チートレベル上げ
「ふざけたことを言わないでください!!
なぜ勇者のアリカさんが魔王と血の誓いなど!!」
イズンが叫んだ。
「あれ、良い案じゃないかな? 口約束で片付けるなど、僕としては論外だ。
僕が守っているのは、魔族の王だからね。さすがにそんな呆けた提案はできない。
血の誓いをすれば、魔王さまは君たちには傷つけられなくなる。
魔王さまが同意しなければ解けないから、まぁ、安全と言えるだろう。
考えてもみてくれよ。
血の誓いをすれば、君たちが魔王さまに傷つけられることもなくなるんだぜ?
アリカくん、君のレベルはいくつだっけ、11!? そんな低いのか!?
まぁいい。レベル11の人間とレベル135の魔王。
言いたいことの意味は分かるよな? 君たちにとってもいい提案と言えないか?」
確かに、いくら逆立ちしても今の状態で魔王(幼♀)に勝てっこない。
魔王からすれば、俺たちを殺すなんて赤子の手をひねるより簡単だろう。
血の誓いをすることによる不利な点はまるで見当たらない。
俺は魔王(幼♀)を見る。魔王(幼♀)は、俺を見るとにっこりと微笑んだ。
「わたしねー、アリカと一緒に冒険したいんだー」
「あ、そうか、そうでしたね。
魔王さまをね。冒険に連れていって欲しいんですよ」
「ロキがねー、アリカと一緒なら冒険していいんだってー」
「アリカさん、ダメですよ」
イズンはあくまでも、魔族の提案は反対するつもりらしい。
僧侶である聖職者としてのとしての立場がそうさせるのだろうか。
俺はスカジを見た。
「あたしは、命がけであたしのことを守ってくれたアリカについていく。
どうなってもいいよ」
「血の誓いをすれば、俺たちの安全は保障してくれるんだよな?」
「しなくても保障はするけど。すれば、君たちは自由になれる。
魔王さまをお預けするんだ。君たちは正式にお客様として迎えるよ」
「分かった。魔王と血の誓いをしよう」
どうして……、とイズンが俺を抱く力が弱くなった。
でも、俺には他に選択肢が見えなかった。
ここは魔王城。俺たちは五体を縛られて、牢屋にぶち込まれている。
彼らが俺たちを殺すつもりなら、とっくにそうしているだろう。
彼らなりのメリットはあるだろうけど、俺たちは彼らの考えにすがるしかない。
相手の機嫌を損ねない内に同意しておいたほうがいい。
「では、儀式を始めよう」
それから、とロキは楽しそうに続けた。
「君たちには、もっと強くなってもらわなきゃならない」
***
「あれ、シギュンはロキと結婚してるんじゃないのか?」
再度アナライズをして気づいた。魔王(幼♀)ことシギュンは、俺の嫁となったが、ロキの嫁ではなかった。
ちなみに、俺の称号は【裏切りの勇者】に変わった。
「んゆ?」とか言って、首を傾げるシギュン。
ははは、と笑ったロキがこちらに振り向いて口を開いた。
「確かに神話ではシギュンとロキは夫婦だね。
でも、僕のロキって名前は仮でつけてるだけなんだ。
魔族に加担している手前、本当の名前が知られると、何かと厄介だからね」
「もー、ロキは難しい話ばっかりでつまんない。いこ? アリカー」
シギュンが俺の腕を掴んだ。
スカジが反射的に、シギュンの腕を掴んで睨み付ける。
シギュンは「?」と首を傾げた。
「スカジ、血の誓いもあるし大丈夫だから。
あんまり過剰に反応しないようにしよう」
俺の言葉にスカジは、不安そうな顔をしながら手を離した。
血の誓いで、シギュンからの俺たちへの攻撃は無効になる。
とはいえ、俺たちを殺すことのできる魔物なんて、この城には腐るほどいるだろう。なんせ、ここはゲームで言えば最終ダンジョンなのだ。
俺たちは駆け出しのパーティー。この城には200レベル以上の魔物がうようよいる。
差は歴然だ。
2人の仲間は、魔王であるシギュンの動きに過敏に反応し、俺を守るようにして歩く。
こちらの猜疑心や不安を理解しているのか、ロキは少し離れて前を先行してくれている。
楽しそうにこの世界の情報を惜しげもなく教えてくれる姿に敵意は感じられない。
こんな出会いじゃなかったら、『円環の最終戦争』というこのゲームと世界について、いちゲーマーとして、楽しく語り合えたかもしれない。
連れていかれた先は、食堂だった。
シギュンは、一つだけ特別豪奢になっている上座の椅子に座ったが、
「あ、わたしもう食べたんだったー」と言って、移動してきて俺の膝の上に乗った。
スカジ、イズンの緊張の面持ちを気にもせず、シギュンは「んーんー」と鼻歌を歌いながら、小さい足をぶらぶら揺らしている。
仲間たちが睨み付けても我関せずと、睨まれていることに気付いてもいない風勢だ。
これが魔王の品格ってやつなのか?
