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最終決戦 VS魔王

 魔王が両手をかざすと、右手から炎が、左手から氷がほとばしった。

「散れ!」

 俺はすかさず命令を出す。

 パーティが方々に駆け出して、攻撃魔法を避ける。

 炎が俺のすぐ横をかすめた。余熱で多少のダメージを受ける。


 俺たち4人―俺(♂)、武闘家(♀)、僧侶(♀)、魔法使い(♀)―は、魔王を四方から取り囲むように陣形を取った。

 防御が疎かになるが、標的がばらけて魔王としても相手をしづらいだろう。

 魔王は俺の方に向き直る。後衛にあたる僧侶、魔法使いを狙いうちされなくてよかった。

 左右には魔法使いと僧侶、魔王を挟んだ対面には武闘家が位置する。


 魔族である魔王は、姿形自体は俺たち人間族とさほど変わりはない。

 しかし、精霊族(エルフ)のように耳は鋭利に尖り、五感や身体能力が高く、身体は巨人族のように人間族と比べて2倍もの巨躯を誇る。

 身体もまるで鋼鉄のように硬く、少しの攻撃ではビクともしない。

 まとった闇のマントは、並みの魔法をはねつけ、ダメージを防ぐ。


 俺たちも魔王も視線を周囲に這わせながら、機会を窺う。

 俺は構えた剣をわざと地面に打ち付けて音を鳴らす。

 カツンッ。


 乾いた音が鳴り響き、周囲を警戒していた魔王が俺の方に注意を向ける。

 瞬間、武闘家が動いた。

 「螺旋(らせん)波動(はどう)(しょう)

 武闘家の両の手のひらから、"気"をまとった衝撃波がほとばしる。

 背後からの攻撃に魔王は押し出されるように、上体をつんのめらせた。


 俺は正面から剣を構えて魔王に突っ込む。

 魔法使いが上級火魔法――エクスフレイムを詠唱し終えたらしい。巨大な炎の玉が魔王に飛び掛り、まとったマントごと腕が燃えあがった。

 ダメージを受けてよろめいている隙を俺は見逃さない。

 俺は飛び上がり、聖剣グラムを大きく振りかぶって叩きつける。


 グググッと、魔王は苦痛にあえいだ。

 左肩から入り込んだ剣は、しかし、心臓には届かない。

 肩口を蹴って後方へ飛ぶ。

 魔王が右腕をなぎ、鋭い爪がすぐ眼前を横切った。魔王はそのまま右腕を左肩口にあてる。

 「エクスヒール」地面から這うような重低音で詠唱すると、裂けた傷口がみるみるうちに回復していく。


 ……なんて回復力だ。


 すでに俺たちが与えたダメージ量は大きい。

 体内にダメージが蓄積しているはずだ。

 しかし、……魔王の外見からはそれを伺い知ることができない。

 痛みを与えても、魔王の力を弱めることにはならないようだ。


 突然、右手方向がまばやく光る。

 僧侶が詠唱を終え、上級白魔法――エクスホーリーを放った。

 魔王は目を見開き、魔法を受け止めるために闇のマントを掲げる。

 炎に焼けるようにマントから白煙が舞って消滅していき、エクスホーリーが魔王本体をも襲う。


 グアアァッと苦しみの声をあげる魔王の隙を、俺たちは見逃さない。

 魔法使いが放ったエクスフロストにより、魔王の右腕一部が凍った。

「秘奥義、双撃(そうげき)竜討(りゅうとう)(きゃく)

 間髪おかずに武闘家の近接技が決まり、右腕の凍った部分から割れ目が走り、魔王は右腕を失う。

 再生の時間は与えないッ!


