ねんがんの最強装備をてにいれたぞ
「女の子たちに囲まれて、よく眠れたかい?」
朝食をとるために食堂に入ると、昨日の疲れなど見せずに、ロキはそう言って笑いかけてきた。
あの凄惨な状況を経て、どうして笑みを浮かべられるんだろう。
しかし、あの時のロキの怒号や涙が嘘だとは思えない。
わざと明るく振舞って、俺たちを和ませようとしているのかもしれない。
シギュンは俺の膝の上が気に入ったようで、俺の上に乗って足をぶらぶらとさせる。
男の股の間に座って、身体をゆすってアレを刺激するような真似はやめてほしい。
幼児体型のシギュンは、どこもかしこもやわやわで、触れていると気持ちがいい。
断じて、変な意味ではなく。
身体は現金なもので、食べ始めると昨日の疲れと夕食を抜いた分を取り戻すかのように、食欲はエネルギーを求めた。
食べすぎに利くという、薬草入りのお茶を飲みながらロキの話すのに聞き入る。
「アリカくんは、ステータスの上昇率がすばらしいね。
既にいくつかのパラメータはカンストの500だろ? まったく、恐れ入るよ。
でも、今後はそのレベルに見合った経験をつんで行く必要があるな。
僕もそうだったけどね。急激にレベルをあげても、自分で自分の力をうまく制御できないはずだ。
精神の方が力に追いついてないんだな」
「どうすればいい?」
「能力値は十分だからね。多少の訓練の後、実践を積みながら調整していってほしい。
世界の均衡を保つために、各地のボスを説得に行く必要がある。
魔王の座を狙っている奴もいるからね。戦うこともあるかもしれない。
最初はレベルの低いボスから辿っていって、実地で調整をしながら、徐々にレベルの高いボスを攻略していくのがいいんじゃないかな。
魔王さまも一緒に同行してもらうから、なるべく危険のないように、一歩ずつね」
「へへーん。一緒だよー」
シギュンが俺の膝の上から立ち上がって、首に抱きついてきた。
ロキが苦笑いをする。
「これって親心ってやつかな。アリカくんをちょっと張り倒したいよ」
どう反応していいのか分からなかったので、俺は無視して言った。
「最初から行くとなると、巨人族の雑魚からだよね」
「いや、巨人族は結構魔王さまの言うこと聞いてくれるんだよね。
先々代の魔王さまがさ、巨人の血を色濃く継いでいたから」
「じゃ、何から行けばいいんだ?」
「うーん。神族のやつらは強すぎるし、まずは魔物系かなー。
竜のファヴニールあたりとか?」
「ファヴニール? こっちのがレベルがあるとはいえ、強くないか?」
「ハハハ。そんな君にいいものをあげよう。持ってこさせろ」
ロキは肩に乗ったカラスに告げた。カラスは食堂から出て行く。
カラスはすぐに戻ってきて、死人憑の騎士が後に続いて入ってきた。
「昨日1日で魔物たちに作らせたんだ。この剣に見覚えはあるかい?」
言いながら、ロキが俺の席まで歩いてきた。
細長い宝箱をが開くと、中には見覚えのある剣が入っていた。
刃の色が違うが、柄や紋様に覚えがある。
「聖剣グラム……嘘だろ? なんでこんな所にあるんだ」
グラムは、このゲームにおける人間族最強の武器で、ある街でシグルズという人間族の英雄を助けて、譲り受ける必要がある。
「これは、先々代の魔王と戦った"勇者"が使っていたものだ」
ロキが俺の耳元に顔を近づけてくる。
「その"勇者"は、先代の"魔王"でもある。彼が聖剣を扱えなくなったので捨てたんだ」
俺は驚いてロキを見た。ロキは頷く。
「僕は、たくさんの勇者から話を聞いた。
誰も彼もが共通点があるんだ。ここに召還された勇者には2種類しかいない。
ゲームをまだクリアしたことがないヤツか、僕たちと同じ選択肢を選んだヤツ。
最後の魔王になんて答えたか、ってことだ。
これは僕の仮定に過ぎないんだが、この世界は、あの選択肢の後の世界じゃないのか?
