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冥王を拾いました!  作者: 吟
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冥王の臣下

「ただいまー」


 レギウスを連れて我が家に帰ってきた私は、リビングに買い物籠を置いてすぐにレギウスの欲しい物を思い出した。


「あー!そういえばレギウスの本を買いにいくの忘れてたー!!」


 私の叫び声を廊下で聞いていたレギウスは、ハァーと溜め息を吐いてリビングに入ってきた。


「それなら、もう解決している」

「へ?」


 レギウスは私の持っていた買い物籠からゴソゴソと何かを取り出した。


「それって……!」

「そう、魔物図鑑だ」


 ニヤリと口角を曲げたレギウスは、その分厚い本をペラペラと捲りだした。


「ちょ……ちょっと待ってよ!なんで?いつの間に籠に……!?」

「俺が雑貨屋で見つけたのだ。どす黒いオーラを放ち、まるで俺の手の中にありたいかのように誘っていたぞ?」

「なんで教えてくれなかったのよ!てか、買った記憶ないわよ!?」

「これには値札というものは張られていなかった。つまり『タダ』という意味なのだろう?」


 自信満々にレギウスは言うが、これは間違いなく窃盗だ……


「ど……どうすんのよ?私が盗んだと思われるじゃないの!」


 私は震える声で言った。レギウスは私の方にチラッと視線を向け、また本の方に視線を落として言う。


「……安心しろ、これは人間が持てる品物ではない。何者かが計ってそこに置いたのだろうが……」


 レギウスは目を細め、本の内容を全て確認していく。


「……ほう」

「……?」


 レギウスの目は鋭く細められ、憎しみの闇のような色を宿していた。まるで冥王の頃に戻ったかのように……


「レギ……ウ……ス……?」

「……はっ」


 吐き出すように言うと、レギウスは本を片手で後ろに放り投げた。


「勝手なマネをしてくれる……」

「え……?」


 レギウスは立ち上がると、私に向かって言う。


「俺は少し出かけてくる。明日の貴様は仕事であろう、先に休んでいるがいい」

「え……ちょっ!?」


 私の返事を待つことなく、レギウスは暗くなった夜の街を飛んで行った。


「……なによ……魔力、残ってんじゃん」


 どこからともなくする胸騒ぎを抑えつつ、私は籠の野菜を手に取った。


――レギウスは点々と灯る街の明かりの上を勢いよく飛びながら、ついさっき読んだ本の内容を思い出す。


『――新たに誕生した冥王アルダンテに忠誠を誓いし魔族は、我ら侵攻軍と共に戦うべし』

『我らが冥王に大いなる祝福を!』


「アルダンテだと……?あれが冥王だと……!?」


 本を燃やしてしまおうかと思うほどの怒りを身に留めながら、急ぎ冥界を目指す――


 ――冥界に辿り着いた時、レギウスは自身の目を疑った。もはや自分の知っている冥王の城の姿はなく、その面影も残ってはいなかった。


「なんだ……あれは」


 城は、あちらこちらに大量の弱そうな魔族が守備を張り、少なくともレギウスが守ってきた威厳のある魔物の姿は一匹として残ってはいなかった。


「貴様、何者だ!」


 気がつくとレギウスの目の前に小さな魔族が二匹、槍を持って近づいてきた。


「うん……?こやつどこかで……」

「とにかく冥王様に報告だ!こやつを連れて行くぞ!」

「おっおう!」

(下っ端か……丁度良い)


 一匹がレギウスの両腕に縄を縛り付けると、もう一匹が魔法陣でワープさせた。

 そして目の前には、自分のよく知る人物がいた。


「これはこれは……レギウスじゃないか。なんだその格好は、人間のつもりか?」

「アルダンテ……」


 愚かに変わり果てたアルダンテを見て、レギウスは歯を食いしばった。そして腕に縛り付けられた縄を小さな青い炎で燃やして解いた。


「なんと!縄が……」

「レギウスには効かんよ、そんな物」


 アルダンテは薄笑いを浮かべて言った。レギウスは目を細めて冷静に言う。


「何故お前が玉座に納まっている……そこは冥王レギウスの椅子だぞ」

「臆病者のレギウスには大き過ぎる椅子だろう?代わりに俺が居座ってやっているんだ。そして今度は、俺が人間界を支配する」


 レギウスは拳を強く握り締め、大声で叫んだ。


「これは皆が認めなければならぬ事実だ!今更城を数で固めたとて、勇者に敗北することはもう目に見えているはず……何故そこまで悪足掻きをする必要がある!」


 レギウスの言葉を聞いて、アルダンテは立ち上がり、見下した目で答える。


「レギウス、貴様は変わった。本当に臆病者だったのだな」

「わからないのかアルダンテ!二度失った命は元には戻らないのだ!今度こそ消されるのだぞ!!」


 レギウスはアルダンテを失いたくはなかった。いつも身近に控え、魔族を束ねるのに優れた臣下だったからだ。


「アルダンテ、思い出せ……お前は俺の――」

「俺は冥王アルダンテだ!気安くお前呼ばわりできる身分ではないだろう!」


 アルダンテはレギウスの言葉など耳に入っていないかのように言った。


「貴様はたかが人間に敗れた、云わば敗者なのだよ」

「それはお前もであろう!ここにいる者や、既に消え去った同士も、皆がたかが人間に負けたのだ!敗北を認めていないのは貴様の方だろうが!」

「俺は生まれ変わった。次こそは敗者などにはならんよ」

「生まれ……変わっただと!?」


 その言葉で、レギウスは嫌な予感がした。


「そう……転生したのだよ」


 アルダンテはレギウスに片手を向けると、負に満ちた波動を放った。


「くっ……!!」


 負の波動を真正面から受けたレギウスは、右腕を盾にした。軋む痛みに耐え、そこから負の感情を読み取った。


『――レギウ……助け……わたしは……――』


 頭の中で唐突に流れ出した映像は、悲痛に苦しむアルダンテの姿だった。


(これは――)


 ――レギウスは納得した。アルダンテは自分で負に墜ちたわけではないのだと。


「アルダンテ……すまない」

(今のアルダンテは、【アルダンテ】ではない。転生し、他者が乗り移った姿……)

「今の俺には、お前を救う手立てを持ち合わせてなど……いない」


 自分の無力さを実感したレギウスは、負の波動によって舞う黒い霧の中で忽然と姿を消した。


「あやつ、死んだか?」


 霧が晴れ、アルダンテの下っ端は笑いながら言った。だがアルダンテはつまらなさそうに言う。


「いや……逃げたな」


 ――レギウスは波動で負った右腕を庇いながら、エリアスの家へ向かう。


「しくじった……だが真実を知ることができたか」


 レギウスは、臣下を巻き込んだ自責の念が渦巻く中、次の行動に移すための策を考える。

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