 苦し紛れに放った魔王の横に凪ぐ左腕をかがんでよけ、突撃のスピードをさらに上げて、俺は魔王に肉薄する。

「魔族殺しの剣よ、我に力を与え、その使命を果たしたまえ。

 神々の父オーディンの不敵の剣よ、竜をも刺し貫く力を我に与えよ」

 剣の力を引き出すための魔法を唱えると、装備している聖剣グラムの刀身が青く光り輝く。


 視界の右下に黒い"ウィンドウ"がポン、と浮かびあがる。

 『【聖剣グラム】が最大強化されました。一定時間で効力が消えます』


「これで終わりだ」

 がら空きになった左胸に向けて跳び、魔王の心臓に聖剣を突き立てる。

 聖剣は硬い装甲を切り裂いていく。

 剣は半ばで止まった。

 引き抜いている猶予はない。剣を離して跳び退る。


 魔王は追撃をしてこない。時間が止まったような錯覚を受ける。

 硬直した魔王に視線をあわせながら、俺は背中の鞘に収めていた魔剣レーヴァティンを装備する。

 どうなった? 心臓まで届いていてくれ……。


 アグガッガアガガッ、声にならない呻きを吐いて、魔王が膝をついた。その衝撃で地面に亀裂が走る。

 魔王は手をついて身体を支えることもかなわず、地面に倒れこんだ。

 胸にささった剣が、魔王自身の体重によって、貫通する。剣の切っ先が魔王の背中から顔を見せた。

 魔王は乾いた断末魔の叫びをあげる。


「倒した、のか?」

 倒れこんだ魔王に注意を払いながら、3人の仲間が傍に集まってくる。

 魔王にはもはや生気が感じられない。生きているのなら、こんな無防備な姿を晒していることもないだろう。


「ニンゲンドモヨ」

 魔王の言葉に、俺たちはそれぞれの武器を一瞬で構えた。


「オマエラの人間族の勝利だ。我にはもう抵抗する力が残っていない。

 しかし、我とて命は惜しい、勇者アリカよ、我と取引をせぬか?」


「なにをふざけたことを!

 あたしたちを愚弄するつもりか、魔の王よ!!」

 武闘家がとっさに叫ぶ。

 顔を真っ赤に高揚させ、今にも飛び掛らん勢いだ。

「落ち着け、俺たちを惑わすための罠かもしれない」


「人間族の王として相応しい勇者よ、貴様の望みはなんだ。

 お前はただの冒険者に過ぎない。王として相応しいのは我をここまで追い詰めた勇者のお前だ。だが、王家は貴様に王位を与えてはくれぬだろう。

 我と取引をせぬか」

「回りくどいな。何を言いたい。はっきり言え!」


「アリカさん、魔の王と口を聞いてはなりません!」

「アリカ! これは罠よ。早くその魔剣でとどめをさしなさい!」

 僧侶と魔法使いが俺をいさめる。


「我の命を見逃せば、魔界の半分を貴様にやろう。我らで手を組めば、この世界を掌握することも容易い。

 世界を手中に収め、魔界のみならず9つの世界の半分をも貴様に与えよう」

「貴様! 言うにことかいて、ふざけた甘言を!!

 あたしたちの名誉を傷つけるのが目的か! 命乞いとは見苦しいぞ」

 武闘家が魔王の言葉に喰ってかかる。


「勇者アリカよ、よく考えよ。

 貴様が国へ帰っても得られるものは、ただの賞賛のみ。

 世界を得るわけではない。やがて、王は英雄のオマエを疎ましく思うだろう。

 民衆の支配をする王にとって、貴様のような英雄は邪魔になるのだ。

 ククク、我のようにな」


 言ったと同時に、魔王の巨体が見る見るうちに小さくなり、

 俺と……人間族と同じくらいの大きさにまで縮小した。

 胸には俺が突き刺した剣がささったままだ。


「どういうことなんだ?」

 3人の仲間が口々に「魔王の言葉を聞いてはいけない」と騒ぐ。

 しかし、俺はこの死に瀕している魔王の言葉に引き込まれていた。


「およそ100年前、我は勇者として当時の魔王を討った。

 我は名声と少しばかりの富を手に入れた。民衆は我をあがめた。

 しかし、王はいつしか我を疎ましく思いはじめ、言われなき罪で我は捕らえられ島流しにされた。

 利用価値がなくなったら、英雄とは国王の栄光を脅かすだけの存在でしかなくなってしまうのだ」


「そんなことがあったなんて、聞いてないぞ」

 俺は仲間の3人に目をやる。3人ともが俺から視線をそらした。

 どうやら魔王の言っていることは本当らしい。


「国王は富と権力を維持することしか考えていないのだ。

 オマエは旅立ちの日に何を受け取った? 十分な富と装備を受けたか?

 オマエの他にも幾人もの勇者がおったはずだ。多くの勇者は、はした金でおだてられて死ぬ。

 次にオマエを待っているのは、名声か? 富か? それとも、我と同じように」


「黙りなさい! アリカさん、先王は乱心されておられたのです。

 現王は、そのようなことはなさいません。

 ……たとえ、そのようなことが現実に起ころうとも、私たち3人が生涯をかけてお守りします」

 3人が頷きあい、俺の肩や腕に触れてきた。


「勇者よ、選ぶのはオマエだ。よく考え、己が意思で選ぶのだ」


■選択してください

 魔王を倒す

 世界の半分をもらう


(なんだこれ、どういうことだ?

