身体の感覚がなく動かせない。


 大きな手に首根っこを掴まれたのが分かった。

 そのままトールの眼の高さまで引き上げられる。

 俺を見てにやりを笑った。

 殺される。

 俺は死に者狂いで身体を捻り、俺を捉えているトールの腕を蹴りつけた。

 ダメージはないだろうが、服が千切れて俺は地上に降り立つ。


 すぐ足元にあった剣と盾を手にとり、トールと正面から対峙する。

「許さねぇぞ。貴様は絶対に殺す」

 俺の言葉に雷神トールは、鋭い視線で対抗してきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気に入った方は 評価ブクマ感想などをいただけると嬉しいです。

▼こちらの投票もよろしくお願いします▼
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