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最強の敵、襲来

「まったく、修行が足りないんじゃないの?」

 ベッドから起き上がると、昨日のぼせてぶっ倒れた俺をスカジが攻める。

 仕方ないじゃないか。女の子2人に悩殺されたあげく、シギュンのせ、せ、せ、いきを見てしまったんだから。

 経験のない俺には刺激が強すぎた。こっちだって心の準備ってものがある。

 いきなり、あんな無垢なせ、せせ、……を見せられたら、卒倒したっておかしくない。

 俺は童貞(ピュア)なのだから。


「おはよー」とシギュンが俺に飛びついてきたので、抱きとめる。

「へへーだっこー」とスカジに「いいでしょー」と誇らしげに言う。

 シギュンはどこまで行っても無垢(ピュア)だった。

 幼女のアレを見て卒倒するような俺は、ピュアなのではなく、意気地のないヘタレだった……。

 クソッ!



 いつものように、朝食を食べ、訓練に赴こうと食堂を出ようとしていたところで、ヴァーリが慌てて食堂に駆け込んできた。

「騒々しいぞヴァーリ」

「ロキさま! 神族最強の雷神トールが襲ってきました!!」

「また性懲りもなく、言いがかりに来たのか」

「また?」俺は気になったのでロキの言葉を繰り返した。

「ああ、魔王さまがトールのハンマーを盗んだって言ってくるんだよ。

 まぁ、僕が盗んで今ここにあるんだから、完全な言いがかりって訳でもないんだが。

 馬鹿なトールは証拠も掴んでないのに、がなり立ててきたんだよ、前に一度」


「いえ、今回はそんな悠長な話じゃありません。

 『絶対にここにあるはずだ』と言って、入門を止めようとした門番を殺しました。

 ロキさま、貴方を連れて来いと言っています。5分ごとに1匹ずつ魔物を殺す、と」

「ちっ! 言葉の通じない相手は厄介だな。装備を整えて、向かう。

 すぐ行くから大人しく待ってろと伝えてくれ。お前の身も危ない、気をつけろよ」

「は!」


「調子が狂うな……。アリカくんたちも準備をして来てくれるか?

 僕が何とか説得するつもりだが、争いになるかも知れない。

 なーに、神族最強といえど、その最強の所以たるハンマーはこちらが持っている。

 逆に言うと、ハンマーを渡したらまずい。世界の均衡が一気に傾く。

 ヤツを追い返すだけなら、……数の暴力でなんとかなるだろう」


「アリカさん、神族に逆らって大丈夫でしょうか?」

 ごたごたと装備を用意してる俺に、イズンが心配そうに言った。

 トールのレベルはカンストの255。ゲーム上、単体で見れば魔王と同等かそれ以上に強い。

 魔王の場合は、ダンジョンの長さや周りの取り巻きの強さもあって厄介だが。

 ちなみに、トールは、シナリオ上倒さなければならないボスではない。やり込み要素のくっそ強い裏ボスみたいなもんだ。倒すとトールの装備が手に入る。


「まだ戦うと決まった訳じゃないんだ。大丈夫だよ」

「でも、その可能性は高いのでしょう? 貴方は勇者なのです。

 魔族と共に戦う必要なんてないのですよ。ここから立ち去りましょう」

「イズン、俺たちはヴァーリやナリと戦ったときに死んでいておかしくなかった。

 それをここまで育ててもらったんだ。恩義は返さなくちゃならない」


「それは、ロキが画策したからでしょう?」

「もちろんそうだ。でも、出会った死人憑(グール)がたまたま友好的だっただけだよ。

 ああいう危険性はいくらでもあったはず。遅いか早いかの違いだったんだ。

 俺たちは運がよかっただけなんだ。それをここまで強くしてもらった。お礼くらいはしないと」

「あなたの考えが分かりません。命を懸けてまで、魔族と協力するなど……」

「とにかく話は後だ。これ以上犠牲は増やしたくない。行こう」

「犠牲? 魔物が死んだとて、私たちにとっては何の……」


「この剣と盾を見てもそう言い切れるか?」

 俺はゴールドメタルキングを素材にした剣と盾をイズンの目の前に掲げる。

 イズンは目をそらした。

「それだって、ロキの甘言によってアリカさんが手を染めただけです」

「でも、彼らのおかげで俺は数百の魔物に手をかけずにここまで成長できた」


 シギュンの血の影響で俺たちパーティーは魔物の声が聞こえるようになった。

 何の疑問もなく、魔物を倒していた頃が遠い世界のようだ。

 彼らにも痛覚があり、言葉があったのだ。そして、恐怖も。

 メタキンたちの悲鳴を思い出す。

 彼らは他の魔物のために犠牲になった。その想いを成就しなければならない。



「え? でかっ!?」

 トールと対面して、思わずそう呟いてしまった。

 隣で手を繋いでいるシギュンが「おっきいねー」とはしゃぐ。

 ゲームでやるのとは違って、自分の視点で見てみるとトールは物凄く大きい。

 身長は俺の2倍ほどはある。3mはゆうにありそうだ。


「くそったれの魔族どもめ。ワシの武器を隠しているのはわかっとる。

 さっさと出せば、ロキ、お前の首だけで許してやろう」

「前回、こちらの話しに納得して帰ったんじゃないのか?