 ちょっと気になるから、選んでみよう)


→世界の半分をもらう


「アリカ!! どうして!!」

 俺の従者である3人の乙女が叫んだ。


 グフフフ、と魔王は底冷えするような笑い声をあげた。


「言ってしまったな? 勇者よ、人間の子よ。

 その言葉をもう違えぬぞ。貴様が我の後を継ぐのだ。

 我と同じ苦しみを受け継いでいくのだぞ。勇者よ」



***



『その後、勇者の姿を見たものはいなかった』

『BAD END』


 テレレレレレレーン。もの悲しい音が流れて、

 モニター画面に真っ黒になり、真ん中に白文字でそう書かれていた。

 コントローラーのボタンを連打する。

 『円環の最終戦争(ラグナロク)』ゲームはタイトル画面を表示した。


 は? うそだろ?


「なんだよ、このクソゲー!!」

 俺は怒りにまかせて、コントローラーを投げつけた。


 時計を見ると、ラスボス戦が始まってから1時間も経過している。

「おいおい。HPが無駄に高いだけのラスボスをやっと倒したと思ったら、

 この仕打ちかよ。セーブしたのも、かなり前だしクソ過ぎ。

 もう1回やり直すなんて、やってられるかよ。ふざけんな」


 こういう選択肢は、仲間が「考え直してください、勇者さま!」とかいって、魔王が「もう一度聞くぞ、勇者よ」みたいに選択肢を無限ループさせるって相場が決まってる。

 ちょっと好奇心で間違った選択肢を選んだら、強制的にゲームオーバーなんてゲームのプレイヤーをなめ過ぎだ。


「大体、北欧神話を基にしてるっていうから、やってみたのに。

 なんだよ、このゲーム。最後のボス、こいつ誰なんだよ。

 精霊エルフで巨人で元人間? 誰をモチーフにしてんのさ」


 あー、せっかくの祝日を無駄にした。俺の20数時間を返してほしい。

 ゲームの自体は面白かったけど、最後が納得いかなすぎる。

 せっかくエンディング近くまでいったのに、ふざけた選択肢のせいでやる気がもうおきない。

 ゲームだけが生きがいで、日々の仕事のストレスを解消してるってのになんだよ、この仕打ち。


「くっだらねぇ。寝よ寝よ」


 部屋の電気を消して、俺はベッドにもぐりこむ。

 あー、いらいらする。怒りでもんもんとする思考で、俺はぜんぜん眠れなかった。

 羊でも数えるように、今日1日でほぼクリアまでやったゲームの内容を思い出しながら、俺は睡魔が襲ってくるのを待った。



***



 ちゅっ。

 ぼーっとする頭でも、その小さな音が確かに聞こえた。

 誰かが眠っている俺の顔を覆うように俯いている。

 眠気に負けそうになる目をゆっくりと開くと、目の前にきれいな女の子の顔があった。


 というか、女の子が俺にキスをしていた!


 柔らかな唇の感触が伝わる。静かな鼻息がこそばゆい。

 目はつむっているが、表情はひたすらに優しい。

 いいにおいがする。

 女の子の垂れ下がった銀色の長い髪が、俺の頬をくすぐってくる。


 突然、頬を触れられて、俺はびくつく。

 キスの相手が上体を起こしたので、手をついて後ずさりする。

 俺はベッドの上に寝かされていた。


「目覚めたのですね。私の運命の英雄、アリカ。

 私の呼びかけに応えて、転生してくださって、ありがとうございます」

 幾重にも布を重ねたような、ゆったりとした清楚な衣服を身にまとった女の子が、にっこりと微笑む。

 俺の首に手を回し、ぎゅっと抱きしめてきた。


「私の運命の人。私が生涯貴方にお仕えして、

 貴方に勝利をもたらすことを約束しましょう」


 なんか言ってるが、俺はそれどころじゃない。

 胸が! 大きな胸が! や、やわらかい。なんか、良い匂いがする!!

 擬音にするなら、 ふにゅん といった感じ。

 確かな弾力を感じながらもひたすらにやわい。やわわい。やわわわい。

 しししし刺激が強すぎる! でも、天国だ!!!!


 俺は童貞だった。

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