座って待っていると、食事が運ばれてきた。
力の付くものをと出された食事を食べると、メッセージウィンドウが出る。
『【アリカ】の力が5あがった』
「力が大体75くらいまであがるように君の食事には力の種をいれたんだ。
貴重なアイテムだから、残さず食べてくれよ」
びっくりしてロキを見た俺に、彼はそう言って笑いかけた。
食べるたびにウィンドウがちらついて面倒だったが、気にせず食べた。
食べ終わる頃には、俺の力は111もあがった。
「うそだろ!? これも才能なのか? 種は25個しか入れてないぞ?」
力の種のパラメータ上昇率は1-5のランダム。いい上昇値を引きまくったらしい。
111÷25=4.44
頭の中で計算してみたら、改めて計算してみたらロキが驚くのがよく分かった。確率が偏り過ぎている。
「いやー、運も味方につけてるのか……。持ってる者ってのはいるんだね。
まぁ、素直に喜んでおこう。
次は、レベル上げだ。君たちを一気に底上げする」
連れて行かれた先は、魔王城の外だった。
魔物が何百体も列をなして並んでいる。金色に輝くスライム、ゴールドメタルスライムだ。
「おい、レベルの底上げって」俺は驚いてつぶやく。
「そうだ。メタキン狩りだよ。
彼ら1匹で、何百もの魔物の犠牲を減らせる」
シルバーメタル(シルメタ)、ゴールドメタル(金メタ)、ゴールドメタルキング(メタキン)は、非常に素早く防御力が高い。
非常に臆病ですぐ逃げてしまうので、倒すのが難しいが、膨大な量の経験値を持っている。
『円環の最終戦争』では、ゲーム内の最大レベルが高く、レベルが重要なので、ゲームを攻略する上で誰でもメタキン狩りを一度くらいは経験する。
ロキが1歩前に出て、ゴールドメタルたちに告げる。
「君たちの犠牲が、我が魔族、ひいては魔王さまの未来を磐石にする礎となる。
勇気ある諸君に我々魔族を代表して、敬意を表する」
ロキは深く頭を下げた。
ゴールドメタルが互いに折り重なった。十数対集まるごとに、その姿を変えて、1匹のゴールドメタルキングに進化していく。
メタキンの列の間を、シギュンが歩き、1匹1匹の身体を撫であげる。
「ふがいない予のための犠牲、予は無駄にはせぬ。
そなたたちの働きは、9つの世界の均衡に役立てることを予はここに誓う。
ゴールドメタルキングよ、そなたたちもスライム族の王であろう。
種族の王たる意地を見せよ。そなたたちの勇気が予の力に変わるのだ」
先ほどまでのロリペド然とした態度とは違い、シギュンは一国の王たる威厳を感じさせた。
「トールの鎚を持ってこい」
ロキが叫ぶと、3mはありそうな巨人族のオーク(姿形は人間に似ているが、人の2倍ほどの巨躯を持ち、怪力で肌が緑色)の4匹が、俺の背丈くらいありそうなハンマーを携えてやってきた。
4匹がそうっと手を離すと、ドォォンと大きな音がなり、ハンマーが地面を抉った。
小さい地震が起こったかのように、地面が揺れる。
「当たりさえすれば相手の防御力を無視して、必ずクリティカルになる神族の武器だ。
これを使って、彼らを倒して経験値を得てもらう」
「こんなの持てるのか?」オークが4人がかりで持つようなものを?
「最低でも力が50必要だ。じゃないと持ち上げることすらできない。
アリカくんは今100越えしてるから問題ないよ。ただ、仲間と一緒に3人で持ち上げてくれ。
攻撃に参加するのとしないのとじゃ、経験値が桁違いだ。
せっかくの犠牲が勿体無いんでね。みんなでレベルを上げてってほしい」
「それじゃぁ、シギュンも参加したほうがいいんじゃないの?」
「魔王さまは魔族の王だからね。
魔族をいくら殺しても、経験値にはならない」
俺は自分の背丈ほどもあるハンマーの横に立った。
「下敷きにならないように注意してくれ。今の君たちじゃ、即死だよ。
まぁ死なないようにはするけれど」
ロキが傍らにいた、死人憑の僧侶の肩を叩いた。
「生の脈動よ、汝らの鼓動を守り、命を繋ぎとめよ。エクスプロテクト」
俺、スカジ、イズンに順番に加護をかける。
エクスプロテクトは、一撃死を一度だけ防ぐ魔法だ。
「もしかして、あの時、俺たちが戦ってた時も?」
「ああ、そうだよ。死なれちゃ困るからね。
それにしても君たち凄いね。彼ら2人はレベルが180近くなんだ。
手加減していたとはいえ、まさか騎士が痛手を負うなんて信じられないよ」
やっぱり、逃げることこそがあの時の最善の策だったのか。
いや、もう今更考えても仕方がない。
俺は、今自分にできることをやって、仲間を守るしかない。
あの時のように、パーティーを全滅させてはいけない。
俺はもっと強くなる必要がある。




