※修行のち混浴風呂
首筋を狙った横一線の攻撃を盾で受け止める。
盾を掲げたまま身体を旋回させて、死人憑の騎士ヴァーリの足元を剣でなぐ。
ヴァーリは軽く跳んで地面すれすれの攻撃を避け、力を込めて剣を振り下ろしてきた。
体重を乗せた攻撃を正面から受けるのはきつい。
俺は盾を剣に合わせ、ヴァーリの攻撃が当たった瞬間を見計らって、盾を右下にひく。
ヴァーリの攻撃は、盾に逸らされて地面に突き刺さった。
俺はすかさずヴァーリに蹴りを入れる。
攻撃は盾で防御されたが、体勢を崩すには十分だった。
俺は剣を突き出す。これも盾に防がれる。しかし、ヴァーリの盾は彼の手から離れて転がった。
盾を失ったヴァーリは、背負っていた槍を取出し、剣と一緒に構える。
ワンツ・スリーのステップでヴァーリは跳び上がり、槍の長さを利用して遠くから穂先を突き出した。
俺は盾を使ってその軌道を薙ぎ払い、一歩踏み込んで振り下ろされる剣を剣で受け止める。
一時の停滞が生まれた。
槍の間合いには近すぎる。ヴァーリは剣に体重を乗せて俺を抑え込んできた。
下から守っている俺の方が不利だ。俺は構えたままの盾を突き出して、盾でヴァーリを殴りつける。
攻撃を読んでいたのか、ヴァーリは、盾が当たる寸前に飛びのいた。
離れた位置から俺の心臓に向かって槍を突き刺す。
が、俺はこれを盾を使って上から叩き落とした。
槍の穂先が地面を抉る。俺は槍杆――木の部分を踏みつけて、武器を破壊する。
槍に引っ張られてヴァーリが上体を崩したところへ、首筋を目がけて剣を振り下ろした。
ヴァーリは苦悶の表情を浮かべる。
寸止めをしたので、痛いところなどないはずなのに苦い顔をしていた。
「まさか、こんなに早く負けるなんて、想像もしてませんでしたよ」
剣の先生であるヴァーリは、練習用の剣を足元に落として言った。
どちらの武器も、魔法によって剣先を模倣されているだけであり、突き刺しても大きなダメージを与えることはない。
「いやいや。まだまだだよ。力は俺の方があるはずなのに、テクニックで負けてる」
「ご謙遜を。今の槍破壊などお見事としか言いようがありませんよ。
特に守りが素晴らしいですね。どう攻めようかと、悩んでしまいます」
「ありがとう。痛い思いは、もうこりごりだからね」
俺は肩をすくめて言う。
「ただ、盾の使い方をもう少し変えられるかもしれませんね。
アリカ様は気づいてないようですが、私としてはメタキン盾のついてる4つのナイフ」
ヴァーリが盾の上下左右についているナイフを指で指し示す。
「これが恐ろしくて仕方ありませんね。調度品のように見えて、メタキン製ですからよく切れます。
盾でありながら、武器にもなり得る。これを使いこなされると、さらに手ごわくなります」
「そうか、そういう使い方もあるのか」
俺は盾についている4つのナイフを見つめる。金色の輝く美しい刀身。
そんな調度品が、あらゆるものを切り裂く武器にもなるのだ。
「いっそ、ブーメランみたいに投げてみたりしてな。これ、上手い具合に投げたら戻ってくるのかな」
「あっはっはっはっは。アリカ様は面白いことを考えますね。発想が豊かでいらっしゃる。
こんな危険なものが投擲されるとなると、身震いする思いですよ」
その時、雷鳴の落ちる大きな音が鳴り響いた。
耳がキーンとする。
音のした方に向き直ると、地面が抉れて白煙が立ち昇っていた。
シギュンの雷魔法――エクスライトニングだろう。
「相変わらず凄いな」
「ええ、魔王様の魔力量は飛び抜けていますよ」
周りを見渡すと、岩陰の隅の日陰になっている場所でスカジが座禅を組んで瞑想を続けている。
よくこれだけ剣の打ち鳴らされる音や、先ほどの雷の音を聞いても瞑想を続けられるな、と感心する。
その隣には、程よい大きさの岩を机にして、イズンがナリから座学を受けている。
同じ僧侶同士、色々と学ぶことが多いようだ。
ただ、イズンの表情は優れない。聖職者である彼女は、元人間とはいえ、魔族に落ちた彼らを手放しで受け入れられないのだろう。
ナリは僧侶職だけでなく、魔術師職にも通じているらしく、イズンも攻撃魔法を色々教わっている。けれど、攻撃魔法をどうも毛嫌いしているようだ。
どちらにせよ、イズンは僧侶職であるだけに、回復比べたら白魔法以外の攻撃魔法に有用性があまりなく、使う機会はあまりないと言っていた。
適材適所であるから、いたずらにMPを減らすべきではない。
僧侶は、とにもかくにもパーティーのHP維持を優先するべきだ。
訓練の後は、風呂に入る。
魔王城は衣食住はフル完備。貴族のようなもてなしを受けて、俺は元のサラリーマン生活よりも充実していた。
ロキのおかげで、魔王城は色々と改造されているらしく、元の世界のように便利にできている。
食べ物は美味しいし、お風呂は広いし、ベッドは豪華でふかふか。毎日の着替えだって用意してもらえる。
なのは、いいんだが。
「だ、だから。一緒になんて入らなくて大丈夫だって!!」
「アリカなにいってんの! ここは魔王の城なのよ!!
