冥王の酒盛り
私は一変して荒れ果てた我が家のリビングを目の当たりにして声を絞り出した。
「な……なぜ」
私が我が家に帰ってくると、何故か部屋中お酒の匂いが充満しており、何故か部屋は荒らされ、何故かレギウスの他に男性が二人上がり込んでいた。しかもレギウス以外はうつ伏せに倒れて寝ている。
「酒くっさ!」
「なんだエリアス、帰ってたのか」
レギウスは床に座りながら酒瓶を持って普通に言葉をかけてきた。私は口をパクパクさせながら質問する。
「なっなっな……なんでこんな、ことに……てかこの二人は一体――」
「ああ。アークスとかいう奴と、シークとかいう奴だ」
「アークスにシーク!?なんで家に来てんの?つーか三人ともお酒臭い!何処からこんなにお酒持ってきたのよ!」
アークスは冥王を倒しに行った時の仲間で、シークはパーティーにいたシルクの兄だ……でも私より年下。
「質問が多すぎる。知りたければ起こせばいいだろう」
「あー無理無理!この二人お酒入ると呂律回らないんだから。それに起きないわよ、もう!この酔っ払い共め」
寝転がる二人をチョンチョンと足でつつく。するとアークスの方がムニャムニャと寝返りを打ち、私の足に頭を打って起きた。
「いてっ!――あー黒だな、ヌフフッ」
目を擦りながら気味の悪い笑い声をあげ、アークスは私のロングスカートの中を覗いた。いや、この場合覗いたというのか……。
「――どんだけ見りゃ気が済むの!」
「ぐわっ!」
私はアークスの顔を思い切り蹴った。通常なら避けるか止めるかするが、酔っぱらいの彼には無理だろう。そのままアークスの体は宙を舞い、廊下の方へ放り出された。
「てってめぇエリアス……俺を殺す気かっ」
酔いも覚めたのか、アークスはフラフラと立ち上がると身構えて私を睨む。
「こんなことで死ぬなら楽なもんでしょ。さっさとシーク起こして、私がいない間に何があったのか教えてくれるかしら」
私はニコリとアークスに笑いかけて言った。アークスは背筋をゾワッと震わせて「は、はいっ」とだけ言い、シークへ歩み寄る。
「おい、起きろよシーク。お前がぐっすりな間に俺は地獄を見ちまったんだぞ」
小声でそんなことを言いながら、シークの頬をぺちぺちと軽く叩く。
「――んーまだ眠いよぉムニャ……」
……シークは起きそうにない。
「仕方ないな、アークスがこの状況を説明してくれ」
「はぁっ!?覚えてねーよ、んなこと!」
アークスはそう言うと、待てよと考え出した。
「そういやー……俺とシークでエリアスの家の近くの酒場に飲みに行ってー」
「うん」
「酒場のゴロツキに絡まれて萎えたからエリアスの家で飲み直そうとしてー」
「……はい?」
「家に行ったら知らねー奴がいたから、とりあえず一緒に飲んでた」
「……で?」
「……すみません」
私の表情を見ながら話すアークスは、次第に私の顔色が怒りに変わっていくのと同じように青ざめていった。
「それで?レギウスはのほほんとしてる横で、誘った方が酔い潰れちゃったわけ?」
「は、はいっ!……レギウス?」
「あんたらいい加減に弱いのに酒飲むのやめなさーい!」
「はいぃぃぃ!!」
……こうしてアークスは、真夜中に潰れたままのシークを担いで家を出て行った。
「はあ、やっと静かになったわ……で?レギウスは酒飲んでも酔わない口?」
「俺は元々酒は好きだからな。余興を楽しみながら飲んでいた」
「余興?」
酒瓶を左右に揺らしながら自慢のように言うレギウスを冷めた目で見ながら聞く。
「部下が人間の魂で『お手玉』というものをやっていたな」
「えー、人間の魂?」
「人間の骨を傘に乗せて転がしていた奴もいた」
「……えー」
「それから――」
「あーもういいですっ!」
永遠と余興を説明していきそうなレギウスを止めようと大声で言った。
「なんだ、もういいのか」
「はい。もう結構ですから、はい」
レギウスはつまらなさそうに、ふんっと酒を飲み続ける。
「私も疲れたし、明日休みだし……久々に私も飲もうかな」
「ほう、俺と盃を交わしたいと?」
「そんな難しいこと言ってないわよ。ただ私も久しぶりにと」
レギウスの横に寝転がり、床に置いてある酒瓶を1本手に取り、机に置いたままの愛用のコップに手を伸ばして取り、注ぐ。
「エリアスは酒は強いのか?」
「もう私、二十三歳よ。アークス達より飲んでる方だわ」
気を楽にしながら久々の酒を楽しむ。若かりし頃は酒を飲むのにも抵抗があった。
「両親を……亡くしてからかしら」
「……」
眠くなり始めた私は、床に腕を交差させて顔をつけた。レギウスは私の横で、私の分も静かに酒を楽しんでいた。
再度確認したところ、人物名を誤って記入し矛盾がありましたので、訂正致しました。申し訳ありませんでした。