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大災害当日

≪ノウアスフィアの開墾≫についての情報は日毎に集まってきた。

・レベル上限の解放

・全地域の高難易度ダンジョン及びレイドクエストの解放

・新エリアの解放

・継続キャンペーン及び初心者救済アイテムの配布

これらが事前に集めた情報であった。どれも魅力的な内容であり、プレイヤーの心をより一層踊らせた。それはゲームの中だけの話ではない。ゲーム雑誌だけでなく週刊誌でも情報をとりあげ、ニュースサイトはアップデートの内容を即日更新をした。そのため多くの人々の目に触れ、未だログインし続けるユーザーはより時間を割き、しばらく離れていた人々は関心を寄せ、これからエルダーテイルを始めようとする若い世代を虜にした。 



一種の社会現象となった〈エルダー・テイル〉

≪大災害≫まで残り、15分





(…今日やることは、全て終わらせた。このため日のために、一日ログインせずに準備した。)

いつも通りのラフな格好、ペットボトルの水。掃除した机にホコリを取ったPC。清めた体に適度な空調。彼女が「篝火」としてエルダーテイルを旅するまであと僅かである。昨日の会話で、篝火とスサノヲ、夕顔と宿木は新たなダンジョンに潜る計画を立てていた。まずログインしたらチャットで呼びかけて、それから家に集合して…。そう考えながらPCを起動し、エルダーテイルをアップデートし、インストールを待っていた。

これから変わる、エルダーテイルの世界。これによって現実世界にも大きな影響を及ぼすと話題になっている。どこかの大学の教授だかが言うには、ゲームにのめり込む人々が増え現実と混同する事態が増える、と。夕方や晩の情報番組はどこもかしこも社会現象として取り上げている。識者や教授といった「エルダー・テイル」をやったことのない人々が口々に訴えてるのを聞いた。

バカバカしいな、と篝火は感じた。ゲームはゲーム、現実は現実。全く別の世界をどうして無理やり繋げようとしているのか、と。現実問題、ゲームに没頭するあまり普通の生活を送ることができなくなった人もいるが、それは少数である。

(でも…。師匠はちょっと危ないのかな…。私より長くやってるし、プレイ時間は多いしな…)

ポーン、とPCがインストール完了を知らせた。そのまま彼女は慣れた手つきでログイン作業を始める。もうすでに頭は新しい冒険の様子を想像して、いっぱいであった。荘厳なOP映像に変わりがないことを確認し、サブキャラクターを含め全キャラの細部を確認し、[篝火 エルフ 吟遊詩人 女 配達屋]のキャラクターを選択した。

一回、大きく深呼吸し、愛用のヘッドセットを手に取る。PC画面はデータのロードを行っている。

「さぁ、今日もがんば‐‐‐‐‐











『ようこそ、エルダーテイルへ』











‐‐‐‐‐どっと喧騒が届いた。音声チャットは、グループのままだったはずで、周りの声は小さく聞こえる程度だったはず。

目がなかなか開けられずボリュームを調整できないのが分かると、ヘッドセットを一旦外そうと考えた。しかし、頭の脇を手が空振る。異変を感じ、痛む頭を押さえて目を開けるとそこは、

「どこ…ここ…」

見慣れた噴水広場、NPCの経営する屋台、鎧姿のキャラクター達。そして、土と草の匂い。見慣れたアキバの街。そして初めて感じる、この街の空気。周りの人々も動揺し、泣き叫んでいるのだとおぼろげながら理解した。

「おい、何だよこれ!」

「一体どうなってるのよ!」

「管理者出てこいや!どうにかしやがれ!」

「うっ……ううぅ……。どうして…」

騒ぎ立てる人々を見て、逆に冷静になることができた。しかし頭痛は依然として収まらず、考えが纏まらない…。

「ここは…アキバの街…だよね」

口に出してみても、そのまま虚空に消えてしまいそうな推測だった。あれほどあり得ないと思っていた、「ゲームと現実世界の混同」が、今目の前で起こっている。

呆然としつつ見回すと、周りの人々が虚空に指を掲げ、何かを動かしているように見える。ログアウトできねぇ!と男が叫んでいるのを見るとシステムメニューが開けるのかと推測した篝火は、メニューを開こうと頭を持ち上げた。開く、と頭で考えると見慣れたメニュー画面が現れた。否応でもゲームと現実とを織り交ぜてくる事に、篝火は顔をしかめつつ、ログアウトの表示を探す。しかし、その指は表示を叩いても一切反応しなかった。

そうして一気に、絶望感に襲われてしまう。家に帰ることもできない、家族とも会えない、大学の友人とも。

「これ、何の冗談…?だって昨日まで師匠達と…普通に冒険してたのに…」

次々と現状を理解させられ、周囲の罵声も聞こえなくなる。心が冷める。手足が固まる。息が出来なくなる。それでも心臓は早鐘を打ち、嫌でもお前は生きているんだと、心を抉りとってくる。

「…助けてよ…」


日本人だけでも3万人、全世界で100万人の〈冒険者〉が、ここエルダーテイルの世界に迷いこんだ。

20年続く老舗MMORPG、〈エルダーテイル〉は、第三の森羅変転ワールド・フラクションを迎える。


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