言っている意味は、分かるよな?」
ロキが言いたいのは、つまり、俺が魔王と協力した選択肢を選んだ後の世界と言うことだ。
いやでも、スカジとイズンは……と考えて、頭を振った。
NPCは死んだらリポップされるのか。いやいや、彼女らは俺がキャラメイクして、俺が名づけただけだ。
ゲーム側で用意されていたNPCとは違う。
どういうことだ?
「アリカくん、ただの仮定の話だよ。そんなに悩まなくていい」
それもそうだ。ロキが色々なことに詳しいからといって、いつも彼が正しいとは限らない。
「この剣はね。元聖剣グラムだ。たぶん、新しいグラムはもう再生成されていると思う。
僕が見つけた時は、もうぼろぼろに朽ちていたんでね。それをメタキンの金属で叩きなおしたんだ。
それから強化のルーン文字も彫ってあるよ。元竜殺しの剣を最硬度の金属で鍛えなおした。
これほど強い武器はないぜ? 名前は、そうだな……魔剣ドラグスレイブとしておこう。
竜殺しの剣だ。こいつで最初に竜を倒してみるというのも一興だろ?」
「魔剣ドラグスレイブ……」
「盾も作らせてある。こっちは、純粋にメタキンから出来た盾だな。メタキンの盾」
ロキは宝箱から魔剣ドラグスレイブを出して、その下からメタキンの盾を取り出した。
黄金に輝く丸い盾。盾の中央やや上に十字架の模様に溝になっている。
盾を構えた状態でも、そこから向こう側が見える仕組みにしているようだ。
上下左右に十字架を象った小さな剣がしつらえてあった。
「防具も一式あるんだけどね。あんまり全部あげると、僕が君に殺されるかもしれないんで。
他の防具は僕が装備させてもらうよ。最強の剣と盾さえあれば、なんとかなるだろ?」
ロキはおどけて俺の肩を叩いた。
「そんな、とんでもないよ。この2つだけで、一気にパワーアップだ」
なにせ、ついこの前までLv11で銅の剣と皮の盾を装備していたのだ。
それが今や、Lv202で魔剣ドラグスレイブとメタキンの盾。眩暈がする思いだ。
「彼らの犠牲を無駄にしないでほしい。君は彼らを倒す時に涙を流してくれた。
僕からあれこれと強制するつもりはないし、必要もないだろう。
君のその力と装備で、君の想う世界を守ってくれ」
見上げると、既にロキは俺に背を向けていた。彼の声は、涙が滲んでいた。
スカジとイズンの武器、それから僕らパーティー全員分の防具は、ロキが元々冒険していた時のおさがりを貰った。
武器防具マニアだという彼は、自分のパーティーが装備できない代物まで買っていたらしい。
俺たちのパーティーの装備はレベルと同じように一気に底上げされた。
すぐに冒険に出発するのかと思ったら、数日は座学と訓練をするようにと言うことだ。
俺たちは急激にレベルがあがったことにより、様々な魔法や特技を覚えたが、使い方を分かっていない。
魔法については詠唱も覚えないといけないから、使う資格があっても活用できなければ意味がないのだ。
ロキに座学を教わったり、ロキの仲間である死人憑の騎士であるヴァーリと死人憑の魔術士であるナリに色々と訓練をしてもらった。
彼らのレベルは180程度(死人憑はレベルが上がらなくなるらしい)なので、もう俺たちのほうがレベルが高い。
けれど、チートでレベルを上げた俺たちと違い、着実に経験を積んだ彼らの技や魔法、戦い方は地に足がついていた。
とはいえ、俺たちのパーティーも日に日に強くなった。
まだ荒はいくらでもあったが、自分の技や魔法、身体の動かし方が段々と分かりつつあった。




