冥王の一面
「ふあー、よく寝た」
一夜明け、新しい休日の朝を迎える。ようやくレギウスが家にいる生活にも慣れてきた……来てからまだ三日しか経ってないけど。
「あれ?そういえば私、床で寝てたと思うんだけど」
いつの間にか自分のベッドで起き上がっていたことに気づいた。
「俺が運んでやったんだ、感謝しろ」
不意にドアが開き、レギウスが入ってきた。
「またロックもせず堂々と……って、えぇっ!?」
「相変わらず朝っぱらから煩い奴だな。静かに起きることはできんのか?」
「あんたが来てからこんな騒がしくなっちゃったのよ!」
ため息を吐きながらベッドから降りる。レギウスは踵を返して部屋を出た。
(重くなかったのかしら……)
自分の体重を心配しつつ、レギウスの離れていく後ろ姿をチラリと見て、ほんの少しの感謝の気持ちを持った。
休日だからと、一日中家でゴロゴロしているわけにも行かない。私は着替えてからレギウスのいるリビングに行き、机に座っては図書館からパクってきた余りの紙にメモしていく。
「ハチミツにー、リンゴでしょー……鉛筆も足りなかったかなー」
すると横からレギウスが顔を覗き込み、メモを見て聞いてきた。
「なにをしている」
「買い物に行くから必要なものを書き留めてるの。レギウスも何か必要な物ってある?」
レギウスは少し考えて、何か思い出したような表情をする。
「以前に言わなかったか?俺は情報が欲しいと」
「あー、そんなこと言ってたっけね。本が欲しいんだっけ?でも魔物の情報なんてあるのかしら」
私はうーんと鉛筆を口と鼻の間に挟んで悩んだ。
「人間には『コレクター』というものがあると聞いた。魔物にも詳しい奴がいるんじゃないのか」
「あー!なるほどね……て、どうやって探すのよ」
「知らん」
レギウスは一言言い放つと、自分の部屋に戻っていった。
「もー、欲しがってるんなら自分で探す努力もしなさいっての」
私は小さくブツブツと言いながら、買い物リストを用意した鞄のポケットに入れた。するとレギウスが自分の部屋から出てきた。
「あれ、レギウスどうしたの?それお父さんの普段着じゃん」
なんと部屋から出てきたのは、さっきまで着ていた物とは別の、懐かしく見る父の青い絹の服。
「出かけるんだろ。俺も行く」
そう言うとレギウスは、真っ直ぐ廊下を進んで玄関へ向かう。
「ちょっ!だから目立つからレギウスは留守番を――」
「俺はこんな所に一人でいるのが不愉快で仕方がないんだ!」
私の言葉を遮り、レギウスは怒鳴った。一瞬凍りついたように静かになる。
「……不愉快?」
「……!」
レギウスは何故かハッと驚いたような顔をして下を向いた。
「――俺は、冥界の王だった。周りには必ず配下がいる……誰も俺を一人にはしなかった」
「……」
私は静かにレギウスの話を聞いていた。
「同情するだろう?一人が怖い王など、真の冥界の王ではない!」
「そんなことない!」
大声で自分を見下すように責め続けるレギウスに、私は腹が立って怒鳴り返した。
「一人が怖いのは、いつも周りがそれだけレギウスを大切に思って、接していてくれたからじゃないの?」
「っ!!」
レギウスは目を見開いた。私は驚いているレギウスに、素直に思う意見を主張する。
「怖いのは、弱さじゃないよ。むしろ周りに王として認められてた証じゃん。誇りに思わないとダメだよ」
「だが、俺は――!」
レギウスがまた自分を責める発言をする前に、私はレギウスを後ろから抱きしめた。
「……レギウスらしくない」
「……」
レギウスは、もう何も言わなかった――。
――暫くしてレギウスが落ち着きを取り戻し、結局二人で買い物に行くことになった。
「ところでエリアス。さっきのは誘っていたのか?」
「はっ!?どういう意味よ」
「さあな」
……これから、二人で休日を楽しむのだ。