 今度はどんな言いがかりをつけにきた」

 ロキがトールに答える。俺たちは不要なことを言わないように、ロキにすべてを任せる。

「言いがかりなもんか。この地域で最近局所的に地震が連続で起きたじゃろ。

 ワシの鎚、ミョルニルのせいに違いない。何度も言わせるな、さっさと返せ。

 ここで魔族を滅ぼしてやってもいいのだぞ」

「武器のないお前に何ができる。我が魔王の御前でふざけたことを言うな。

 前にも言った通り、新しい仲間を加えるために祝杯をあげたに過ぎない。

 彼らを出迎えたんだ」


 ロキに紹介された俺たちを、トールは屈んで顔を突き出して睨み付けてくる。

「あいつの言っていることは、ほんとだろうな?」

 目の端でロキが頷くのが見えた。

「ええ、本当ですよ」俺は答える。

「ふん」とトールが鼻を鳴らした。鼻息だけで俺の髪がはためく。

「ならば、貴様らの首を土産に持ち帰るとするか。

 雷の神が用立てもなく、武勲も挙げずに城に帰るなど、許されんのでの」

 トールが俺たちを見据えながら、口の端を吊り上げる。

 俺たちは後ろに飛びすさび、武器を構えた。


「アリカくん、大丈夫だ。落ち着け。

 トールよ、前回もお前は同じようなことを言いながらも帰っただろう」

「前回は、あの後にワシのミョルニルを盗んだ巨人どもを皆殺しにしてやったでな」

「なんだ、武器はもう見つかったのか?」

「いや、見つからなんだ。

 見つけていたら、小生意気な貴様なぞ既に殺しておるわ」

「で? その巨人が何か言ったのか? 魔族の物が盗んでいったとでも?」

「知らぬ間に消えた、と言っておった。そんなことできるのはお前だけだろうて。

 ワシはあらゆる場所を探した。もうここくらいしか探す場所は残っておらぬ。

 それにこの前の地震だ。お前が盗んだのであろう。さっさと返せ」


「我が魔王城には無いと言っているだろう」

「あの死んでいった巨人もそういっておった。

 痛めつけたら口を割った。同じことをするだけだ」

 トールが大きく右腕を上に振りかぶった。

 ……瞬間、その腕が宙に飛んだ。ごとり、と地面に転がり血が噴き出す。


 トールの腕を切り飛ばしたロキが俺たちの前で着地する。

「分からんやつだな。敵地で滅多な行動はしないほうが身のためだぞ」

「がっはっは。そうでなくてわな。

 貴様ら魔族の血を根絶やしにして、この地でもワシが王になってやろう」

 トールのたった今切断されたばかりの腕が、切り口から盛り上がっていく。

 呆気にとられていると、盛り上がった肉は腕の形をなし、腕が元に戻った。

「相変わらず口だけは立派だな。その考えなしを叩きなおしてやろう」

 ロキが剣をトールに向かってかかげた。


 俺たちパーティーも戦闘開始を感じて、それぞれ武器を構える。

 その時、魔族の飛竜――ダークドラグーンがトールに背後から襲いかかった。

 その大きい口には、鋭い牙がならび、トールの肩口に突き刺して血を滴らせる。

「ふん。雑魚風情がワシに何をやっても無駄だ」

 危険を感じて跳びあがったダークドラグーンをトールはハエでも叩くように腕で振り払った。

 ギイィヤァアアアアアと声をあげてドラグーンは、地に落ち、トールに踏みつけられて絶命した。

「新鮮で上質な肉だ」トールはドラグーンを掴んで、一飲みにしてしまう。


「やはり、ボス級相手にただの魔物じゃ命を粗末にするだけだな」

 ロキがつぶやいた。それから大きく息を吸い込んで命令する。

「我が魔族よ、貴様らは城に戻って守りを万全にしろ」

「しかし、ロキさま!!」

 近寄ってきた別のダークドラグーンが、ロキに話しかけた。

「くどいぞ。ここは我々が食い止める。さっさと行け」

 ドラグーンは何か言いたそうにその場で2度羽ばたいたが、城の方へ戻っていった。


 残ったのは、ロキ・シギュン・俺・スカジ・イズン・ヴァーリとナリだ。

「ああ、わしの食料が。まぁいい。

 貴様らを殺して、あとでたんまり食べるとしよう」

 神族最強のボス、雷神トールが俺たちを見据えた。


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