あたしたちがついてないで、もしものことがあったらどうすんのよ!!」
「そうですよ。いつ魔物たちが牙を向いて襲ってくるか分かりません」
どこに行くにもスカジとイズンが一緒なのだ。ついでに、シギュンも。
今まで一人で入っていたという、シギュンは勝手についてきて「わーい、いっしょだー」と喜んでいる。
床を走り回って、すべって転んで床に頭を叩き付けたり(流石魔王というべきか、それくらいではダメージにならないっぽいが)、テンションが上がり過ぎて湯船で泳いだりしている。
役得感は、もちろんある。けど、童貞の俺には刺激が強すぎる。
せめて、タオルを身体に巻いて隠してくれとお願いするのだが
「なに貴族みたいなこと言ってんの」と一笑される。でも、なんとか説得してタオルだけはつけてもらうことにした。
といって、それはそれでチラりずむが多くて、俺を悩ませる。
正直、転生して子供体系になってくれてよかった。
アレがアレでアレしにくいのだ。しにくいというか、……バレにくいというか。
スカジは体系が幼いけれど、鍛えている為かすごくスレンダーだ。
といって、筋肉トレーニングをするだけじゃなくて、瞑想によりって体内の気を高めるのが主流らしい。
そのため、無駄な贅肉(胸も含む。かわいそうに)がない上に、筋肉質な訳でもない。
腹筋はめちゃくちゃ固いけど。
武闘家として鍛えた身体を触ってほしいらしく、スキンシップが過剰で困る。
「ほらほら、触ってみてよ。毎日どんどん強くなるからさ」
「いや、昨日触ったから良いよ。そうそう変わらないでしょ」
「失礼ね、そんなことないわよ! 今日、気の流れのコツを掴んだの」
しつこいので根負けして、二の腕を触る。二の腕は胸と同じ感触だと聞いたことがある。
柔らかい。けど、残念ながらスカジの胸は平面だった。どっちが表でどっちが裏か分からない。
「イクよー」という声とともに、きゅっと閉まる。
触れていると、どんどん熱を持ち始め、スカジのまるで身体が沸騰しているようだ。
「熱くなってきた」
「でしょ? あたしも結構中々のもんだよね」
「うん、すごいよ」
血液の音まで聞こえてきそうだった。ドクン、ドクン、ドクン。
スカジの身体の温もりが俺にまで伝染したのかもしれない。俺も身体が火照ってくるのを感じた。
「はぁ、はぁ」スカジが喘ぎだした。艶めかしい吐息が俺の耳をくすぐる。
「もう、駄目かも……。もう我慢できない」
「駄目だよ、我慢しなきゃ。興奮して見境なく暴れちゃ駄目だ」
「でも、……駄目だよ、アリカ。もう我慢……、できないよっ……」
「スカジはこらえ性が無さすぎだ。ちゃんと我慢しろよ。そうすれば……」
「もうだめっ!! 我慢できないのっ!!」
スカジはそう叫んだかと思ったら、背中を丸め、身体をぎゅっと縮こまらせた。




